ミリオンセラー新人賞 第3回座談会

年に3回行われるミリオンセラー新人賞の選考過程を余すところなくレポート。辛口・毒舌を交えつつ、編集部員とスペシャルゲストが、投稿された企画をひとつずつ真剣に見ていきます。

今回は、星海社初の〝公開〟座談会!

今井 えー本日は、お集まり頂きありがとうございます。第3回ミリオンセラー新人賞公開座談会をはじめさせて頂きます。そう、今回は「公開」です! いつもやってる星海社を飛び出して、下北沢のB&Bにお邪魔しております!

柿内 リア充の町にきて、心なしか今井くんのテンションが高い

今井 別にテンション高くないですよ! まずは審査員紹介をしましょう! 星海社新書編集部から3名お邪魔しております。一人目、編集長〝さおだけライター〟の柿内芳文です!

柿内 ライターじゃないよ! 初司会で緊張してんじゃねえぞ!

今井 あ、エディターです! すいません! さおだけエディターの柿内芳文です!

柿内 よろしくお願いします。

今井 続きまして、〝腹黒エディター〟竹村俊助です!

竹村 あーえっと、腹黒エディターの竹村ですよろしくお願いします。 俺が滑ったみたいになってるじゃねえか。 (ボソッ)

今井 あれ? 竹村さんなんかおっしゃいました?

竹村 いや、大丈夫です。

今井 最後はわたくし、〝リア充エディター〟今井雄紀です。

竹村 自分で言っちゃったよ (ボソッ)

今井 続いて、ゲスト審査員をご紹介します。まずは、ミリオンセラー新人賞アドバイザーであり、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者でもあられます、会計士の山田真哉さんです!

山田 どうもー。よろしくお願いします。

今井 最後に、「オレにも一言いわせろ!」と乱入してくださったのはこの方! 『20歳の自分に受けさせたい文章講義』の著者であり、プロライターの古賀史健さんです! 今回相当な怒りがあるとか?

古賀 いや別に怒ってはないですけど(笑) よろしくお願いします。

今井 以上5名で、本日進行させて頂きます。よろしくお願い致します。

柿内 最初に、ゲストのお二人の審査基準を聴いておこうよ。古賀さん、どうですか?

古賀 僕の基準は大きく3つですね。
[1]お役立ち度、その本を読んで明日からの生活に役立つものがあるか。
[2]情報の希少性、その著者じゃないと語れないこと、その本じゃないと知り得ないことが入っていること。
[3]文章のおもしろさ、これは、文章の巧拙というよりは、着眼点におもしろさがあるか。
この3つは、自分が書く時に気をつけているポイントでもあります。

今井 なるほど! すごく勉強になります。確かにおもしろい! と思う本て、これが揃ってるか、どれかが突き抜けてますよね。山田さんはいかがですか?

山田 僕は、自分が読みたいと思うかどうかですね。僕がおもしろいと思ったものを皆さんがおもしろいと思うかはわからないけど、僕がおもしろくないと思ったものを他の人がおもしろいと思うことは少ないと思うので。

柿内 山田さんの視点もとてもいいですね。僕ら編集者はついメタ的に見ちゃうんですけど、すごく主観的でいいと思います。読者に近い。

自伝なら、自費出版でどうぞ

今井 ですね! では早速はじめていきましょう! まずはこちら、『生きかた下手 転職王正己のハッピーライフ』

古賀 これはですね。読者が、ここから何を学ぶのかがわからないんですよね。著者の方のことを誰も知らないわけですよね? 基本的には。そんな中で彼の人生の話をされても、こちらはどうしていいかわからない。

柿内 Twitterでやって欲しいですね。

今井 Twitterって(笑)

古賀 そうですね。本て、「誰が、何を、どんなかたちで語るか」が基本だと思うんですけど、「誰が」が弱い以上、「何を」が強くないと企画としては成立しないですよね。このテーマなら、語るべき人は他に沢山いらっしゃるわけで。

柿内 ですよね。この人は「誰が」の部分が弱い。もしかしたら本人はそう思ってないのかもしれないですけど

山田 いやいやいや!「転職王」ですよ!? 強そうじゃないですか!

