ミリオンセラー新人賞 第2回座談会

年に3回行われるミリオンセラー新人賞の選考過程を余すところなくレポート。辛口・毒舌を交えつつ、編集部員とスペシャルゲストが、投稿された企画をひとつずつ真剣に見ていきます。

柿内芳文(星海社シニアエディター、星海社新書編集長、通称「さおだけエディター」)

竹村俊介(星海社エディター、「腹黒エディター」)

岡村邦寛(星海社アシスタントエディター、「地上げエディター」)

今井雄紀(星海社アシスタントエディター、「リア充エディター」)

山田真哉(公認会計士、作家。ミリオンセラー新人賞アドバイザー)

6月18日 星海社会議室にて

岡村 では、今日の座談会のために特別に用意したお菓子もそろったことですし、第2回ミリオンセラー新人賞の座談会を始めますか!

柿内 おうよ! お菓子、楽しみだなー。

山田 か、柿内さん、まじめにやってください。また太りますよ(笑) とにかく、よろしくお願いします!

今井 僕は初参加なのでドキドキです。山田さん、5月から星海社に合流した今井と申します。どうぞよろしくお願いします。

山田 はい、噂は柿内さんから聞いていました。なんでも、けっこうな「リア充」だそうで。

今井 えっ!? や、山田さんまで

柿内 そうだ! 今井君、初めて見る人でもわかるように、ちょっとおもしろおかしく、ツイッターのフォロワーが軽く300人増えるような自己紹介をしてみて。

岡村 おっ、さっそくの「かわいがり」ですね。

山田 あはは(笑)

今井 5月から星海社に合流した今井雄紀です! 滋賀県出身、社会人5年目の26歳で、編集経験はありません。社内でのあだ名は「リア充」です。星海社のみんなが非リアすぎるだけで、たいしてリア充じゃありません!

竹村 いきなり内部批判かよ(ボソッ)

柿内 Facebookの「友達」が850人もいるくせに、よく言えたもんだ。あと、その自己紹介で、どうやって300人もフォロワーが増えるの?

今井 ご、ごめんなさい。

岡村 ホンマのかわいがりや

柿内 まあ、いいや。その代わり、850発の〝今井ともだち砲〟による当座談会の拡散を業務命令とする!

今井 りょ、了解です、司令官!

柿内 行くぜ、星海社!!

竹村 なんだ、この三文芝居(ボソッ)

宝島SUGOI文庫をDISる、編集長

岡村 さて、かわいがりと三文芝居はこのへんにして、さっそくですが柿内さん、どうでした今回?

柿内 うーん悲しい、じつに悲しいよ。ミリオンセラーどころか、書籍化の〝し〟の字もまだ見えない。

岡村 しょっぱなから辛辣ですねー(笑)。前回は新人賞はナシ、けっきょく優秀賞をふたりに出したわけですが、彼らはその後どうなったんでしたっけ?

柿内 『不倫の値段』を書いた露木幸彦さんと、『占われるプロになる』の松久新さんだね。『不倫の値段』は視点がいいし、中身もリアリティがあったので、「惜しい!」ということで優秀賞に選んだんだけどまだ書籍化するレベルではないという判断。星海社の読者層にはいまいちフィットしていないし、出したところで厳しいんじゃないかな、と。実際に露木さんにもお会いして、竹村君と一緒にいろいろ話をしたよ。

山田 へー、会ったんですね。

柿内 そうです。とにかく会わなきゃ、はじまりませんからね。で、この企画、結論から言うと、「宝島SUGOI文庫」でメデタク本になりました! おめでとー!!

岡村 えっ、そうなんですか!?(驚) なんで、うちじゃなくて宝島社??

柿内 優秀賞を出してから、けっこうすぐの発売だったね。おそらく、原稿をぜんぶ書かれていたんでしょうね、すでに。

今井 えーと、それってOKなんですか?

柿内 もちろん、OKだよ。他社で出すことが決まっているものを送られても困るけど、決まってないものであれば、ぜんぜん問題ないです。

山田 『不倫の値段』は、宝島SUGOI文庫に適したテーマだったかもしれないですね。

柿内 たしかにそうですね。星海社新書だと、タイトルも中身も、ターゲットに合わせてもう少し練る必要があったと思います。えっと、宝島なんとか文庫のタイトル、なんだっけ?

今井 (PCの画面を見せながら)これですね。『みんなの不倫 お値段は4493万円!?』。

山田 ふ~ん。

柿内 「ふ~ん」って(笑) でも、今の山田さんのリアクションがすべてを物語っている気がしますね。メインタイトルとサブタイトルがあんまりリンクしてないですし、これだと不倫の事例集みたいに見えてしまう。もともとの企画は「ひとつの不倫事例に関わった3人の登場人物が、章ごとに登場する」っていうところがおもしろかったのに、そこが消えてなくなってしまっているような。「みんな」って誰なの? 日本国民なのか、男性全員なのか、不倫中の人たちなのか?「みんな」という言葉に、パワーがまるでないですね。表紙も、フリー素材から適当に引っ張ってきたようなやつだし

山田 ちょっと爽やかになっちゃいましたね。これだったら、『不倫1年生』といったタイトルのほうがよかったかも。まあでも、本になるクオリティのものが来てたってことで、いいんじゃないですか?

柿内 いや、来てないですよ! そこに達してないやつを、早急に本にしちゃったんじゃないかなー。

岡村 おっ、柿内さん、宝島さん批判ですか?(ジト目)

柿内 えっ!? い、いや、そういうわけじゃ。今井くん、いまのところ、批判にならないようにうまくまとめといてね。

岡村 いや、そのままでいいよ。

柿内 いやいや、マジ頼むから。宝島、仲良い人多いし。

山田 ははは(笑) ま、本になるクオリティのものが来たわけじゃないとしても、宝島の編集さんが「これは面白そう!」って、僕らと同じように思ったってことですよね。

柿内 そうですね、それは言えると思います。企画としては間違いなく面白いですからね。でも、『みんなの不倫』っていうタイトルは、やっぱりないなー。

岡村 断言しましたね。「タイトルの魔術師」を自称する柿内さんなら、なんて付けます?

