本書は、マレー半島の南端に「オーランラウト」──現在ではオラン・ラウト(Orang Laut)──を追った研究者の記録である。
オーランラウトとは「海の人」という意味で、海上生活民のことを指す。調査が行われた60年代の終わり頃、既にこの種の海の民はかなり減っており、著者もなかなかオーランラウトに巡り会えない。
本書では、前半部分を割いて、オーランラウトとは何かを語る。彼らに関する乏しい研究史をまとめ、当時のマラヤ連邦政府(現在のマレーシア)の記録を漁り、役所に照会し、徐々にオーランラウトに迫ってゆく。
後半では、ついに巡り会ったオーランラウトへの聞き取り調査の記録と、杭上家屋を持つ集落での滞在調査の結果からなる。この滞在調査が頗る詳細で頗る読み応えがある。
優秀なフィールドワーカーは文章も巧みな事が多い。文章には視点が映り込むからであろう。
なお、東南アジア地域で暮らす、オーランラウトより古い土着の民族に「ネグリート」がいる。昨年刊行された青山潤『にょろり旅
ザ・ファイナル』では、ネグリートの手を借りて新種のウナギを採取するさまが生き生きと描かれている。こちらも、優秀なフィールドワーカーによる巧みな文章が光る。
(古今書院、1969年、初版、「リージョナル・ブックス」シリーズ)
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