1995年に日本で最初の地ビールが誕生し、数年後に地ビールブームが到来、さらに数年後、そのブームは去りました。以降10年以上、地ビールといえば高くておいしくないもの、というレッテルを貼られたような状態だったと思います。
その潮目が変わったのは2012年くらいからでしょうか。アメリカで「クラフトビール」が流行りだし、その波が日本にも押し寄せてきました。大手メーカーのビールとは違う、様々なスタイルの"おいしい"ビールの到来は、日本のビール好きだけではなく、お酒好きにも新しい価値を示し、クラフトビールを扱うお店が劇的に増えてきました。
世はまさにビール黄金時代......とにかくたくさん、ビールのスタイルだけで160以上ある中で、黄金期をどう楽しんだらいいのでしょうか。
たとえば、日本の大手メーカーのビール(キリン 一番搾り、アサヒ スーパードライ、サントリー ザ・プレミアム・モルツ、サッポロビール 黒ラベル)は、数多あるビールのスタイルのうちのひとつ、ピルスナーというスタイルです。今まで「ビールは〇〇党だ」なんて会話をした方もいるかもしれませんが、その話題の範囲は決して広いものではなく、パンで例えるなら食パンの好みを話しているくらいのものです。バゲットもあれば、クロワッサンもあるし、メロンパンだってあります。今まで食パンしか食べていなかったところに、いろいろなパンがやってきたとして、さらにいろいろなパン屋さんができたとして、いったいどこから楽しめばいいのでしょう......? その指針となるのが本書です。
本書はビールのカタログ的なものではありません。ビールという楽しいお酒のどこに楽しみがあるのか、どうすればもっと楽しむことができるのか、どこに行けば、どこを見れば、そんなことを示してくれます。
ビールを楽しむという点で内容に偏りがなく、「全部入り」と表現してもいいくらい、ビール初心者が知っておいた方がいいことを網羅しています。ビールの歴史、醸造方法、原材料、ビールのスタイル、保存方法、グラス、注ぎ方、合わせる料理、ビールを使ったカクテル、ビールのイベント、さらには健康に関することまで、とにかく内容が豊富です。
初心者でなくても、改めて知ることや勘違いしていたことなど、ビール好きやマニアが読んで気づくこともあるかと思います。「このビールがうまい!」とオススメされることもありがたいとは思いますが、自分の好みのビールを見つけだし、日々のビールライフを充実させるノウハウを知ることこそ、「楽しむ」ということではないでしょうか。
この本は美味しいビールが紹介されている本ではなく、自分好みの美味しいビールを見つけ出すための本なのです。
本書のタイトルは『白熱ビール教室』ですが、この教室のカリキュラムは24時間分(5章立て24項目)あります。果たしてこの教室に通い、すべてのカリキュラムを終えた暁には、どうなるのでしょうか? もちろん、美味しいビールを飲むためのモノサシが身について、所謂ハズレを引くことが少なくなると思います。確度が上がるわけですが、損をしないためにこの教室に通うというのでは少し淋しい気がします。本書の根底に流れるビールへの想いは、ノウハウや薀蓄などではなく「いいんだよ、細けえ事は!(ただし美味ければ)」というもののように思います。
ゆえに、この本を読み終えた後は、ビールに関して寛容になっていることを期待します。正しい知識を身に着けることで、ビールとの時間をさらに楽しいものにすることができますが、その知識をひけらかしてしまうと、人の楽しみを奪うことにもなりかねません。ビールの楽しみ方も多様であるべきで、ビールを通じてこの世界の多様性を感じられたら素敵だと思います。ビールは世界中で造られて世界中で飲まれている数少ないお酒です。知れば知るほど面白いビール...... 最初の一歩は『白熱ビール教室』から踏み出してみてはいかがでしょうか?
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