ミリオンセラー新人賞 第4回座談会

年に3回行われるミリオンセラー新人賞の選考過程を余すところなくレポート。辛口・毒舌を交えつつ、編集部員とスペシャルゲストが、投稿された企画をひとつずつ真剣に見ていきます。

今井 さあ! 座談会も4回目となりました。みなさん、よろしくお願いします!

一同 よろしくお願いします。

今井 今回のゲストは、ハマザキカクさんです! ハマザキさん、自己紹介をお願いします。

恒例のゲスト審査員は、“珍書プロデューサー、ハマザキカク”さん

ハマザキカク

ハマザキ 濱崎誉史朗と申します。今は都内在住ですが、チュニジアとフィリピンとイギリスで育った関係で、マイナーな国がすごい好きです。社会評論社という極左出版社で、ハマザキカクというあだ名で知られています。企画や編集、校閲はもちろん、デザイン・DTPも含めて自前でやっています。

山田 全部ひとりでってすごいですね!

ハマザキ 人がいないんで仕方なくやってたら、そうなっちゃいました。

柿内 読者はもちろん、「ハマサキカク」は書店員さんにもファンが多いですよね。有隣堂秋葉原のフェアとか、正直感動しましたもん。

ハマザキ あはは。ありがとうございます。

山田 どんなフェアだったんですか?

ハマザキ 秋葉原ってすごく外国人が多いんで、日本語がわからなくてもおもしろいような本を集めて、「Cool Ja本(PON)」ていうフェアをやったんです。自分の担当作も他社のものも含めて選書して、POPも書いて。あと、日の丸と、自分の等身大パネルも置きました(笑)

今井 おもしろすぎる!

ハマザキ 等身大パネルは、冗談で言ったらほんとになって。けっこういろんな人が話題にしてくれて、楽しかったですね。

今井 名刺も、すごいことになってますね! 社長とか、何も言われないんですか?

ハマザキ いや、むしろ奨励してくれてます。

山田 極左なのに、いい会社ですねー(笑)

ハマザキ 元々さして名前も知られてないんで、こういうゲリラ的なことをね。やっていかないと。

山田 元々は、革命家か何かされてたんですか?

ハマザキ いや、そんなことはないんですけど(笑)ずっとデスメタルをやってて、そのまま編集者になっちゃったって感じですね。

山田 なるほど。

柿内 ハマサキさんは、他に類をみない風貌ですよね。

今井 かっこいいデス。

柿内:そもそも持ち上げるような作品はほとんどない

柿内 さて、前回は下北沢の書店「B&B」にて公開でやりましたが、今回またクローズでやります。

ハマザキ 前回どうだったんですか?

柿内 けっこう盛り上がりました。投稿者本人も何人か来てくれて。ボロクソ言ったあとに、最後の質疑応答になって名乗り出るもんだから、「おお! 先ほどの素晴らしい作品の方ですね!」って手のひら返したりして。

今井 あの変り身はすごかったです。人間不信に陥りました(笑)

ハマザキ ミリオンセラー新人賞とか言っておきながら、僕なんか1万部も売ったことないんですけど、大丈夫なんですかね?

柿内 ぜんぜん大丈夫です! ハマサキさんの作品には、魂がこもってますから! 普段やってる通りの目でバシバシいってください。下手に持ち上げる必要はないですし、そもそも持ち上げるような作品はほとんどないと思うので。

ハマザキ いやー、けっこうきついのもありますよね。

柿内 「こんな作品はア◯ルに×ち××やる!」とかデスっぽく言っても、ちゃんと「つぎ、がんばってください」と翻訳されて(口述筆記されて)出てくるんで、思いっきりやっちゃってください。

ハマザキ わかりました(笑)

ラーメン屋の開業マニュアルには人生が詰まっている

今井 それでは、さっそく参りましょう! 『学校づくりの学校(スクール・メイキング・スクール)』。これからですかね。

柿内 前回「山田真哉賞」を受賞された方ですね。これはぜひ、山田さんからコメントを伺いましょう。

山田 もう少しテーマを絞ったほうがいいんじゃないかと言ったんですけど、その通り絞ってきてくれた感じですよね。「黒字のスクールはたった20%」、「講師のギャラを絞れば絞るほど授業の質が上がる」とかね。でも、今度は小さくまとまってしまいましたね