柿内 いや、確かに王はすごいですけど、これ、自分で言うもんですかね? 4年間で25社って書いてありますけど、これ2ヶ月で一社ですよね? 盛ってませんかね?

山田 いやいや! むしろ〝もってる〟人ですよ。

柿内 いやー(笑) この人、プロフィールを見た時から残念な気持ちになったんですよ。プロフィールを見て、読者に「読みたい」と思わせなきゃいけないのに、この人の場合は、「読みたくない」と思ってしまった。「無一文、コネナシ、経験なし、技術なし、彼女なしの状態から1年で年収1200円万を稼ぐトップセールスマンになり~」とか、超ステレオタイプじゃないですか。ジュンク堂行ったらこういう著者の本、100冊はありますよ。

山田 逆に考えると、ある意味本になりやすい題材ではあるってことですよね(笑) 「25社の面接に通る方法」とかで、ハウツー本に振り切ってしまえばいいんじゃないでしょうか? 25社目なんて、2年間で24回転職してる状態で面接受けるわけですよね? 普通にやったら無理ですよ。何かしらのノウハウがあるはずです。

柿内 さすが山田さん! 視点が違いますね。確かにそれならまだあるかもしれませんが、今回の応募作は、単なる自伝ですからね。これなら自費出版でどうぞという感じです。出版社は、読者にサービスを提供する会社であって、本を書きたい人にサービスを提供する会社ではありませんから。

古賀 ほんとそうですよね。この方に限らないんですけど、今回の応募者って、いわゆる「うだつのあがらない人」が多いじゃないですか。みなさん、自分の人生を一発逆転させる手段として本を出したいと思っていますよね。それは別に悪いことじゃないんですけど、そのためにはまず、読者を一発逆転させなきゃいけないんですよ。そこをわかっていない人が多すぎると思います。

「言い切り」で、書き手の覚悟を見せろ

今井 はい。では、次の作品にいきましょう。『社長のハゲ頭に納豆をかけろ! ~社員やパートが輝く75の思考パターン~』です。

柿内 この人は怒ってますねー。上司への鬱憤みたいなものって、万人に共通するものなので題材としてなしではないと思います。書き出しの感じとかは嫌いじゃないです。

山田 「そのうち静かなハイブリッドカーに轢かれるぞ!」とかね! ところどころウイットに富んでますよね。

古賀 これって、誰に怒ってるんでしょうね?

柿内 この〝社長〟なんでしょうね。

古賀 ですよね? じゃあ、そう明記すべきだと思うんですよ。そうしないと、不特定多数への悪口になってしまう。相手の見えない悪口って、読んでて気分が悪くなっちゃうんですよ。あと、75パターンは覚えられないですよね。数字に必然性も感じられないし。

山田 LifeHack本で「89」とかならまだわかるんですけどね。

古賀 確かにそうですね。あと多分なんですけど、この人は社長の頭に納豆はかけられない。

山田 確かにねー。どうせならハゲじゃない人にかければいいのに。そのほうが被害は大きいですよ。

柿内 山田さん、ツッコミが冴えますねぇ!

今井 ははは(笑)

柿内 まあ、とにかく中身がないってことですね。次にいきましょうか。

今井 あ、次の前にちょっといいですか?

山田 おお! リア充が!

古賀 リア充のありがたいコメントを聴きましょうか。

今井 ゲストの〝かわいがり〟が(笑) この方、内容紹介のところに「~みたいなメッセージを込めました。」と書かれていて、第1章の最後も「まさに今、必要ではないかと勝手に思い込んでる。」と書いてらっしゃるんですけど、全部言い切ってないんですよ。最悪そう思っていたとしても、こんな書き方では人の心は動かせないですよね。当事者意識が足りないと思いました。

柿内 なるほど。言い切るってことについては、古賀さんどうですか?