柿内 それ、やめてよ(苦笑) 自分で自分のことを「魔術師」とか、痛すぎるから。中2じゃあるまいし! 俺も、毎回タイトルを決めるときはドキドキだよ。最近売れた『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)って本も、タイトルがいいですねーって言われることが多いんだけど、タイトルがなかなか決まらなくて、300個も案を考えたからね。久しぶりに悶絶したよ。

今井 そ、そんなに

柿内 そうなんだよ。で、売れた今となっても、もっと良いタイトルがあったんじゃないかって、考えてるからね。毎回、試行錯誤の連続だよ。いつも100%のタイトルを魔法のように生み出せる魔術師なんて、どこにもいないどこにもいないんだ(遠い目)

今井 。なんか柿内さん、弱気ですね。あの革ジャンの人みたいに、「俺はすげー、俺は魔術師だっ!!」って言い切ってくださいよ(笑)

山田 そうそう、言い切りましょうよ。

柿内 そ、そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて。お、俺はすげーぞ! 今井君、こんな感じで、いい?(犬のような眼差しで)

今井 (苦笑)やっぱり柿内さんは今のままでいいです。

岡村 (いたたまれなくなり)話題がズレちゃいましたが、『みんなの不倫』、柿内さんだったらなんてつけるんですか?

柿内 そうだなー、4493万円という値段をもっと前面に出すか、あるいは、この企画のいちばんのポイントである、「主人公(モテモテの医者)・不倫相手A(女子大生)・不倫相手B(看護婦)」の3人の登場人物のことに触れたものにすると思う。そこが、行政書士の露木さんのインタビューであぶり出されてくるってのが、この企画の肝だからね。「みんなの不倫」だと「奥行き」が出ていない。企画の面白さが、あまり表に出てきていないよ。本屋で目にした読者との対話も、これじゃあ生まれない。

竹村 そうですね、僕も本屋でスルーしちゃいますね。

柿内 あっ、でもアマゾンの内容紹介を見ると、3人の登場人物の三者三様のところは省いたのかな?

山田 たしかに、そういった話じゃなさそうですね。柿内さん、ちょっと本を買っておいてもらえますか? 今後の企画の参考にしたいので。

柿内 わかりました。山田さんも、ついに不倫の本を書くんですね(笑) ところで、山田さんだったらどうタイトルつけます?

山田 そうですね、僕だったら『不倫とお金』かな? シンプルに。

柿内 おっ、それいいですねー。現代アーティスト・会田誠さんの名著に『青春と変態』っていう小説があるんですけど、それもすごい奥行きのあるタイトルでいいんですよね。「青春」と「変態」がどう結びつくのか、すごい気になります。本屋で目にしたら、間違いなく立ち読みしてしまうパワーがある。それと同じですね。

岡村 (PCで検索して)。たしかに、これはすごく変態性とパワーを感じる本ですね

山田 うわっ、この表紙のイラストはヒドイなぁー(笑)

竹村 帯の文言もすごいですよね。「ウンコの固いキミに初恋♡」って

柿内 (笑)とにかく、「青春と変態」はすごくいいタイトルだから、谷崎潤一郎みたいな重厚な書体の装丁にして、文庫で出し直したほうがいいって、前職の光文社時代に文庫編集部の人に言っていたら、実際、同じ会社から新装版が出ましたね。やっぱり、みんな同じことを考えてるんだなーと思って。

山田 断然こっちのほうが、手に取りやすいですね。

柿内 この本、ホントに「知る人ぞ知る名著中の名著」だから、みんなに読んでほしい。「覗き」がテーマなんだけど、まぎれもなく覗きは青春なんだよなー。

岡村 柿内さんがよく言っている、「歌舞伎町のニュー○○○○○○○に行けば合法的に覗ける」ってやつですね。

山田 えっ、なんですかそれ?

柿内 お、岡村くん、余計なことを言っちゃダメ! 今井君、ここの部分は消しといてね。

今井 は、はい!(ニヤッ)

求む!『アイデア本100冊の結論』!

山田 不倫の話で20分も使っちゃってますけど、優秀賞のもうひとりの方は?

柿内 松久さんですね。占い師の弟子をしている方。今回も応募してくださっています。竹村くんと一緒に会ったよね?

竹村 会いましたね。なんと、はるばる北海道から来てくれました! 彼女は文章も書けるし、構成力、調査力もあるので、こちらからも企画を提示したんですよ。

柿内 そうそう、ムチャぶりをしたんです。べつに必ずそれを書いてくださいってお願いしたわけではないんですけど、「こういうのはどうですか?」って。参考資料も何冊か送って。ただ、今回応募してくださった作品は前回の続きだったので、僕らが投げた提案がどう出るのかは、次になりそうですね。もしかしたら、ぜんぜん違うのものを送ってくださるかもしれませんが。

岡村 なるほど。

竹村 ちなみにその企画は「アイデア本100冊の結論」というものです。

岡村 あー、柿内さんがずっとやりたいと言ってる企画ですね。

柿内 ジェームス・W・ヤングが「アイデアは既存の要素の組み合わせにすぎない」というアイデアの定義付けをして以来、それを上回る定義が何も出てないんだよね。それは本当につまらない。だから、「それ以上の定義を導けるのかどうか?」という命題を持ちつつ、アイデア本と言われるジャンルの本を洋の東西100冊読んで、その結論を1冊にまとめてもらえたら、と思う。松久さんはアイデア本どころか、ビジネス書もほとんど読んだことがないらしいので、そこがまたいいな、と。

山田 どうしてそのほうがいいんですか?