柿内 僕も悪くはないなと思って「△」を付けているんですけど、パイが小さすぎるんですよね。もっと広い範囲で、学校ビジネスについて語ってほしかった。

山田 塾に絞るのはいいんですけど、ハウトゥー本にしてしまうと、一気にターゲットが狭くなりますよね。う〜ん

柿内 この座談会を読んだ投稿者の人は、「山田さんが前回そう言ったから、その通りにしたのに!」と思うかもしれませんが、編集者対作家でもよく同じことが起こるんですよ。つまり、編集者は原稿を読んで「こうしたほうがいい」といろいろ作家に注文をつけるわけですが、そのまま言われた通りに直すと、「前のほうが良かった」なんて言われてしまう。なんでそう言われてしまうかというと、元の原稿にあった良いところまで直して(改悪して)しまっているからなんです。

山田 ああ、その状況わかります

柿内 編集者(他者)のアドバイスは真剣に聞くべきだと思いますが、深刻になってはいけない。かならず自分なりに咀嚼してから、原稿に向かい合ってもらいたいと思います。それで編集者になんか言われたら、「こういう考えがあってそうした」と言えばいいだけですよ。摩擦をさけて、言われた通りやるだけなら、作家も編集者も要らないですよ。ロボットがやればいい。

山田 その通りですね。じゃあ、この原稿に関していえば、さらに絞るってのはどうですか? 声優学校だけにして、オタク向けにするとか。

ハマザキ そうなると面白いですね。あるいは、カタログ的にいろんな学校業態の儲けのカラクリを解説するとかね。

柿内 どちらもあると思います。儲けのカラクリといえば、この前ラーメン屋の開業マニュアル(『図解 不況でも繁盛するラーメン・うどん・そば店の教科書』)を読んだんですけど、これがむちゃくちゃおもしろいんですよ!

今井 え? それ今関係あります?

柿内 (全く耳に入らず) そもそも何のためにラーメン屋をやるのか、立地はどこがいいのか、値段はいくらにするか、メニュー構成や座席の配置も含めて、「どうすれば儲かるのか?」ということが、マニュアル的に淡々と、徹底的に書いてあるんですね。で、たまに「ラーメンとは生き様だ!」みたいな熱いメッセージも入っていたりして(笑) 終始ラーメンの話ですが、僕には商売のあらゆる要素が詰まっていると感じました。社会人は全員読んだほうがいいですね。僕は3冊買って、商売のことを何も知らない実兄と友人に2冊配り、残り1冊は自分の永久保管書棚に入れましたから。

山田 なんですか「永久保管書棚」って(笑) それ言うと、塾業界もおもしろいですよ。ここにも書いてありますけど、先生のクーデターとかしょっちゅうありますからね。

今井 近くに塾作っちゃって、生徒みんな持っていっちゃったりとか、ありますよね。

柿内 クーデターと言えば、やっぱりラーメン業界でしょ。クーデター(?)後に二郎が生郎になったりしますからね。

今井 は??

柿内 吉祥寺のラーメン二郎は、「二」の字に赤マジックで線を足して「生」にしてるんだよ。圧倒的にクールだろ?

山田 あははは(爆笑)

ハマザキ でも、なんで「生」なんですか?「三郎」じゃだめだったんですかね?

柿内 たぶん、「二」の下になりたくなかったんでしょうね。三郎より二郎の方が偉いじゃないですか。成蹊大学の真ん前にあるので、成蹊大の人はみんなここに行くんですよ。僕は「生郎原理主義」と呼んでいて。ああ、そういえば武蔵小杉二郎は破門されたっけ

今井 (遮って)はい! では次にいきましょう!

柿内 いや、ちょっと待ってよ。じつはジロリアンに耳寄りな情報があって、しずるの村上純さんが某光文社新書シリーズで二郎の本を出すらしいんですよ、9月あたりに! みんな読みましょう! というか、みんなで食べに行きましょうよ!!