古賀 非常に大切なことだと思います。それは、書き手の覚悟を見せるってことですから。今の時代、TwitterやAmazonレビューで何言われるかわかんないですし、つい逃げ道を作りがちなんですけど、そこで逃げてしまったらやっぱりダメですよね。そうそう、ちょっと参考になる話があるんですけど、細木数子さんと江原啓之さんのテレビ番組って、一時期すごく流行りましたよね。あの人達の話術って、本をつくる上ですごく参考になると思っているんです。

柿内 おもしろそうなお話です。

古賀 江原さんの本は、自己啓発本によくあるような「君は大丈夫だよ。そのままでいいんだよ」というメッセージで、優しく包み込んでいくパターンでした。一方細木数子さんは、強い言葉でズドーンと人を落すじゃないですか?

山田 「地獄に落ちるよ!」とかね。

古賀 そうですそうです。人ってみんな怒られたい願望があるんですよ。江原さんだけでは満足できないんですよね。細木さん的に、断定口調で読者をどんどん押していく方法もあると思います。

今井 大変参考になるお話ですね。では、次にいきましょう。『負けるな! 頑張れ!! 介護現場~介護をめぐる批判的応援エッセイ集~』

竹村 これ、今回の中では一番よかったんじゃないでしょうか? 本を出す目的がはっきりしているのがいいですね。出すことが目的になってしまっているものが多い中では際立っていました。

山田 じゃあ、竹村さん本にしたら?

竹村 いや、それはまた別の話ですね(笑) 編集者って極々個人的な思いから企画を立てることが多いんですけど、僕は今、そこまで介護に興味がないんですよ。そこがもしあったら、企画化していたと思います。

山田 企画になりうるというのは、他とどこが違うんでしょうか? 京大だからですか?

竹村 京大卒! というのは、あざとくていいですよね。

山田 ですよね? この企画の何がいいって、あざといんですよね。

古賀 僕もこの企画はいいと思いました。これまでの介護の本て、「介護する側」がいかに大変かみたいな話が多いんですけど、この本は、「介護を受ける側」の視点で書かれているのがいいですよね。誰もがその側に立つ可能性があるわけですから。ただ、今のままだとレポートでしかないので、そこは改善の余地があると思います。「以上、現場からお伝えします」という感じでしかないので。例えば、今まさに介護を受けて幸せに暮らしているおばあさんのインタビューがあるとか。売れるかどうかはわからないけど、出す価値はあると思います。

柿内 僕もこれはいいと思いました。介護の話って家族の話なので、みんな他人事ではない。需要はあると思います。僕自身、先日亡くなった祖母が要介護者だったという経験もあるので。ただやはり、今はレポート止まりなので、何か柱が欲しいところですね。

山田 僕も、今回いいなと思った作品の一つなんですけど、この作品に足りないのは、「若さ」だと思います。若い人が介護問題について書いてる本てまだ少ないんですよ。せっかく若いし、京大出てるんだから、そこをなんとか活かして欲しいです。それができれば、10万部のポテンシャルはあると思います。

古賀 介護の話って、みんな目を背けちゃうんですよね。いつか直面するとわかっているはずなのに。あとこの作品は、ちょっとタイトルがまずいですね。いざ本になるとなれば、柿内さんや竹村さんの手が入って改善するとは思いますが。どれだけ中身がよくても、タイトルがよくないと読んでもらえないので、応募者の方は、そこも、気を遣って頂ければなと。

タイトル詐欺 やってもいいが 認めるな

今井 はい。それでは次の作品にまいりましょう! 『あなたも『神』になれる』

古賀 これはねえ。書き出しの部分でタイトル詐欺を認めてしまってるのがほんとにダメですね。

山田 あーこれはさすがの僕もやらないですね。

今井 ええ!? 山田さん!!