柿内 読んだことがないからこそ、客観的な視点で書ける、「探偵」気分で書けると思ったんです。どっぷりハマっている人だと客観視ができないので。より読者の立場に立てると思うんですよね。

山田 なるほど。だとしたら、「アイデア本100冊の結論」というテーマで、次のミリオンセラー新人賞の応募があってもいいかもしれませんね。松久さん以外から。

柿内 なるほどね、たしかにそれはいいかもしれません! 同じ企画が5つぐらいあって、比較できたらすごく面白いと思う。まったく同じ企画でも、書き手によって、アプローチによって、こうも違ったものになるのか、ということが端的に伝わるのではないでしょうか。

岡村 柿内さんと山田さんがそう言っています。ぜひみなさん、「アイデア本100冊の結論」をご応募ください!

竹村 いや、誰からも来ないでしょ。大変だもん。無理だよ。

今井 た、竹村さん

柿内 出た、腹黒エディターの腹黒コメント!

竹村 誰が「腹黒」だよ!!

新人賞はプレゼン。冒頭にいちばん面白い話を書かなくてどうする!

岡村 では、前回の復習もたっぷりできたところで、第2回まいりましょう!

柿内 テンポ良くいきたいですね。ぜんぜん今、テンポ良くないですけど。

竹村 柿内さんがしゃべりまくってるだけですよね(ボソッ)

山田 あーそうそう、最初に言っておきたいんですけど、前回の座談会を見て、僕の講評が「甘すぎる」ってネットとかで言われたんですけど、そりゃそうなんですよ。

柿内 そうですよね(笑) 山田さん、編集者じゃないですし。

山田 そうなんですよ。一般の人は、編集者も作家も同じだと思っているかもしれないんですけど、将棋で言ったら、作家って編集者の駒にすぎませんからね。飛車・角・王将レベルなら、丁重に扱ってもらえますけど、多くはそうじゃない。だから僕は、将棋の〝駒仲間〟として、投稿者に愛情を持って接しているということをわかってもらえればと思います。

柿内 いい話だなー。うん、感動した。やっぱり愛だよ、愛!

岡村 そうですねー。では、『敗者から学ぶ、人世論』、これからいきましょうか。

竹村 岡村君は、まったくいいと思ってないよね(ボソッ)

山田

柿内 まあ、いいじゃない。とっとと山田さんからいきましょう。テンポ良くね。で、山田さん、この原稿どうでしたか?

山田 そうですね、僕はわりと好きでしたよ。

柿内 へー、どのへんがよかったですか? それも愛なんですか?

山田 愛というより、ダークサイドですね。人間って、僕も含めて少なくとも半分は、こういう話が好きなんですよ。堕落や転落の話。人の不幸は蜜の味ですからね。

柿内 僕も人の不幸が大好きですよ! 敬愛する氷室狂介氏も「人の不幸が大好きサ」と言ってますから。

一同 (苦笑)

山田 ですよね、ですよね? だから僕は、この本が品川駅の本屋さんで500円で売られていたら、買うと思いますよ。で、新幹線で読む。特に自分がつらくて苦しいときは、こういう話を読みたくなりますね。ただ、似たような本はたくさんあるので、最終的な落とし所が大事ですね。教訓や学び、普遍の真理が含まれていれば、成立するかな、と。

岡村 なるほど。

山田 あと、あれですね。最後は「じつは筆者自身も」という感じで、自分の転落話を語ってくれるといいですね。自分がいちばん不幸だと。そうすると、オチとしてはキレイかな。

柿内 それはいいラストかもしれませんね。やっぱりこうして聞くと、山田さんて、作家と編集者の間にいますよね。

山田 そうかもしれませんね。

柿内 たしかに人の不幸って、どうしても興味をそそられますよね。倒産したワイキューブの安田佳生社長が書かれた『私、社長ではなくなりました』もそうでした。星海社の隣にあった「ちゃぶ屋」という超有名ラーメン屋もつい最近破産しましたが、あそこの元カリスマ店主・森住康二氏にも、ぜひ転落話を書いてほしいですね。

岡村 それはどうしてですか?

柿内 たぶん、成功も失敗も含めて、ラーメン業界のすべてを体感したはずなんだよ。売れないラーメン屋からのしあがった業界の寵児として、カップラーメンをつくったり、ラーメン雑誌の編集者やラーメンコンサルティングに騙されたり、表参道ヒルズや海外にも支店を出したりして推測だけど、たぶん彼にしか語れないことがたくさんあるはず。

今井 「その人にしか書けないこと」は、たしかに読んでみたいですね。

柿内 読んでみたいですね、じゃなくて、そういうものしか読む価値はないし、つくる価値もないんだよ! で、この原稿はどうかというと、山田さんの指摘どおり、目の付け所は悪くない。いいと思うんだけど、いかんせん書き出しが「これが、最初に持ってくるべき、いちばんおもしろい失敗なの?」と思ってしまいましたね。目次を見ていたら「コンドームをけちった男」とか、「夕焼けを朝日と間違えた男」とか、面白そうなやつがいっぱいあるのに、最初に来ているのは、FXの失敗話ですからね。そんな、石を投げたら当たるような話で始めちゃったら、興味は持てない。そんな話、ぜんぜん聞きたくないし、書ける人はいくらでもいるでしょ。

今井 そういう意味では、「ラスカルが好きでアライグマを買った女」とかも、FXよりはるかに面白そうなんですけどね(笑)

柿内 やっぱり、新人賞って無名な人のプレゼンの場だから、最初にいちばん面白いものを持ってこないといけないよね。そこを肝に銘じてもらいたい。この書き出しを見ていると、あとの項目がちゃんと書けるのか、心配になってしまう。最初の登場人物とのやり取りが、あまりにも軽い。というか、つまらない!