今井 このあいだ僕と一緒に目黒二郎を食べに行って、「二郎を残すヤツは二流だ、いや三流だ!」と言っていたのに、「今日は調子が悪いから」とか言って小ラーメンを残した人が何を偉そうに語ってるんだか。僕は初二郎にもかかわらず、がんばって大ダブルを完食したのに(蔑みの目)。

柿内 ええと、あああじゃあ、つぎの投稿作いきましょうか!

ちょっと自意識が強すぎます

今井 まあ口だけ男のことは放っておきましょう。次はこちらですね。『2013年、ほとんど男子は大江千里になりました〜予想されていた男子「承認」の時代〜』

山田 この人は、気がついちゃったんでしょうね。「あれ? もしかして今の時代って大江千里じゃね?」って。社会学者の人がよくやる手法なんで、それのマネをしたいんでしょうね。

竹村 気がついちゃった系多いですよね。思いつきの。

柿内 素人がそれをやろうとすると、どうしても寒くなっちゃうよね。テレビ局にお勤めだから、たぶん情報がたくさん入ってくるんでしょう。でも、咀嚼する力がないからキツイことになる。

竹村 柿内さんもちょっといま、キツイ感じですよね(ボソッ)

柿内

山田 ええと、大江千里だけで10章作っちゃうってのもすごいですけどね。

柿内 この人は3作品を送ってくれていますけど、どれも似たような感じですね。ちょっと自意識が強すぎます。

自分の立ち位置と、持ち味を、世の中にまだない真空の部分にマッチさせる

今井 次はこちらですね。『「仕事のやりがい」という宗教』。これもなんというか、よく見る感じですね。

ハマザキ 多いですよねー。

今井 こういうテーマを送ってきてくださる方って、プロフィールが残念な人も多いんですよね

竹村 どういうこと?

今井 いや、なんというか、プロフィールだけ見ると「資本主義社会で勝てなかった人」という感じの人が多いんですよ。震災とか、関係なく。

ハマザキ そういうこと書かれると、負け惜しみに見えちゃいますよね。

今井 そうなんです。読む気が一気に失せてしまう。

山田 しかもこの人は「フリーライター」なんですよね。書いて食べていこうとしてる人がこれだとちょっと

柿内 厳しいですね。文章うまくないですし。

ハマザキ 知人の看護師の惨状を聴いてって書いてありますけど、そんなんで書こうと思ったのなら、逆に感受性が乏しいんじゃないかと思ってしまいますね。地震も経験されてるぐらいだから、相当しんどいこと経験されてると思うんですけど

柿内 薄いですよね。先日ちょうど労働問題の本を編集した身としては、イライラすらします。

山田 なんて本ですか?

柿内 『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』という本です。

山田 いいタイトルですね! 興味が湧きます。

柿内 ありがとうございます。個人の怒りからスタートすること自体は全然いいと僕は思うんですよ。ただ、そこからどう動くか、ですよね。『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』の今野晴貴さんも、きっかけはこの投稿者と似たようなものだったと思うんですよ。でも、そのあと一橋大学の院に入って、労働についてしっかり研究をして、自分で労働相談のNPO団体も立ち上げて、それでようやく語ることができるわけです。

今井 こんなテーマ巷に溢れてるのに、なんで他の本を読んでから書かないんだろうって思うことも多いですよね。

柿内 あるある。類書をひと通り読んで、まだカバーできてないところがどこかをしっかり把握して、そこで自分が語れることがあるかどうかを考えて、それでようやく1冊書けるかどうか、というのがこういう本の現実なのにね。

山田 3日間図書館にこもってから書いて欲しいですね! まずはそこから!

ハマザキ おっしゃるっ通りですね。持ち込みとかでもよく、「今までこういう本はなかった」って人が来ますけど、あるから! と。本人が知らないだけなんですよね。

柿内 ひどいときは、同じ日に届いた持ち込みのテーマがかぶりますからね。どんだけありきたりなんだよ!!