山田 いや、まあ冗談ですけど(笑) ちょっとタイトル詐欺かなと思っても、絶対に自分で書いちゃダメですよね。内容が割りと好きなだけに、書き出しはほんとに残念でした。

柿内 ちょっとメタ視点すぎますよね。

古賀 僕は、話の展開がかなりめんどくさいと感じました。回り道が多すぎて、自分自身が道に迷ってしまっている。

今井 目次はけっこう興味ひく感じで書いて下さってるんですけどね。ではでは、次にいきましょう! 『スピリチュアル 探求への旅』。この方は、他にも、『「資源共有社会」のススメ。』『「引き寄せの法則」を利用してみようズ!』を出して下さってますね。合計3作です。

柿内 この人はねえ。そもそも文章が下手すぎるんですよね。「文才がない」って書いてありますけど、そこを断ったからって、こっちのハードルが下がるわけじゃないですから。

古賀 あー! この人ね!

柿内 そうです。古賀さんが怒り狂った人ですよ(笑)

今井 史健怒りの座談会参戦! ですね。

古賀 いや、別に怒ってはないですけど(笑) 文章内にカギ括弧があまりに多いんで、ためしに数えてみたら90個もあって、それでちょっと気が狂いそうにはなりました。もはや、カギ括弧のない部分の方が目立ってしまってるんですよね。

柿内 これ、本人は多分多すぎると思ってないですよね。カギ括弧ってリズムを損なうので、ほんとに気をつけないといけない。あと、『「引き寄せの法則」を利用してみようズ!』はちょっとセンスがなさすぎますね。

竹村 そうですね。この方だけではないんですが、みなさん書く前に、一度誰かに話してみたらいいのにはと思いますね。とにかく客観性が足りてない。1回想像してみるといいのかもしれません。自分の名前と書こうとしているテーマで講演会をやった時に、何人ぐらい来そうかとか

ペンネームがダメな人は、中身もダメ

今井 はい。次は、これですね。『なぜその痛みはとれないのか?』。著者はkasuさんです。

柿内 kasuはダメだろカスは!!

今井 編集長が怒ってる‥

柿内 いや、FICTIONSの新人賞でもよく言うことだけど、ペンネームのセンスって絶対あるんだよ。そこのセンスが悪いと、中身も100%よくない! そこは編集者の仕事だと思ってるのかもしれないけど、そうじゃないからね。

山田 ペンネームはありますよね。本田健さんとかは、すごくいいペンネームですよね。世界で一番通用しやすい苗字と名前が「HONDA」と「KEN」だったからだそうなんですけど、彼の世界観をよく表してますよね。世界のどこでも通用する、普遍的なお金や幸せの法則を扱ってるわけですから。

必殺! マズロー指数!

古賀 この方のお名前はすごい気になりました。なぜかと言うと、プロフィールがすごい細かいんですよね。知り合いが見れば誰かわかるレベルなんですよ。しかも扱う分野が医療っていう、何よりも信頼の大切な分野。絶対に本名でいくべきだと思います。あと中身なんですけど、ちょっと書き方が怪しすぎるんですよ。マズローとか出てきますし

柿内 お! 来ましたマズロー指数!!

今井 (テンションが高い)なんですか? マズロー指数って?

柿内 説明しよう! マズロー指数とは、マズローが出てきたらその作品はもうだめっていう、カッキー独自の基準のことさ!! 瀧本哲史さんの、講演の最初にワイマール憲法に関する話をし、その理解度で学生のレベルを測る「ワイマール指数」を元にしているよ!

竹村 テンションたけえな (ボソッ)

山田 僕が投資の話の最初で、本多静六の話するのと一緒ですね。本多静六の話を知ってる人がどれぐらいいるかで、話す内容のレベルを調整するんですよ。

柿内 まさにそうです。いやもう、マズロー自体を疑って欲しいんですよ。しょっちゅう言ってるけど。まして医療みたいな誰もが懐疑的になる話をマズローで説明しようとしたら絶対にダメ!

