著者の中川雄太郎は、1910年生まれの版画家、郷土史家、教育者で河童研究者。自身の手になる表紙の力強さに惹かれて購入。
パラパラめくると、奥付にあるプロフィールには「瀬名生まれー瀬名歿予定」とあって更に面白い。
さて、瀬名は現在の静岡県葵区瀬名。今川氏所縁の地である。本書は、当地で生まれ当地に生きた中川氏が、年中行事等の民族文化を採集してまとめたもの。
在地の文化人がこの手の本を書く事は非常に多く、とてもではないが読み切れない。しかも、本書のように地元でしか流通しなかった少部数のものが大半なので、それらはお目にかかる機会も少ない。本書との間には縁があったという事だろう。
農村の年中行事という地味な題材故に派手な面白さはないが、力強い絵はもとより文章も独特の味わいがあり、膨大な写真からも著者の情熱と郷土愛をひしひしと感じる一冊。
なお、私の調べた限りでは、中川氏は奥付での公約通り、本書刊行の6年後に瀬名で没したようだ。
(水韻発行、明文堂書店発売、昭和四十四年、初版、B6版)
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