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HOME > 星海社新書 > 星海社新書 > 現代における温故知新こそ、まさに漢方薬である(レビュアー:津田彷徨)

星海社新書

現代における温故知新こそ、まさに漢方薬である(レビュアー:津田彷徨)

仕事に効く漢方診断

漢方薬は本当に効かないのか?

 漢方薬は効かない。
 これは私が医学生時代、大学病院のとある指導医から実際に言われた言葉である。

 当時は西洋医学に軸足をおく者にとって、漢方薬はある種の未知の領域に存在する薬剤であったように思う。あえて誤解を恐れぬ表現をするならば"胡散臭い"と感じていた医師も少なくなかったのではなかろうか。

 実際に私自身、西洋医学にその軸足をおく内科医であり、正直言って現場に出て漢方に触れるまでは、マニアの方がされているあまり客観的ではない治療といった印象を抱いていた。
 このように私たち医師でさえ、やや懐疑的な視線を向けていたこの漢方薬。それを一般の多くの方々がどのように思われているか、おそらく想像に難くないと思う。

 しかし近年、漢方薬に対する考え方や取り組みの見直しが進んできており、実際に医学生の教育カリキュラムにおいても、漢方の講義が取り入れられるようなってきている。これはつまり、以前より我々医師にとって、漢方が比較的身近なものになってきた証左であろう。

 となればである、次の段階としては医療関係者以外の方にも漢方の有用性を知っていただき、日常で上手く接してもらうよう試みることはまさに自然な成り行きと言えよう。

 だが残念ながら、ここに一つ大きな問題が存在する。

 それは漢方の考え方は従来の西洋医学の考え方と異なる部分が多く、正直にいえば、医学生でさえ漢方の授業においてその考え方や用語の違いに戸惑うことが多いのである。

 そのような漢方を一般の方々に伝えるためには、難しい漢方用語や医学用語が満載では決してならず、その上でわかりやすく平易に読め、かつ日常で気軽に役立つものでなければならない。
 このような贅沢かつ難しい要求を満たす書籍が長年望まれていたわけだが、本書はそれらの要求を満たすまさにマスターピースの一冊となり得るのではないかと考える。

日常的に使える漢方

 さて、そのような高い水準の要求を盛り込まれ、まさに漢方に触れる最初の一歩としておすすめできる本書であるが、そのタイトルは『仕事に効く漢方診断』。つまり日常生活を様々な仕事に埋め尽くされた現代人にとっては、まさにかゆいところに手が届くようなつくりとなっている。
 それでは現代人が悩まされ、そして漢方が有効だとして本書にあげられている症状の一部をここに列記してみよう。

 二日酔い、肩こり、便秘、疲労、風邪、冷え。
 これらは本書内で取り上げられる症状の一部であるが、このいくつかはみなさんも経験したことがあるのではなかろうか。このような日常的に悩まされることがある症状に関して、それを少しでも軽減することができれば、誰しもの日常は今よりも少しばかり素敵で快適なものとなることは請け合いであろう。

 では、果たしてそれは本当に漢方で可能となるのか?
 ここで実際に、私の二日酔いに関する漢方体験をあげてみたいと思う。若いころは多少お酒を飲めるほうだった私であるが、最近は年齢を重ねるにつれ、年々お酒に弱くなりつつあるのを自覚している。そのため、最近では翌日が休みではない限り、あまりお酒は飲まないようにしているわけだが、中にはどうしても断れないケースというものも存在する。

 その場合に取り出してくるのが、本書でも紹介されている黄連解毒湯。これさえ飲めばいくらでもガバガバ飲んで大丈夫......ということはないが、悪夢の二日酔いが軽減されるので、正直言って頭が上がらないお薬の一つである。

 もちろん上記はあくまで私個人のケースではある。しかしサラリーマンの方でも、取引先や上司との酒の席では苦労されている方も少なくないと思う。そんな際に、少しでも翌日を有意義に過ごせる可能性があるなら、是非一度漢方を試してみるのも良いのではなかろうか。

 もちろん二日酔い以外にも、先に記したように肩こりや便秘など慢性的な悩みになりうる症状に対して、漢方はその改善に寄与しうる可能性がある。だとすれば、このような様々な可能性を秘めた漢方という選択肢を、胡散臭いという理由だけで目を背けてしまうのは、あまりにもったいないと言えよう。

西洋医学と漢方

 さて、本書の著者である今津嘉宏先生は、元々食道外科を専門とされておられ、完全に西洋医学に軸足をおかれていた医師である。しかしながら現在は、本書を執筆されたことからも伺えるように、漢方医学の可能性を伝える立場となられ、まさにその最前線に立たれている。これはやはり、西洋医学にはない漢方の有効性を体感されたことが、その理由とのことだ。

 この西洋医学では効かない病気に対して、漢方が効果を示すというケース。これは臨床の現場において、決して珍しくはない光景である。実際に西洋薬が効かず悩んでいた時に、漢方薬を使うと嘘のように治ってしまったということも私自身しばしば経験したことがある。

 ただし断っておきたいが、近代医学の発展において決して西洋医学を否定することはできない。何より私自身は完全に西洋医学に軸足をおく人間であり、当然のことながらその有用性と効果、そして着実な発展は日々実感するところである。

 また漢方に関していえば、現代的な臨床研究の観点で見てみると、エビデンスと呼ばれる科学的根拠が弱いところが存在することは、残念ながら事実である。それ故に、漢方を第一選択にしているケースは正直いって決して多くはない。
 しかしながら同時に、西洋医学的なアプローチでは、どうしても指の隙間から溢れてしまう病気や症状があることも、これまた覆しようのない事実なのである。

 このような西洋医学では拾いあげることができぬ病気や症状は、当然のことながら昔の人々が経験してきたものも少なくない。となればである、まさにここにこそ、長い歴史で培われた漢方という先人の知恵を活かすことが良いのではなかろうか。

 大事なことは西洋医学が上か、漢方医学が上かということではなく、日々を健やかに過ごすために役立つならば、迷わずどちらも適切に使えば良いという考え方であり精神であろうと私は考える。だからこそ、これまでいささか歴史の影に追いやられていた漢方医学を改めて見なおし、そして現代的に再評価することが今こそ必要とされているのであろう。

 その意味において、これまで決して注目度が高いと言えなかった漢方医学に光を当てた本書は、仕事や生活を通して様々な悩みや病に晒される現代の我々にとって、日々の生活をより快活なものにしうるまさに必読の書と言えるのではなかろうかと私は考える。

書籍情報

仕事に効く漢方診断
タイトル 仕事に効く漢方診断
著者 今津嘉宏
ISBN 978-4061385870
発売日 2016年05月25日
定価 840円(税別)
amazon.co.jpで詳細を見る

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