今井 自分の持つ知識や経験の価値を、相対的に見る目も重要なんですね。

ハマザキ 自分の立ち位置と、持ち味を、世の中にまだない真空の部分にマッチさせる。これができてないものが多すぎますね。あと、「今までこういう本はなかった!」と言われた時に、それは誰もおもしろいと思わないからだよ! と思うこともけっこうあります(笑)

山田 ハマザキさんのとこには、そういう方がたくさん来そうですね。

ハマザキ 来ますねえ。「ハマザキさんならわかってくださると思い」ってやつ。

柿内 名指しで来ますよね!?

ハマザキ ありますね。「ハマザキ核様」って、「核」の字が核兵器の核になって送られてきたり。

竹村 やばい

今井 デスすぎる

柿内 持ち込みは、まともにぜんぶ対応すると疲弊しますよね。光文社の新人の時、持ち込み担当だったんですけど、すべてに本気で対応してたんですよ。「持ち込みに来るぐらいだから熱があるんだろう! 俺も熱があるから受け止めてやろうじゃないか!」と思って。むちゃくちゃしんどかったし、結果として徒労に終わることがほとんどでしたね

ハマザキ 持ち込みに来てくれる気持ち自体は嬉しいんですけどね。選んできてくれるわけだし。出来るだけ真摯に対応したいんですけど、正直独りよがりだったり、妄想に近いものもあって疲れる事が多いです。

元さおだけ屋からのタレコミ

柿内 持ち込みといえば、僕のところにすごい方が来たことがあります。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』が売れてる頃に編集部で仕事をしていたら、受付から電話かかって来たんですよ。「〝元さおだけ屋〟という方が来られていますが」って。

ハマザキ やばそうやばそう。

柿内 話聴きにいったら、「さおだけ屋の内情を暴露したい。まじでやばいから。ただ、名前とか地名は誤魔化したい。俺も命が危ない」と。新書向きじゃないんで写真週刊誌のFlash編集部を紹介しました。結局、掲載されなかったですけどね。

今井 でもその人は、当事者だったから「語る価値」のある人だったわけですよね?

柿内 そうだね。その人はある意味「当たり」だった。だって、あのさおだけの軽トラが×××まで集団で上陸して、×××××を×××××××××××××××××してたんだよ!!! やばすぎでしょ。まあでも、星海社は新人賞以外の持ち込みは一切受け付けていないので、今後も送って来ないでください。送っても読まずに捨てますんで。

激論!「オナ禁」!!

今井 次は『「オナ禁」のススメ』。おながわきんたろうさんですね。

山田 僕はこれ、評価高いですよ!

今井 僕もです。ペンネームもいいですよね。

柿内 確かに、ペンネームから覚悟が感じられる

ハマザキ 僕はこれ、そもそもなんでオナ禁しないといけないのかがわからなかったです。

今井 そうなんです! 効能が書いてないのはマイナスですよね。

柿内 それは駄目だろ。そもそも論として、できるわけないじゃん、オナ禁なんて! それに、万が一、アレの快楽に勝る強いメリットがあるなら、もういっそのこと切ってしまえばいいんだ!

竹村 切っちゃダメでしょ(笑) まあ柿内さんのは切ってもいいけど(ボソッ)

今井 できるわけないっていうのは、柿内さんの場合ですよね?

柿内 違うでしょ。人類はオナ禁は無理なんだよ!!

山田 いやいやいや、僕は擁護しますよ。時間の節約になるし。禁欲欲求が満たされるし。あと、最後に書いてありますけど、仮設住宅なんかにいる人は、実際に「できない」って状況にいる可能性もあるわけじゃないですか。そんな時にこのメソッドを知ってると、ストレスが減ると思いますよ。

ハマザキ 仮設住宅のところは、なるほどと思いました。ただ、それだったら逆に、「バレずにオナニーする方法」の方がニーズあるんじゃないかと思いました。

山田 そっか。僕、実は、似たようなことを大学受験の時に考えたんですよ。とにかく時間がもったいなくて。

柿内 僕は逆の発想でしたね。回数を劇的に増やすことで、むしろ勉学の能率が上がると考えていました。

今井 さおだけ屋チーム、まさかの分裂

柿内 まあでも、これだけ議論になるってのは、それだけテーマが優れてるってことなのかもしれませんね。

山田 そうだと思います。山田真哉賞は、山田真哉の名前に傷が付くんであげませんけど(笑)