古賀 マズロー出したら失格にしていいんじゃないですかね(笑) いっそマズローを否定する本の企画とか見てみたい。

柿内 それは是非読みたいですね。というわけで、この企画はなしです。次!

今井 はい。では続いて、『システムエンジニアはセブンイレブンであるべきか』

柿内 じゃあ、今井くんから!

今井 はい。この作品はですね‥。僕、前職でWebディレクターやってたので、SEの方々とお付き合いがあるんですよ。なので、普通の人よりは当事者意識を持って読むことができました。それを踏まえての意見なんですが、ターゲットが少なすぎるのではないかと思いました。ミリオンの可能性がどれだけあるか調べようと思って検索したら、日本のSE人口って、プログラマー合わせても35万人程度みたいなんですよ。データが2005年と古いものだったので今どうなのかと言われると困るんですが、倍になってたとしても70万人。日本の全SEが買っても、ミリオンには届かないことになります。あと、文章のところどころに「ここ笑うとこですよ!」という感じのテキストが挟んであって、それにイラッとしました。

山田 確かに、笑わせようとしているところありますよね。そもそもタイトルが、セブンイレブンも略して「SE」というダジャレですし。そういうくだらないところからの着想は嫌いじゃないです。気になったのは、100人インタビューのところですね。これを出版社の人がやってくれると思ったら大間違いですから。

古賀 確かにそこは、自分でやるしかないですものね。僕は、けっこうアリかなと思いました。SEの方って自虐的に、自分の業界のことを「3K」なんて言いますよね。「きつい」「帰れない」「給料が安い」って。そういうのがキャッチーだったりするから、けっこう認知されてる職業だと思うんですよ。そういう意味で、SE以外にも広がる可能性があるかなと。あと、SEとセブンイレブンが似てるのだとすれば、SEを通して、セブンイレブンのことを語る方がおもしろいと思いました。

柿内 それは確かにおもしろいですね! セブンイレブンがいかに×××クかを説明するのに使うとかね。

今井 ×××クって(笑)

柿内 (流して)この人、既に10冊以上出してるんですね。

古賀 それでこの文章か

柿内 あー! 古賀さんが怒ってる!!

古賀 いや、怒ってないです(笑)

柿内 色々言いましたけど、この人はきちんと、自分が語る意味のあるテーマで応募してくださっているのがいいですね。またぜひ応募してきて欲しいです。

どこかで聴いたような話なら、BOTでも書ける

今井 はい。では、次はこちら『それでも君は競争社会で働くのか』

竹村 これはよくわからないですよね。

山田 そうですね。このテーマについて、安定収入のありそうな医者のおじさんに語られても。という風に感じました。

古賀 こういう企画てすごい増えましたよね。目次の項目見てると、既視感がすごいあります。

山田 ◯◯出版さんの本で繰り返されてる類の話ですよね。

柿内 何も言えねぇ

山田 ええ!? 柿内さん、いつも「◯◯社なんてウンコだ!」とか言ってるじゃないですか!

柿内 い、いやほら、今日は観客もいらっしゃいますから、そのへんはちょっとごかんべんいただけたら、と

古賀 ビビってる(笑) この企画は、書き手の顔が全然見えないんですよね。具体性がすごく乏しいので、この人の書く理由がわからないんですよ。

山田 そうですね。これまでの人が見えすぎたってのはありますけどね(笑)

柿内 まるでBOTが書いたかのようですよね。

今井 まあ、そんなわけないですけどね! では次にいきましょう! 『サラリーマンは自営の気持ちがわからない』

山田 これ、次の『ノーモアブラック企業』と一緒にやっちゃっていいんじゃないですかね? 題材は違いますけど、同じ事を語っている気がするんですよ。『ほこたて』みたいな。

柿内 なるほど。では竹村くん、2つを関連付けておもしろいコメントをよろしく。

竹村 無茶ぶりが過ぎるな (ボソッ)

柿内 え? なんか言った?

