戦前日本のベストセラー『家庭における実際的看護の秘訣』に見る、医療の変遷
医療
ちよっと体調がおかしいな? 医者に○○病と診断されたのだけど、どんな病気で、どうしたら治るんだ?
よくあることではないでしょうか? ここで頼りになるのが、『家庭の医学』や、インターネットの医療サイトですね。
さて、昔の人はどうしていたか? なんと、千百回も増刷された『実際的看護の秘訣』という本がありました。気になるその中身をご紹介。「昔は変な民間療法が多いな」と笑っているそこの君! あなたの本棚にも、100年後、笑われそうな本は置いてありませんか?
はじめに
大正15年に発売された、『家庭における実際的 看護の秘訣』(筑田 多吉 著)という本があります。千百回も増刷され、文部省認定、厚生省推薦書となった本なので、もうベストセラーですね。
この本を紐解くことで、100年前はどんな病気が流行っていたのだろう。どんな治療が行われていたのだろう。今の医療常識と、どのくらいズレがあるのだろう。
これらを俯瞰することで、医療の進歩、古人の努力や知恵を体感してみることは、歴史、医療を考察する上で、役に立つ。そして何より面白い! と思います
100年前の家庭の医学、ちょっと覗いてみませんか?
目次案
プロローグに変えて:当時の死病 結核に対する治療法
第1章 感冒(かぜ)
第2章 消化器病
コラム:最新の、胃がんの薬
第3章 血液、代謝関係の病気
コラム:最新の、脳卒中の薬
第4章 糖尿病
コラム:最新の、糖尿病の薬
第5章 伝染病
コラム:最新の、感染症治療薬
第6章 神経系の病気
コラム:最新の、精神科の薬
第7章 小児の病気
コラム:少子高齢化で、小児科の薬の開発が進まない!
第8章 耳病と鼻病
コラム:最新の、めまいの薬
第9章 花柳病
第10章 処女の教育
第11章 家庭常備薬
コラム:上手なドラッグストアの使い方
プロローグ:当時の死病 肺結核
結核療養の医学的知識
○ BCG予防ワクチンの接種
大人、子供、赤ん坊でもツベルクリン反応陰性のものは未だ結核菌が体内に侵入しておらぬのだから、毎年1回このBCGの注射をしておくと肺病には罹らないのです。注射の跡が腫れたり、膿を持ったり、かさぶたになったりしますが直ぐに治ります、この注射は国法で強制です。
○ レントゲン検査 レ線と略す
肺の空洞の有無大小位置等、肺外科の適不適を決定するにはこの「レ」線の撮影無くては一歩も行動することが出来ないです。近来断層写真や立体写真のような精密検査も出来ました。
○ ストレプトマイシン(略してストマイと言う)
この薬は結核菌の発育を阻止して一時抑える薬で、結核菌を殺す力はないのだから十グラム(十本)位続けて注射しないと後戻りする。十本以上も注射すると抵抗性菌になって効かなくなる。十本位やって効力なければ止めた方がよろし。
○ パス
パラアミノサリチル酸の略称をパスと言うので、この薬は飲み薬だが少し苦く、1日10g以上という多量を飲む薬であるから費用もストマイより高くなり胃腸を害する副作用があります。
当時はレントゲンが最先端。薬物も2,3しか存在しなかった。これを考えると、検査、薬品の進歩を実感できます。ただし、結核は今でも恐ろしい病気。きちんと治療すれば治りますが、油断は禁物です。
肺の外科手術
○ 形成手術
肋骨を背骨の方で六、七本細かく切り取ると肋骨が内側に縮まって肺を圧縮し空洞をつぶす。
○ 合成樹脂充填術
この手術は空洞に近い方の肋骨を数本切り取って肋骨と肋膜の間にピンポン玉のような樹脂球を数個押し込んで肺を圧縮し空洞をつぶし、かつ空洞から気管支の方へ出口をふさぎ結核菌に空気中の酸素を絶ち菌を篭城させる方法で肺の中へ詰めた樹脂球は自然にその周囲を、被膜に包まれて動かなくなり結核菌が追い出されて健康回復し、丸々と太って働いている人もあります。
○ 肺葉切除術
肺は右は3葉、左は2葉に分かれ、1葉ごとに肋膜に包まれております。1葉の肺を切り取っても、又は片肺全部を切り取っても仕事にも生活にも別状は無いのであります。
ペニシリンなどの新薬がこの手術の化膿防止に大きな働きをするようになりました。
ここまでは、『まとも』に思える解説です。この先、嘘か真か分からない情報が載っています。今考えれば、噴飯ものの記事もありますが、教科書には載らない、昔の人の必死の努力を少し頭に留めておくこと。これはこれで、興味深いのではないでしょうか。
○ 頭のはげた人は結核病は発病しない
学理上の事は不明だけれども、今まで多くの病人を採り扱うた体験上の結論を得たのでありますが、頭の禿げている人、又は頭髪が赤くて細く、額の生え際の毛の薄い人は、皆卒中型の体質で、肺病型の腺病質でとは正反対の体質でありまして、めったに肺病は発病しないのであります。
○ 気腹療法と横隔膜神経切除術
気胸や肺の下葉にある空洞はつぶされないので肺の一部を切り取る肺葉切除術というのをやり出したのだが、こんな大手術をしないでも腹に空気を入れて横隔膜を肺の方に突き上げる気腹療法というのを近来アメリカで盛んにやりだしました
横隔膜神経を切って、この療法を助ける療法もあるのだが、横隔膜が肺のほうに上がりっぱなしになるのだからなるべくやらない方が良いと思います。
○ 冷蔵植皮術
と言う療法を盛んにやる人があります。この療法はロシアでは盛んに実行されて色々の病気に応用されているようだが、これは一種の刺激療法で灸のようなものだから、眼科や肺にも効果があるように評判されて居るが、まだ科学的にははっきり分かっておらぬ療法です。
○ (サナトリウム)海岸が良いか山が良いか
いずれにしても大同小異で大差は無い
○ 肺病肋膜炎の食事
野菜や穀類、海藻中の「コ」のつくものは皆優良の食品であります
「コ」ンブ、「ゴ」マ、「ゴ」ボー、「コ」ンニャク、「コ」ウヤ豆腐、大「コ」ン、林「ゴ」
「コ」メ、「コ」麦、キナ「コ」
○ 性欲の抑制法
性欲の亢進した場合には暫く目をつぶって息を吹き出したまま我慢の出来るまで呼吸を停止し、これを2,3回繰り返すと、妄想、雑念は自ら払われ勃興した性欲は全て消退します。
○ 南無妙法蓮華経で救われた
これは南無阿弥陀仏でもアーメンでも何でもよいのでありますが、自分の宗教に熱中すれば邪念を払ってお題目の念力で救われることがあるのであります。
○ 有効な民間療法
(1)ハブ草5匁、ゲンノショウコ5匁、ヨクイニン5匁を3合の水にて2合に煎じ、時間を定めず一 日中飲む
(2)うなぎ
(3)マムシ;微熱のひどい時、衰弱の激しい時 1回0.3グラム
(4)梅肉エキス
近来弘前医科大学細菌科でこの梅肉エキスにはペニシリン以上の抗菌性があることが発見され、第3回細菌学会に報告されております(筆者注;と、本には書いてあったのだが、本当かなあ?)
青野 誠さん
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