おもしろいが、“武器としての教養”には成り得ない

今井 次はこれですね。『マスゴミ論 〜なぜスポーツ記者は"ナベツネ"が好きなのか〜』。僕はこれ、野球好きなのでおもしろかったです。

山田 僕も野球好きなのでおもしろかったです。

今井 文章も、元記者の方だけあって読みやすかったですし。

山田 ただこれは、星海社新書じゃないですよね。中央公論新社とかに持っていったら、普通に本になるんじゃないかな。ナベツネさんを褒めてる本て、すごく珍しいですし。あと他の見出しにも気になるのがるんですよね。「イチローが嫌われ〜」とか、「三沢光晴の死が〜」とか。

柿内 サイゾーっぽいですよね。見出しがうまいのはわかります。ただまあ、スポーツ紙でやってもらえれば、とは思っちゃうんですよね。雑誌の巻末コラムとかにあれば関心持って読むんですけど、新書でまとめて読みたいかと言われるとね。“武器としての教養”をコンセプトとする星海社新書から出す作品ではないですね。

「学校の勉強は無駄じゃない」という着眼点は悪くなかったが

今井 続いて、『学校の勉強を無駄と思うことが一番損します。』

山田 僕子供のころね、「書き順」てムダな知識だなと思ってたんですよ。どうせ同じもの完成するなら一緒じゃんと思って。

今井 わかります。

山田 でも、大学入って日本史の研究はじめたら、考えが変わったんです。古文書読むのに必須なんですよ。筆の動きみて解読するんで。その時にようやく「そうか! 書き順て、古文書読むためにあったんだ!」ってわかったんですよ。

一同 (笑)

山田 そういうのが、国数理社全部、具体的なエピソードで詰まってるなら、この本はありだと思います。

ハマザキ 確かに、そこを全部カバーできたら、おもしろい本になるかもしれませんね。

柿内 ありそうでないですもんね。二次関数が何に応用できるのかとか。

山田 ちなみに、一次関数「y=ax+b」は、簿記二級で出て来ますよ。aが変動費率で、bが固定費なんですよ。

今井 はー。なるほど!

柿内 おもしろい! でも、この人の目次案からは、そこまでの内容は期待できそうにないですね。

ハマザキ この人自体が学力低そうなんですよね。文章がちょっと

柿内 ああ、ハマサキさんの言う通りだ

ハマザキ ほんとにこの人、学校ちゃんと行ってたのかなと思うレベルですよ。

就活系新書は飽和状態

今井 『就活3度目の正直で学んだこと』ですね。

柿内 いったい何を学んだって言うのさ?

今井 え?

柿内 何も学んでないでしょ、これ。学んだものがあれば、それがタイトルに入ってるはずだし。何も学んでないから、雑多なものになっちゃうんだよ。

竹村 就活系は多いですよね。毎回1つはある気がします。

ハマザキ 若い人にとっては人生経験として1番大きいから、つい書きたくなっちゃうんでしょうね。

今井 「Google、Facebook、Appleの内定を取った学生が〜」とかであれば、読んでみたい気はしますけどね。

山田 就活系はどうしたら面白いの書けますかね?

柿内 もう無理ですよ。『面接ではウソをつけ』で終わりです。フィニート。少なくとも、僕の中では。あれ、ほんと面白いですからね。この間も「この本、最高におもしろいなー。著者も編集者も天才だなー」と思いながら、とても気持ち良く読みました。

一同 (笑)

柿内 この投稿もそうですし、『早稲田で学んだこと、外資系で感じたこと、僕らが考える社会のこと。』もそうですけど、同じ経験してる人はいくらでもいますから。自分で自分のことを特別だと勘違いしてるだけ。ブログでどうぞという感じです。

山田 アウトプットしようとする姿勢は悪くないと思いますけどね。

柿内 その通りですね。そこを批判するつもりは一切ないです。ただ、売り物になるかという視点で見ると、全然ダメと言わざるを得ない。

視点を変えて、テーマを“ズラす”