竹村 いえ、大丈夫です。そうですね、『サラリーマンは自営の気持ちがわからない』の方は、なんか怨念みたいのがこもっていて、気持ちはすごく伝わってきますね。でも、お金を出すほどじゃないかな。古賀さんの基準で言う、「お役立ち度」が足りないと思います。

今井 僕ら審査員5人全員フリーランスですけど、僕らが読みたいと思わないってことは、そもそもキツいってことなんでしょうね。

古賀 この本はターゲットが間違ってますよね。タイトルにもある通り、サラリーマンへの恨み節なんだと思うんですけど、このタイトルと内容では、サラリーマンはまず買わない。

柿内 「私のことわかって!」が過ぎるんですよね。気持ちはすごいわかるんですけど、その伝え方はきちんと考えないといけない。自分の伝えたいことをどう料理したら、読者にとって役立つ、読んでみたいと思わせる情報になるのか。そこの考えが足りないかなと思います。

山田真哉、応募者作品をパクる

山田 次は『ノーモアブラック企業』ですね。この方は前回『質問・「縄文時代が終わったのはいつですか?」 答・「811年12月13日です」』というタイトルで出されてた方ですね。

柿内 山田さん、タイトルをべた褒めされてましたよね。

山田 はい。新刊でパクらせて頂きました。

柿内 !!!! まじですか? すごいですね(笑)

古賀 すごい!!

山田 『問題です。2000円の弁当を3秒で「安い!」と思わせなさい』という形で使わせて頂きました。

柿内 パクリじゃないです。〝インスパイア〟ですよ! 日本には、素晴らしい言葉があって素晴らしいですねー。ラーメン二郎をパクったラーメンを出しても、二郎インスパイア系ですまされるんですから(笑) いやでも、この方はガッツがあっていいですよね。前回の座談会のあと、Twitterで直接メッセージもらったんですけど、そこにも「真摯に受け止めて次またがんばります」と書いて下さってたんですよ。礼儀正しくて社会人としてきちっとした方だなと思いました。すごく期待もしていました。期待してたんですが今回もつまらなかったですね。あんなにいい人そうだったのに

山田 どうしてつまらないんでしょうね?

古賀 内容にオリジナリティがないんだと思います。新人の方がこれから書く本のタイトルに「ブラック」は入れちゃいけないですよね。ちょっと古い。また、その改善策もどこかで見たことのあるものばかりですし。

柿内 タイトルは『企業ホワイトニングの方法』とかならいいんじゃないですかね? 今井くんTwitterでたまに言ってるよね。「星海社は社休日をもうけ、只今企業ホワイトニングの真っ最中です」とか。

今井 はい。副社長も、一時期乱用していました。

古賀 ホワイトニングならまだいいと思います。同じ事言うにしても。

今井 あと読んでて気になったのは、ターゲットのバラつきです。従業員にアドバイスしている章もあれば、経営者に物申している章もあって、誰に読んで欲しいのかがわかりませんでした。

柿内 それはあるね。内容も普通の仕事術になっちゃってて、タイトルとずれてるところがある。内容的には星海社新書の『仕事をしたつもり』に通ずるところがあると思うんだけど、[1]「仕事をしたつもり」という新しい概念を提示しいてる[2]最強のビジネスマンである海老原嗣生さんが書いているという点で、全然違うんだよね。この人の経験が透けて見えればまた違ったと思うけど。

今井 なるほど。次はこちらですね『物語から見るポストモダン 平成に生まれた私達の話』

中学生の感想文は要らない

山田 これポストモダンの本じゃないですよね。

古賀 そうなんですよ。ポストモダンの定義もむちゃくちゃだし、純文学についても理解が浅すぎます。ロリコンについて一生懸命語ってるところもあるんですが、それも取ってつけたよう話。あと500冊ぐらい本を読んでから書いて欲しいです。阿部和重さんの本について書いてるところがあるんですけど、中学生の読書感想文レベルですね。

山田 そういう意味では読みやすかったですけどね(笑)