今井 教訓も軽いですよね「若いときには失敗しろ」とか。「そりゃそうでしょ」って思うことばかりというか

岡村 あと、この作品の主旨って、「失敗した人の話を聞いて、失敗しないようにしよう」ってことだと思うんですけど、それだったら、成功者の失敗事例を語ったほうが面白いと思います。無名な人より有名な人の不幸のほうがみんな興味があるからこそ、週刊誌は売れるわけです。

柿内 竹村君は、なにかある?

竹村 改善案というか、僕の案が面白いかどうかはわからないんですけど、会社を潰した社長さんの話をまとめてくれると面白いかも、と思いました。「仲間内でやりすぎた」とか「人を信じすぎた」とか、何が理由で潰れたのか、そこに共通点はあるのか。それがまとめられると、良い教訓の詰まった本になるかなと。

山田 それはいいですね! さきほどの安田さんは「売上ばかりを見て、利益を見ていなかった」と後悔していて、「えっ? そんな初歩的なところでつまずいたの!?」と、びっくりしましたけどね。あと、「ネットで炎上して消えてしまった人」の話も聞いてみたいです。

今井 それ、おもしろそうですね! ○○さんとか、××さんとか。今だったら、間違いなく「あの人」ですね。でも案外、リアルの生活にはなんの影響もなかったりするかもしれませんね。

柿内 まとめましょう。とりあえず、この原稿は「視点だけ」ということで、つぎの機会に頑張っていただきたいと思います。

せめて3割は、新しい情報を!

岡村 つぎにいきましょうか。『ゆっくり痩せなさい 98kgからのスーパースローダイエット』

柿内 これは、3カ月で12キロ太った、今まさにダイエット願望が強烈にある僕にぜんぜん刺さらなかったので、ボツです。

竹村 そもそもダイエットしたい人って、スローでいいんでしょうか? すぐに痩せたい人がほとんどですよね。

柿内 その通りだし、スローダイエットがいいなんてみんな知ってるし、できるんならとっくにやってるんだよね。そういう意味で、新しい情報がないんだよ。

山田 本て、何かしらの新規性が必要ですからね。

岡村 前回の座談会でも言っていましたけど、ぜんぶ目から鱗でなくても問題ないけど、3割は新しい情報が欲しいですよね。

柿内 そう。軸は、新しい情報じゃないといけない。3割をそれにして、あとの7割は既存の情報でいいんだけど、それをうまく加工して、まるで7割が新しい情報かのように見せる。それができていないと、厳しい。

今井 中身を見てみると、いいお医者さんに出会えたことがきっかけだったみたいなので、『ダイエットしたけりゃ内科に行け!』とかのほうが、まだ読んでみたいと思いました。

山田 たしかにそっちのほうが、はるかにいいですね。まだ手に取りたくなる。

柿内 なるほど、今井君、リア充なだけでなく、タイトルセンスもあるじゃん!「スローダイエット」じゃ、不眠症解消の本を読んで「寝る前にリラックスしましょう」「朝日を浴びなさい」と書いてあるようなもんだからね。そんなもん、知ってたわ!

一同 (笑)

柿内 書いた本人は意外性があると思っていても、読者がまったくそうは感じていない典型ですね。ダイエット本自体はまったく悪くないので、もう少しアプローチを考えてみてください。

岡村 では、美容つながりでこちらはどうですか? 『コラーゲンは効くのか?』

柿内 これは、ちょっと惜しいんだよね。コラーゲンが効かない(かもしれない)ということを、現場の研究者の視点から描くのはすごく良いし、面白いと思うんだけど、できれば「世界でも有数のコラーゲン研究者」である「教授」にこそ、書いてもらいたいなー。

山田 たしかにそうですよね。

竹村 書き手のプロフィールが「細胞生物学者」としかなくて、ちょっと背景がわからないですね。まあ、個人が特定されてしまうとかなりマズい状況なんでしょうが。

山田 「夏山繁樹」というペンネームは、たぶん「大鏡」の登場人物からとってきてますね。歴史好きとしては高ポイントですが、ちょっと今のこの原稿からだけだと可否の判断がつかないです。書き出しの一章分の書き出し、しか書いてませんからね。

柿内 その通りです。ということで、大学や健康業界を敵にまわす覚悟で、もっと「先の原稿」まで書いてきてください。でないと判断がつきません。あと、「コラーゲンは効かない!」というのも、じつはあまり意外性がないですね。サプリメントとかも、「じつは効かない」という話はよく聞くし、むしろそれよりも、コラーゲンのことを語ることで「何を伝えたいか」に焦点を当ててもらいたいと思います。「科学的とは何か?」だけでも弱いので、もっとテーマを絞ってもらいたいですね。

山田 僕はコラーゲンを題材にした「実験と検証」についてだけで1冊読んでみたいですけどね。

柿内 そうそう、現場の人はヘタにテーマを広げないで、愚直にその現場で行われていることを書くと、部外者(読者)にはすごく面白く見えたりするので、ちょっとそこらへんのことも考えてみてもらいたいですね。

岡村 はい、では次いきましょう。『いかにして御用学者は打倒されたのか? 地動説とインターネットと革命』

柿内 この人はあれですね。第1回目で経済系の話を書いてこられた方で、東大の理系の院を出ているから、そっちの話を書いたほうがいいのでは? とアドバイスした方ですね。

岡村 まさにその通りにしてきてくださったわけですね。どうですか、竹村さん?

