なんのために仕事をしているのかというのは人それぞれだと思う。ただ、どんな仕事でも一流と言われるレベルは存在する。
本書は、「20代の若手社員のための仕事術を教えてほしい」とお願いをして、齋藤孝さんに執筆いただいたものである。
当時、僕は星海社に転職をして半年が経ったところだった。あわよくば、この企画を通して僕自身の半人前な仕事のレベルを引き上げたいという下心を持ってオファーさせていただいた。
そうしてできあがった本のタイトルは『プロフェッショナル宣言』である。
そもそも、「プロフェッショナル宣言」とはなにか。
つまりプロフェッショナルを目指して、本格的に仕事に取り組むことを宣言するということです。
フランスの「人権宣言」やアメリカの「独立宣言」のように「私は今後、プロフェッショナルとして生きていく」ということを宣言するのです。
「えっ、それだけ?」と思った方もいるだろう。もちろん、宣言をしたからといって今すぐプロフェッショナルな仕事ができるようになるわけではない。覚悟を決めてから10年以内にプロになろう、というのが本書の主張である。
実は、ほかならぬ著者自身も、25歳のときに「プロフェッショナル宣言」を行っているというのだ。
学部はとっくに卒業し、プロの学者を目指しているのに学生扱いをされるのが、私はとても不満で、ある日から毎日スーツを着て大学院に行くようになったのです。
「私は仕事として論文を書いているのだ」と自分自身に、そして周囲に表明したわけです。
これが私の「プロフェッショナル宣言」でした。
非常にわかりやすい「プロフェッショナル宣言」である。自分自身に対して誓うだけでなく、意志を形にして周囲に表明することに「プロフェッショナル宣言」の真価があると感じた。
著者自身も、決して順風満帆の職業人生を送ってきたわけではない。ほかならぬ著者自身が、プロフェッショナルになるための下積みのような時期を過ごしてきているのだ。
当時私は33歳。結婚して子供が2人いて、でも無職でした。いろいろな大学の公募に応募していたけれど、全く相手にされない。論文をいくら書いても評価されません。「東大を出て、なんでこんなことになっているんだ」なんて思いながら、あちこち断られていたわけで、かなりしんどい気分でした。
そんな中、ようやく明治大学に採用してもらえました。選択肢はここだけ。実にさわやかに、ここで頑張ろうと覚悟が決まりました。
本書では、20代の若者に向けた様々な仕事の心得が紹介されるが、個人的に一番印象に残ったのは下記の記述である。
私の経験でも『声に出して読みたい日本語』は教育の方法として「音読」を提示した本だったのですが、「日本語の魅力」のほうが注目されてしまいました。「日本語の先生」のような感じで世の中で認められるとは夢にも思いませんでした。
その時は非常に戸惑いましたが「日本語に徹底的に詳しくなれば大丈夫だ」と考えて、日本語を研究して詳しくなっていきました。自分でビジョンを決めて、努力することは大事です。しかし、その過程で予想外の球が来たら、まずは打ってみる。偶然の出会いを大切にすることで成功に繫がるケースは非常に多いのです。
『声に出して読みたい日本語』の印象から「日本語の専門家」というイメージが強い著者だが、そのポジションは誤解を逆手に取って、努力の末に築いたものだということに驚いた。
「予想外のボールでもまずは打つべし」というわけである。
齋藤孝さんは、現在では研究や教育に加えて、多数の書籍の刊行やテレビ出演など、膨大な仕事量をこなすプロフェッショナルである。しかし、そもそもの本職は身体論・ミュニケーション論を専門とする教育学者である。
予想外のチャンスを現在の仕事(書籍執筆、「にほんごであそぼ」総合指導など)に繋げているのだ。
仕事を選り好みせず、努力によってチャンスをものにしていく姿勢は、おおいに見習っていきたい。
本書のなかで、著者は時には自らの失敗談なども交えながら、胸襟を開いて向かい合ってくれる。「こうしたほうが楽しいし、上手くいくよ」と励まし、導いてくれているようだ。
ここまで、その魅力を並べてきたが、ここに書かれている「仕事のコツ」は担当編集である僕自身ができていないことだらけだ。自らの仕事の問題点が明らかになったことはたいへん喜ばしいが、本当に耳が痛い内容である。そこで、早速自分自身の仕事に活かすべく、この場を借りて「プロフェッショナル宣言」をさせていただく。
わたくし、大里耕平は今日から編集者としてプロフェッショナルを目指すことをここに宣言します!
......これで「プロフェッショナル宣言」完了である。
本書の内容を参考にしながら、日々の仕事に邁進していきたい。
僕にとって本書がそうであるのと同じように、同世代の読者にも、これからの仕事人生を切り開いていく指針として本書を活用していただければ幸いである。
そして10年後には実際にプロフェッショナルとして活躍していただければ、担当編集としてこれ以上の喜びはない。
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