古賀 本人は評論のつもりなんでしょう。感想文と評論文て、当たり前なんですけど全然違うものなんです。感想文は「私が語るもの」なんですけど、評論文ていうのは「私じゃないところから光を当てるもの」なんですよ。客観性がなさすぎます。

今井 では次に行きましょう。『キミは大学に人生の時間を費やしてよいのか』

柿内 これはもう一言でしょう。「キミはこの原稿に人生の時間を費やしてよいのか」。

今井 バッサリいった(笑)

柿内 この作品はもうそれだけだよ。今回一番ひどかった。

行き先のわからないバスには、誰も乗りたくない

今井 では、最後いきましょう。『『不自由な奴隷』開放宣言』『アイデアの迷い方』。同じ方の投稿なのでまとめて。

山田 じゃあまず前者からいきましょうか。今井さんどうですか?

今井 この作品は、正直わからなかったですね。何が言いたいのかも、これを書いた動機も。ただ、目次にセンスは感じました。「少年よニートを目指せ」とか。

柿内 そう、キャッチコピーのセンスはあると思う。ただ、これはほんとにわからなかった。どうしようもない。

古賀 僕もわからなかったです。抽象的で観念的な空想の羅列でしかない。

山田 ゴールがわからないですよね。どこに行きたいかわからない。ミステリーはそれをおもしろさに変えてるわけですけど、ノンフィクションでそれをやるのは最低ですよね。

古賀 そうなんです。ゴールについて話をすると「バスの行き先理論」という理論があります。バスって、必ず「◯◯行」って書いてあるじゃないですか、あれがないと無茶苦茶不安ですよね。本も一緒で、フィクションであっても、ノンフィクションであっても、行き先の明示はすごく大事なんですよ。「この小説は高校球児が甲子園で優勝する話です」とか、「このビジネス書を読むと、毎日30分早く帰れるようになります」とか、その本の行き先をなるべく早く教えてあげないといけない。今回は全体的に、行き先のわからない作品が多かったですね。

今井 なるほど。全くその通りですね。『アイデアの迷い方』の方はどうでしたか?

柿内 これはちょっと説明しないといけないですね。この松久さんという方、第1回から皆勤賞の方で、一度竹村くんと2人で会ってるんですよ。その時に「例えばこんな企画」ということで、「アイデア本 100冊の結論」という課題を出してみたんですね。僕、ジェームス・ヤングって嫌いなんですよ。彼が提示した「アイデアは既存のものの組み合わせ以外の何物でもない」っていうアイデアの定義、あれをしたり顔で語る自称クリエイティブな人ってすごく多いじゃないですか。噓つけと。だから、アイデア本を100冊読んで、「アイデア」を再定義して欲しいと依頼しました。

今井 そうでしたね。で、その「答え」はどうでしたか?

柿内 いや、残念ならダメだったね。100冊読んでって言ったところで1冊しか読んで来なかったわけだから、ちょっと失望してしまった。山田さんはどうでしたか?

山田 僕これけっこういいなと思ったんですよ。『超訳◯◯』みたいな本て、出版業界全体で流行っているじゃないですか。この作品は、「けなす」という方法でそれをやろうとしてるんですよね。新しいと思います。

古賀 この作品の最大の欠点は、『アイデアのつくり方』を読んでないと何が書いてあるか理解できないってところなんですよ。読者に2冊買えって言ってるようなもんですからね。自転車のサドルだけ売ってるようなもので‥。書かされてる感がありすぎますよね。本人の書きたいものを書いた方がいいと思います。

柿内 そうですね。もう、アイデアの本は書いて頂かなくて大丈夫です。ご迷惑おかけしました。この人、語感や文章はいいんだけどなー。

足りないのは熱。本気の作品を

今井 はい。それでは全作品の講評が終わりましたので、審議に移りたいと思います。新人賞にあたる作品があったと思われる方はいらっしゃいますか?

※審査模様の掲載を割愛している作品もございます。

柿内 残念ながら今回もなかったんじゃないですかね。優秀賞はあるかも。客席のみなさん、気になった作品はありますか?