竹村 うーん「いかにして御用学者は打倒されたのか?」というタイトルにあんまり興味を持てなかったですね。読んだらけっこうおもしろいんですけどね。研究費のところとか。

柿内 同じ題材で、少し打ち出し方を変えるといいのかもね。「僕らはいかにして革命を起こせるのか?」みたいな。ただ、前もそうだったんだけど、根拠の部分に受け売りが多いのが残念ですね。素人はどこまでがホントか区別がつかないので、ぜんぶ信じるか、一切信じないかの2択を迫られてしまう。今回も「識字率が革命を起こした」という歴史人口学のところにかなり依拠してるので、独自性が見えにくんですよね。これ、『帝国以後』を書いたエマニュエル・トッドの話でしょ? 切り口は悪くないんですが

岡村 柿内さん、前とまったく同じこと言ってますね。「中身は悪くないんだけど、知らない人はどこまでが本当かわからない」って。

柿内 そうだっけ? じゃあ、弱点が弱点のままってことだね。

山田 過去と未来とを比較してるんだけど、現代が薄すぎる気がしますね。過去の部分が3割、現代が7割ぐらいじゃないといけないと思うんですけど、過去:現代が9:1ですからね。過去の部分とか特に、ベストセラーの『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド著)っぽいんですよね。

柿内 そうなんですよねー。実際に『銃・病原菌・鉄』が好きだって書いてますし、参考文献にも挙げられています。

山田 理系が書く文系の本もいいんだけど、それならもっと、専門的な最新の論文とかを読んで書いたほうがいい気がしますね。市販されている本のツギハギに見えてしまって、これならそれこそ、なんとか文庫でいいですから。

柿内 宝島SUGOI文庫ですね!「スゴい」は、エス・ユー・ジー・オー・アイですよ!

岡村 なぜそこをわざわざ強調する

柿内 要は「MUTEKI」と一緒ですね。アルファベットにすることでインパクトが出る気がするけど、それはホントに、気のせいなんですよ。何もすごくない。言い換えた、だけ。

岡村 MUTEKIって

竹村 「ジセダイ」もカタカナにしただけですよね(ボソッ)

柿内 とにかくですね、一見すごいことが書いてある風なんですけど、この人だけの独自性がまだまだ足りないんですよね。この原稿を面白いと思う人がいても、それはこの書き手の業績じゃなくて、トッドやダイアモンドの業績なんですよ。あと、「必要なのは、知ることだ」「知識を得ることで、御用学者を打倒できる」という結論が、ちょっと弱い。まだ理想論から抜け出せていないし、アラブの春におけるインターネットの役割をいまの日本に当てはめるのも、ちょっと無理があるように感じてしまう。多様性と言われても。そこらへんをもう少し考えてみてほしいですね。過去がそうだったからといって、本当に今もそうなのか? と。

山田 たしかに、そうですね。あとにも出てきますけど、今回はこの手の原稿が多かったですね。難しい本を、わかりやすくなぞるみたいな。

柿内 やり方としては、ぜんぜんアリなんですけどね。さきほど挙げた『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』も、マルクスの『資本論』の話ですから。でも、著者の木暮さんはそれをかなり「翻訳」して、自分の言葉として提示しています。

山田 「もしドラ」も、それを小説でやったから成功したわけですしね。ただ、そのまま書いちゃったら、それはただの解説本ですから。

竹村 読める文章ではありますけどね。商業出版の著者になっても恥ずかしくないレベルで書けてるとは思います。アイデア自体も、僕は悪くないと思ったし、惜しいなあ。

柿内 俺も、悪くないとは思ってるよ。じゃないと、ここまで言わないし。期待しているから、わざわざ言っているわけで。期待してなきゃ、労力なんて割かないよ。

今井 ということは、つぎに期待ですね!

柿内 そうだね、ちょっと今までと違ったアプローチで勝負してもらいたいね。

岡村 では、テンポ良く、つぎにいきましょう。『ながら孤独で世界が変わる あなたを救う「孤独のすゝめ」』。これ、どうでした?

一同 う~ん

岡村 この書き出しはどう思いました?「二一世紀を迎えた現代。インターネットが発達し、人々はより強く結びつくようになった。情報網は果てしなく広がり、ニートですら大昔の農民より多くのヒトと会話することができる時代が到来したのだ」。

柿内 センスがあったら書けない文章だよね。「センスが無いというセンス」がないと書けないね、これは。キツいことを言わせていただくと。

竹村 「センスが無いというセンス」って(笑)

柿内 だってそうでしょう? J-POPの歌詞とかにすりゃいいのに。

岡村 どういうことですか?

柿内 「みんな笑ってるけど〜♪ 仮面の裏の本当のワタシはひとりで〜孤独で~♪」みたいな。J-POPって、そんなんばっかじゃん。

岡村 いくらなんでも、それはJ-POPを馬鹿にしすぎじゃないですか!?

柿内 実際、そんなことしか言ってないじゃん。あとはあれでしょ?「友達リスペクト、家族リスペクト、未来は俺がつくるZE!!」みたいな。

山田 (爆笑)

柿内 J-POPレベルってことですよ。「孤独」のマイナスイメージをプラスに転換したいのなら、これじゃダメでしょ。もっと、本当に独自のアプローチをしっかり考えてもらいたいと思います。

竹村 『哲学者たちは孤独とどう向き合ってきたか?』とか、ね。

「なぜ」って付けりゃいいもんじゃない!

