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星海社新書

「文学」の正体は「空洞」だった(レビュアー:西島大介)

文学の読み方

ゴシップにも、作者の人物像にも興味がない

 さやわか著『文学の読み方』を読みました。著者さやわか氏とは2009年より「ひらめき☆マンガ学校」というワークショップでパートナーとして二人で講師を務めたりもしている仲です。

 さて、僕は純文学のよい読者で全くありません。毎度の「芥川賞」のニュースには興味がほとんど持てず、「どうせ編集者に促されるまま賞狙いで書かされた自由度の少ない模範解答的な小説群」だろうといつも思っているし、実際そのほとんどを読みません。仮にとある作家のとある作品が賞を得たとしても結果「ワイドショー出演や講演という、小説それ自体とは関係ない活動に勤しみちやほやされるだけでしょ」って考えるから、全く追いかける気になれない。

 つまり、雑にまとめると「そんなゴシップや本人の人物像に由来する文学とやらのあり方に興味ないし、でも絵に描いたようなフィクションは大好き! マンガとかアニメとかゲームとか」という人間です。ちなみに僕の職業は漫画家です。

 要は僕は「文学」に対してレッテル貼って、全体を知ったような気になって、「文学とは何か」という問題を自分なりに追及することなくぷいと背を向けているわけですが、この態度こそ、本書『文学の読み方』の序文において引用される又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』を読んだ和田アキ子の言葉「"純文学の匂いがする""文章に純文学を感じた"とかって......。(しかし自分は)何も感じなかったけど」とさほど変わらないものでしょう。

探偵小説のような面白さ

 本書は、この僕のような(あるいはアッコさんのような)「文学」に対する違和感を感じつつその根源的な理由について考えない態度を「小さなこと」と「笑って許して」はくれない一冊です。と同時に「文学を根拠なくありがたがる人」をも許していません。

 本書には村上春樹や村上龍に与えられた文学的評価と困惑を軸に、明治時代にまで一度さかのぼり、戦争を跨ぎ、現代に至る「文学」のルーツと変容を丁寧に辿っていきます。

 登場人物は多く、坪内逍遥、夏目漱石、森鴎外、島崎藤村、三島由紀夫、田山花袋、谷川俊太郎、石原慎太郎、橋本治、大塚英志、東浩紀、又吉直樹など。丁寧に「文学」を辿りながら、同時に著者には強い「疑い」の眼差しがあります。「文学とは何か?」「その根拠はあるのか?」という疑いはこの本を通して貫かれており、やがて驚くべき結論に達します。

 それこそが本書の主題の核となる「文学は錯覚である」という主張です。丁寧に「文学の正体」を探りながら、ついにそれを掘り当てたらそれはただの「空洞」だった。そんな不思議な探偵小説のような読書の面白さも、本書の魅力のひとつだと思います。

あらゆる表現にあてはまる普遍性

 本書のテーマは「文学」についてのものですが、そこで問われる「文字によって現実を描き出すことは可能か?」という議論は、文学以外のあらゆる表現にも当てはまります。「文学とは、人の心を描くものである」「文学とは、ありのままの現実を描くものである」とい二つの前提が、「文学」を「錯覚」させている大きな理由だと著者は指摘しますが、それは例えば『フリースタイルダンジョン』で注目される「ストリートをレペゼンするリアルなラッパー」像の「リアルさ」にも当てはまるし、ジブリアニメや新海誠作品の背景の「リアルさ」について考える上での補助線にもなるでしょう。空気系、日常系と呼ばれる四コママンガ作品軍や、アイドルに対する「ガチ恋」などにも思考の応用ができそうです。

 本書を読み終えて感じるのは、序文のアッコさんの言葉が、実は間違いではなく「文学」の真実を言い当てているのだなということです。漠然と信じられてきた「文学」が現在もなお「錯覚」だと判明したとして、果たして僕たちには何ができるのか......? 創作者、一人の漫画家としては、今まであいまいに避けていた「文学」への理解とともに、そんな問いかけをされたような気がしました。

西島大介・漫画家/DJまほうつかい

書籍情報

タイトル 文学の読み方
著者 さやわか
ISBN 978-4061386006
発売日 2016年09月21日
定価 880円(税別)
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