今井 続いて、『カウンセラーはウソをつく』ですね。

山田 これ今回イチオシです僕。臨床心理士の方とか、カウンセラーの方が診察しながら何を思っているのかって、普通に気になると思うんですよね。だから、ニーズは確実にあるかなと。

柿内 僕も友達に精神科医がいるんですけど、「診断とか、ぶっちゃけわかんないよ(笑)」って言っていました。薬を渡すマシーンに近いって言っていましたね。話をウンウンと聴いてあげて、さらに薬も出してあげれば、とりあえず患者さんは安心するからって。

山田 そうそう、そういうぶっちゃけ話を聴きたいですよね。今に限った話じゃないですけど、医療モノって大化けすることもあるじゃないですか。

ハマザキ そういう点で言うと、産婦人科の話は聴いてみたいかもですね。なんでそもそも目指したのかとか、毎日診察していてどんなこと思うのかとか

柿内 確かにそれはおもしろいですね。「性病科の医師が心の底から思っていること」とかね(笑) あ、良いタイトルだからメモらなきゃ

ハマザキ 肛門科の人とか、なんでそこ選んだんだろうって思いますもん。普通に。

柿内 知っている職業でも、“なんでそこ? ”ということはけっこうありますもんね。警察の広報官を取り上げた横山秀夫の『64』なんかもそうですけど、そういう選択をした人には、そういう人たちなりのドラマがあるんですよね。葛藤があって、板挟みになって。横山秀夫の警察小説って、刑事以外が主人公のことが多いんですけど、実はそこに“警察とは何か”というのが凝縮されてるんです。その“ズラし”が、うまいなあと思いますね。

今井 柿内さんのお友達で、肛門科の方とかはいらっしゃらないんですか?

柿内 肛門科はいないなー。医学部に行った友達はたくさんいるけど、けっこう偏ってるよ。消去法で専門を選ぶ人も多くて、そうするとまず消えるのが外科。責任が重いし、設備投資が大変すぎて個人経営できないから儲からないんだって。結果多いのは、皮膚科かな。次が、形成外科。

今井 皮膚科が多いのは、どうしてなんですか?

柿内 開業の設備投資もそんなに要らないし、低リスク(=人が死なない)で儲かるんだって。本気で儲けようと思ったら、やっぱり美容整形がいいみたいだけどね。プライドとか世間の目もあるみたいで、迷っていたヤツはいたけど、結局選択はしなかったな。

今井 世の中の選択には、なんでも理由があるんですね。

またも新人賞受賞者なし!

今井 では、ひと通り終わりました。新人賞受賞作があれば

柿内 ないっ!!

今井 な、ないですか? みなさんも大丈夫ですか?

一同 (うなずく)

今井 では、今回も新人賞はなしということで

柿内 今回は特にレベルが低かったですね。

山田 僕は、『カウンセラー』に山田真哉賞をあげたいんですが、いいでしょうか?

柿内 大丈夫ですよ。個人賞はもう、独断で決めちゃってください! 背中を押してあげたい人が押すべきです。

山田 この人は、きっとこの本をどこかで出すと思います。頑張って欲しいですね。

目があれば、特殊な経験など要らない

今井 それでは最後、感想を頂きたいと思います。ハマザキさん、いかがでしたでしょうか?

ハマザキ ふだん企画会議とか全くしないので、楽しかったですね。作品についてはそうですね、そもそも一緒に本を作りたいと思わせられる人がいなかったですね。内容いかんは抜きにして。何名かいらっしゃったと思うんですが、まだ本になってもいないのに文中に「本書では」とか書いてあると、「あー、この人とはやりにくそうだな」と思っちゃうんですよ。自分ひとりで本を作る気でいるのかなって。

柿内 それ、すごいわかります。

ハマザキ そこにセンスが出ますよね。読む人の気持を考えられないってことですから。あとやっぱり、「その知識は本当に自分だけのものか?」ということを、もう1回考えてから企画にして欲しいですね。大体は、どこかで見聞きしたものばかりでした。読書量不足が、原因だと思います。