岡村 じゃあ、次いきましょうか? 『「くだらない商品」と思っていたのに、なぜ、ネットや通販番組を見ているうちに買いたくなってしまうのか』。長いな、これ。

柿内 このタイトルはね、本をつくるときのことをまったく考えていないですよね。星海社新書のフォーマットに入らない。

岡村 タイトルとペンネームは、大事ですよね。これの場合は、語呂もよくないですね。

今井 発見がないと思いました。「話してる人が売り込み上手だからじゃないの?」って。

竹村 「なぜ」の使い方って難しいですよね。それこそ、「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」以来、すごく増えましたけど。

山田 そうなんですよ。タイトルを見て、なんとなく答えが出てしまったらダメなんです。

竹村 疑問に思えないとダメですよね。

岡村 『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか?』って新潮新書がありますね。

柿内 知るか! そんなのどうでもいいわ! そもそも「謎」になってないでしょ。雑誌「BRUTUS」の西田善太編集長も、特集タイトルに「?」を年2回までしか使わないと決めてる、と仰ってました(「君はフェルメールを見たか?」とか)。楽だからつい使いたくなるけど、「必然性」と「確信」のあるときにしか使っちゃいけないよね。今井くんが言った通り、簡単に答えが想像できるような場面では安易だよね。

竹村 この方、売れる文章の書き方を分析してるんだから、タイトルも、もっと読む人の心を鷲掴みにするようなものが書けたはずなのに

山田 あとこの人、文章がくどいんですよね。アフィリエイターっぽいというか本のときはもうちょい、簡潔にしたほうがいいかなと。

柿内 この本を読めば、ムダな買い物をしなくなり、損失を「防衛」できるって言うんだけど、そんなニーズはあまりないような気がしますね。むしろ『マルチ商法入門』とかを書いてほしいな。ヘタに読者側の視点に立たずに、マルチ側の人がやっている手法を教科書的にまとめてくれれば、読む人は勝手に判断して、勝手に自衛するようになりますからね。

筆者興奮。読者不在。

岡村 つぎはこれですね。『質問・「縄文時代が終わったのはいつですか?」 答・「811年12月13日です」』

柿内 これは、打って変わって斬新なタイトルだと思いました。

岡村 たしかに、タイトルに日付というのは、珍しいですね。

竹村 うーん、歴史に興味ない僕には、刺さりませんでした。ミリオンセラーを狙う企画ではないな、と。ミリオン出したことない僕が言うのもあれですけど、ちょっとターゲットが狭すぎるかなと。

柿内 じゃあ、歴史でどんなんだったら、ミリオンいけると思う?

竹村 「日本史が2時間でわかる~」とか。

柿内 もうあるじゃん! 宝島なんとか文庫の。

今井 かの宝島SUGOI文庫じゃなくて、宝島文庫の『読むだけですっきりわかる日本史』ですね。たしかにあれは、単体でミリオンいきましたね。

竹村 まあ、良いアイデアが出せずに申し訳ないんですけど、さすがにこの企画は難しいかなと。

岡村 僕は西洋史学科出身なんですけど

山田 おっ!

岡村 この作品は、うちじゃないですね。いま売れている新書の歴史本って、過去の事例を紐解いて、それを現代にどう活かすか、というパターンが多いんです。たとえば東大の山内昌之さんの本とかですね。けどこの作品は、既存の学説からすると新しいこと言ってるかもしれないんですけど、基本的に過去の話しかしていない。竹村さんの言うとおり、この時代に興味ない人はこの作品に興味を持てない構成なんですよ。

柿内 一応、2章目以降を見ると時代は変わっていくんだけど、ぜんぶ800年代ですしね。「歴史を日付で言うのおもしろくない?」って気づいちゃって、それは悪くないんですけど、それだけ。あとは既存の研究を組み合わせているだけかな、と。歴史の本も書かれている山田さんから見て、これはどうですか?

山田 続日本紀や日本後紀の現代語訳を短くしているだけなんですよ。歴史で大事な史料批判を一切やってないのが残念ですよね。

岡村 たしかに。

山田 続日本紀とか日本後紀って、どうしても大和朝廷側のものなので、東北側の視点に乏しいんですよね。だからこそ、史料批判はちゃんとやってほしかった。あと、根本的におかしいのは、「東北の縄文人=狩猟民族」っていう書き方をしてるんですけど、今の考古学だと、東北の人たちは飛鳥時代から農耕やっていたというのが定説なんですよ。青森の弘前市に砂沢遺跡っていう遺跡があるんですけど、そこでは、紀元前400年の農耕の跡が見つかったりしてるんですよね。東北って、ずっと未開の地だったイメージがあるんですけど、ぜんぜんそんなことないんですよね。なのでこの作品は、昭和40年代、50年代だったらともかく、現代の歴史認識からすると、ちょっとズレています。

岡村 山田さんから、予想外のアカデミックな指摘が入りましたね!

柿内 たいへんタメになるお話でした。

山田 もしかしたら、知っていて敢えてやってるのかもしれないけど、史料批判を加えるなどの「歴史好きの人対策」は必須ですね。こういったジャンルの本を読むのは、間違いなく歴史好きの人ですから。歴史の話で、ツッコまれたら終わりなんですよ!

柿内 歴史物を書きたいっていう人は多いんですけど、ハードルは高いんですよ。特に研究者でもない市井の人が書くのって、けっこう大変なジャンルなんですよね。

山田 ですね。ただ、タイトルはよかった!

柿内 タイトルはいいですね。僕自身、気づきをもらいました。

岡村 じゃあ、タイトル賞ですね、これは。

竹村 そんな賞、ないけどね(ボソッ)

岡村 さてさて、つぎ行きましょう。『史上最低の国語辞典(あ~お)』

山田 これは『質問・縄文時代が終わったのはいつですか?」と同じ人ですね。

柿内 えっ、同じ人? なるほど、わかった! この人、センスないわ!

今井 えっ!?