来場者の方 あの、わたし、『あなたも『神』になれる』の著者なんですが、もしよろしければ、アドバイスを頂けないでしょうか?

山田 おお! 僕たちが絶賛したあの作品ですね!

今井 手のひらを返した!!

柿内 あの素晴らしい作品の著者の方に来て頂いているとは光栄です。

今井 こっちも返した! いやでも、これがライブの良さですよね。みなさん、アドバイスございますでしょうか?

竹村 そうですね。現状だと、お金を出して読みたいとは思えなかったです。『完全教祖マニュアル (ちくま新書)』という本が個人的にも好きなんですけど、それとちょっと被ってますよね。でも、勝ってはいない。実地調査を丁寧されるとか、何か独自の強みを作られるといいんじゃないかと思います。

柿内 学校のプロデュースで成功されているとのことなので、そっちの手法を書いてくださった方がおもしろいかもしれません。自分のご経験を具体的に追うかたちで書くと、説得力が出てくると思います。

来場者の方 ありがとうございます。また頑張らせて頂きます。

今井 ありがとうございました。それでは、優秀賞の選考に移ってまいりましょう。僕は『負けるな! 頑張れ!! 介護現場  ~介護をめぐる批判的応援エッセイ集~』がいいんじゃないかと思いました。同じ題材で、違うテーマで書かれたものを見てみたいと、素直にそう思いました。

柿内 僕もこれがいいんじゃないかと思います。審査中も言いましたが、老いからは誰も逃げられないですし、介護の問題はジセダイの人間にとっても絶対他人事じゃないので。これは、優秀賞ですね。

古賀 いいと思います。僕は『システムエンジニアはセブンイレブンであるべきか』も優秀賞でいいのではないかと思います。文章はすごく甘いんですけど、着眼点はおもしろい。あと、ちょっとあざといんですけど、こういう題材はWebでバズる可能性が高いと思うんですよね。思わぬ売れ方をする可能性が、ないことはないかなと。リライトに期待したいです。

柿内 優秀賞、ありだと思います。竹村くんはどう?

竹村 異論ないです。個人的に推したい作品は今回なかったですが、みなさんを、応援しております。

柿内 変なまとめ方したね(笑) 山田さんはどうですか?

山田 会場にいらっしゃるからではありませんが、『あなたも『神』になれる』に、山田真哉賞を差し上げられればと思います。マンガの話を一切省いて、自分の実績から語って頂ければ、芽はあると思います。

柿内 いいですね! では、山田真哉賞はそちらで。古賀史健賞はありますか?

古賀 残念ながらないですね。ただ、もし今回の応募作を書きなおして、星海社宛てに送ってもらえれば、僕が添削して戻します。

柿内 すごい! でもそれって、全文をじゃないですよね?

古賀 そうですね。全文をやってしまうと大変なので。書き出しの数段落とかですね。

柿内 古賀さんの文章添削はミリオンまさに100万円の価値がありますからね。でも、ちょっと待った!! 編集者である僕が一度見て、これなら古賀さんに添削してもらってもいい、と許可したものだけにしましょう。才能あふれる古賀さんの限りある時間を無駄にしたいくないので!

古賀 ははは、わかりました(笑) つぎも呼んでもらえるなら、もっと本気の作品を読みたいですね。みなさんまだ片手間でやってる感じがしました。

柿内 本気というのは、大事なことですよね。星海社新書の著者陣は、新人さんも多いんですけど、みなさん「絶対にこれを伝えたい」という、熱を持ってくださっています。あまりスピリチュアルな話はしたくないんですが、その熱は絶対に読者に伝わるんです。これは間違いない。次はぜひ、熱のある本気の作品を読ませて頂きたいですね。

今井 はい。それではここで締めさせて頂きたいと思います。みなさん、長時間のお付き合いありがとうございました。また次回の座談会でお会いしましょう。

一同 ありがとうございました。