山田 それはすごい感じますね。ちょっと人と違う経験をしたらそれがすぐ本になると思ってる人が多いんですけど、「経験」が本を作るんじゃないんですよね。先日献本でもらった『なぜ、真冬のかき氷屋に行列ができるのか?』という本があるんですけど、それなんて、著者の人がそのかき氷屋の近所に住んでいて、すごい素朴に「なんで冬でも行列ができるんだろう?」って思ったのがはじまりらしいですからね。結局気づくかどうかなんだなと。「経験」よりも「着眼点」です。

柿内 そうそう! テーマ自体の特殊性なんて必要ないんですよ。より大事なのは、山田さんの言うように着眼点と、さらに言えば「プレゼン」なんです。つまり、「どう伝えるか」ということです。ぜひ『ドラゴン桜』や『インベスターZ』で有名な漫画家・三田紀房さんの『プレゼンの極意はマンガに学べ』(ライティング:古賀史健。古賀さんの『20歳の自分に受けさせたい文章講義』は、この座談会を読む人の課題図書です)を読んで欲しいですね。冒頭に『ドラゴン桜』の第1話が丸々収録されているんですけど、三田さんの漫画家流プレゼンのメソッドがその第1話に凝縮されているんですよ。そこには、スゴイ熟考と努力と覚悟があってプロ中のプロだなと思いました。第一線で食い続けている人はこういうところが違うのだと思い知らされます。1冊だけサラッと書いて当てたいというような覚悟なら、応募してもらわなくてけっこう! 新人賞とはいえ、プロのマインドを持つ人を相手にプロの仕事をしたいなと思います。

第一章にすべてをかけろ!

今井 竹村さんはどうです? 何か言い残すことはありますか?

竹村 いや、もうここで語ることは無いですね。

ハマザキ 毎回こんなヒドイんですか?

柿内 今回は特別ヒドイという感じですね。今井くんは?

今井 ハマザキさんも仰ってましたが、応募者には“世界でこれを語れるのは自分だけだ! ”というテーマを探して欲しいなと思います。思い込みも大事なんですが、同時に「客観性」も持ってほしいなと。あと、出し惜しみしてるのかなんなのかわからないですけど、目次はそれなりに面白そうなのに、第1章が全然おもしろくないっていう、勿体無い作品がいくつかありました。読者が立ち読みするのも一章だし、僕らが審査するのも一章だけ。本の1割程度かもしれないですけど、そこがおもしろければ後の9割もおもしろいだろうと、みんな勝手に推測してくれるじゃないですか。それぐらい大事なとこなんだから、そこに命をかけて欲しいですね。

柿内 「命をかける」のは大事だよ。この座談会の原稿もね、まだ命をかけてまとめているようには、僕には思えなかった。

今井 えっ! す、すいません。

柿内 だって「今野晴貴」が「今野春貴」になっていたりするんだもん。一緒に何度も本人に会って、彼の熱量に触れたでしょ? だとしたら、名前を間違えるなんてことはできないはずだし、それはまだ本気じゃないってことなんだよ。著書名も間違っていたし。

今井

柿内 一度まとめたら、みんなにチェックしてもらう前に、何度も何度も読み返さなきゃ。たぶん、一度もプリントアウトして読んでないでしょ。モニターだけでチェックしてるから、間違えに気付かない。大事な「客観性」を担保できない。もしくは、たいした問題じゃないと勘違いしているかどっちか。後者だとしたら、あとで校舎裏に来てもらわなきゃ。

竹村 ブラックや(ボソッ)

柿内 しょっぱなの見出しも「高齢のゲスト審査員はハマサキカクさん」ってなっていて、「おいおい、ハマサキさん何歳だよ!」って思っちゃったし。

今井 ハマザキさんです。

柿内 あああん?

今井 ええと、いまさら非常に言いづらいのですが、ハマサキではなくハマザキさんです。

山田 あーあ、せっかくいいこと言ってたのに

竹村 口だけ男(ボソッ)

ハマザキ ずっと気づいていましたけど、べつに俺はどっちでもいいっすよ。

柿内 ああ、ええと

今井 。僕も柿内も、引き続き精進させて頂きます! 次回こそ新人賞が出るのを願って、今日はお開きとさせて頂きます! みなさん、ありがとうございました!

一同 ありがとうございましたー!!