柿内 竹村君、なんかプリントアウトした原稿に辛辣なコメントを書いてるじゃん。それ、読み上げてよ。

竹村 いや、「ネット向きか?」って書いてるだけですよ(笑)

今井 そうなんですよ。これ、べつに本にしなくてもいいんじゃないかと思いました。『プロ無職入門』みたいに、Twitterで話題になって書籍化というのなら、まだあるかなと思うんですが。

山田 この手のやつは、ターゲットを絞らないときついですよね。オタク向けにしてしまうとか。

柿内 いやいや、そんな問題じゃなくて、そもそも完全に、まったくおもしろくないですよ、これ。

山田 それを言ってしまうと、あれなんですけどね

柿内 まず、言葉の選び方も恣意的じゃないですか。「【慰楽】(いらく)慰めと楽しみ。【イラク】(Iraq)慰めと苦しみ。今は。」とか、すっごく寒い。自分だけおもしろがっているパターンの典型ですね。ぜんぜんつまらない。筆者興奮、読者不在。枠組みだけ思いついちゃって、中身が伴ってないんですよ。だから、この人にはセンスがない、って言いました。縄文時代の原稿もまったく同じ問題です。形にこだわって、中身がないんですよ。形は中身を表す手段にすぎない。そこのところをしっかり考えてください。はい、つぎ!!

岡村 は、はい。つぎは『魔術師の弁明』です。中2っぽいタイトルでいいですねー。

柿内 これが松久さんの新作ですね! ま、本人のコメントによると「つぎの投稿までの間つなぎ」みたいですが。

今井 そうなんですね。

柿内 で、この原稿、松久さんにお会いしたときに参考図書としてご紹介したマーク・トゥエインの『人間とは何か』(岩波文庫)のフォーマットに、かなり引っ張られていますね。まあ、『人間とは何か』は至高の本であり、この座談会を読む人は絶対に必読の一冊ですけど。

山田 師匠と弟子の対話形式になっているんですよね。ただ、どっちも敬語だから、どっちが話しているのかわからない

岡村 そこはライトノベルを参考にしたらいいんじゃないですか。ラノベは読者がテンポ良く読み進められるように、地の文を少なくして、会話だけでちゃんとキャラがわかるように、口調やセリフの語尾などにすごく気を遣って書いてますから。

柿内 なるほど、それは他の投稿者の人にも参考になるかもね。今のままだと、キャラの書き分けができていなくて、実際、どっちも弟子にしか見えない。もっと言うと、書き手の顔しか見えてこない。これもまた、きびしいことを言わせていただくと、「型」に逃げてしまったかな、と。

今井 なるほど。

柿内 もちろん、いいところもあるんですけどね。占いってこういうことなんだ、っていうのはすごくわかる。ただちょっと、雑談が多すぎますね。

竹村 間つなぎということですから、つぎの投稿に期待しましょう!

岡村 つぎ、『詐欺師(ペテン師)・安倍晴明』

柿内 山田さん、いかがでしたか?

山田 これはですね安倍晴明ってスーパーヒーローにされがちなんですけど、実際はどうだったのか、っていうお話ですね。

岡村 すでに何冊もありそうですね。

柿内 そもそもみんな、「実像」って知りたいんですかね? ミリオンセラーにはほど遠そうだが

山田 市場としては悪くないんですよ。安倍晴明ファンが全員買ったら、ミリオンにいくかも。少なくとも、今回あった歴史モノの中ではいちばん間口が広い。ただ、ちょっと固すぎるし、歴史好き向けすぎますね。歴史マニアの僕は楽しく読めましたが

竹村 うちはべつに安倍晴明ファンを相手にしているわけではないので、歴史好きじゃない僕の興味を惹くようなものを考えてもらいたいですね。『歴史街道』かどこか向けじゃないでしょうか。

自分の経験、人生に適したテーマが選べているか。語る価値があるか。

岡村 つぎは『教室力』です。

柿内 プロフィールを見ると、国際情報紙を経て週刊紙の編集をされている方ですね。知り合いだったりして。小学館の『SAPIO』→『週刊ポスト』じゃないかな?

岡村 いやいや、講談社の『COURRiER Japon』→『週刊現代』かもしれないですよ。

柿内 どっちかだよね。で、編集者だとしたら、この内容はどうなんだろう?

山田 僕はこの「クラスマーケティング」っていう単語が気になりましたけどね。これを学びたい人はいるかもしれない。しれっと売れるかもしれないな、と。挙げている具体例がAKBとアメトークとFacebookなんで、ちょっと軽いんですけど、ここにちょっと重みのあるものが入れば、可能性はあると思いました。

柿内 そうなんですよ、僕も「クラスマーケティング」という概念はいいなと思ったんですけど、週刊誌っぽすぎるなと思って。ぶっちゃけ、10ページくらいで終わりそうですよね。他にもいろいろと具体例があれば原稿に入れてくると思うし、おそらく、軽い事例しかなかったんだと思う。

岡村 週刊誌でやろうとしていた特集をこっちに持ち込んでいたりして

柿内 あり得る!

山田 週刊誌の企画案としては、十分なレベルだと思うんですけどね。できれば、製造業かサービス業の話が入るといいかなー。テレビとネットの事例しかないから、やっぱりちょっと弱い。つかみとして、冒頭に使う分にはいいんですけど。

柿内 うん、つかみとしてはいいですね。

竹村 クラスマーケティングって、この人の造語なんですかね?

岡村 たぶんそうですね。

今井 クロスマーケティングという言葉はありますけどね。

柿内 う~ん。週刊誌で一度やってみて、ハンパない反響があったら、また連絡してほしいですね。

岡村 つぎ、いきましょう。お菓子もそろそろなくなってきたことですし、テンポを上げていきますよ。『Q天皇って何? A卑弥呼の子孫です』

山田 教科書しか知らない人が、「教科書に書いてない=新しい」と思って書かれてるんじゃないですかね。独自性がない。同じテーマの本をたくさん読んでから応募してほしいなと思います。

竹村 読みたいと思わないかなあ。歴史にあまり興味のない僕に「読みたい!」と思わせてくれないと。

岡村 つぎ。『大学生活の方法論』

山田 レポートの書き方を解説します、ってやつですよね。

今井 そうですね。「充実した大学生活を送るために大学に入ったが、うまくいかなかったのでレポートを書いた。その方法論を伝えたい」って内容ですね。そもそも、充実した大学生活を送るために大学入っちゃダメだろと思ってしまいました。それは目的ではなく手段だと思うので。

柿内 出たよ、リア充発言!! 俺なんて、あまり友達いなかったから、生協で本を買うか、ひとりラーメン二郎の行列に並ぶか、裏庭で猫と話すしかしてねーよ。女子大生とかと、会話してみたかったよ(涙)

一同 (苦笑)

竹村 もう柿内さんの情報はどうでもいいですね(ボソッ) とにかく、論文の書き方だったら、この人に教えてもらう必要はまったくないですよ。もっとすごい人がたくさんいるわけだから。

山田 そうですね。ちょっとテーマ選びに失敗していますね。

「マウリッツハイス美術館」の広告に学べ!

岡村 つぎ。『「なりきり」で世界が変わる(小さく、でも確実に。)』

山田 これは良いタイトルだと思いました。

柿内 かなりマニアックですよね。こんな世界があるって、まったく知りませんでした。

今井 オンラインゲームで多そうですよね。ネカマとかも同じですかね。

柿内 大学時代、暇で暇でネカマをやっていた時期があったけど、ほんとに爆釣するからおもしろいよ。男がいかに単純な生き物かがわかる。『ネカマが語る男の生態』とか読みたいし。

竹村 売れなそうですね(ボソッ)

山田 これはですね、僕が思うに、一大ブームになる可能性があると思うんですよ!

竹村 えっ、ほんとですか!?(笑)

山田 う~ん。世界規模でやってますから、普遍的なものを感じました。社会学的な匂いがするんですよね。

柿内 たしかに、社会学に昇華できれば可能性はあるかもしれませんね。でも、あんまり興味が惹かれないんだよな

岡村 よく僕ら編集者は、「その人がこれを書く意味があるのか?」って考えるじゃないですか。そういう意味だと、この人は6年の年月をかけて「なりきり」をやっているから、十分に意味があると思うんですよ。ただ、それが一般の人にまで広がるかと言うと

柿内 人を動かす文章にはなっていないよね。いま、上野で「マウリッツハイス美術館展」をやってるから、この人はそれを観にいったほうがいいよ。

今井 え? なんでですか?

柿内 それは実際に行ってみて考えてほしいんだけど、今井君は「マウリッツハイス美術館」に興味ある?

今井 い、いや、恥ずかしながら、初めて聞く名前です。よくわからないです

柿内 でしょ? 俺もよく知らないもん。でもね、あの展覧会の宣伝・広告は、「マウリッツハイス美術館のことをよく知らない人、興味ない人に、どうやって会場まで来てもらうか」、要は「どうすれば人を動かすことができるのか」ということを徹底的に考えたうえでつくられているから、参考になると思うんだよね。

今井 たしかに、「世界で最も有名な少女が来日します」って、素晴らしいコピーですね。がぜん、行きたくなってきました。

山田 ああ、フェルメールの「真珠の耳飾の少女」のことなんですね。たしかに言われてみれば、「世界で最も有名」かも。使える要素のうち、どこをどう打ち出せば、人は興味をかきたてられるか、よく考えられていますね。それがコピーやビジュアルを通してうまく提示できていると思います。僕も行きたいなー。

岡村 ホントだ、僕も競馬の帰りに行きたくなってきた。

柿内 そう。つまりはそういうことなんだよ。

若者よ、汗をかけ!

岡村 つぎは『タダ働きしたい! 愛と情熱の身勝手な働き手たち』

柿内 これは「なりきり〜」と同じ人ですね。うーん、つまらない。これよりは「なりきり」のほうが、はるかに良いですね。

今井 「お金が一切絡まないからうまくいく営利行為」って、最近じゃよくありますよね。僕のフレンドたちもよくやってます。あと、この「書き出し」だけで、もう話っておわりですよね

柿内 そうだね、もう語るべき内容はないように思える。ということで、この作品についても、もう語るべき内容はないように思えるぞ。

竹村 フレンドってなんだよ(ボソッ)

岡村 じゃあ、そういうことで、つぎにいきましょうか(笑)『意識の高さを追いかけろ 「つきぬけ学生」の行方』、これどうですか?

柿内 この企画、Twitterで作家の常見陽平さんが褒めてましたね。「この企画いい!」って。

山田 意識の高い学生って、なんであんなに気持ち悪いんですかね?

岡村 お気持ちは、すごくよくわかります。

竹村 パーティーやります! とか言ってたり、学生なのに名刺を持ってたり、サークル立ち上げたりなんかムカムカする。まあ、悪くはないんですけどね。あっ、今井くん、「ムカムカ」のところは原稿にしないで、「悪くはない」ってところを強調しておいてね。

今井 はい、わかりました!

柿内 Twitterのプロフィールが「□□大学/学生団体/ビジコン/起業/世界一周/出会いに感謝」とか書いてある感じはすごいよくわかるよね。既視感がすごいし、これには大爆笑した。ただ、この人、まだインタビューをしていないよね?

今井 学生さんですし、これからするんじゃないですか?

柿内 してから送ってこいって話だよ!! アイデアを求めている賞じゃないんだから。

今井 「ジセダイエディターズ新人賞」のほうなら、これでもよかったんですけどね。

柿内 そうだね、これじゃあミリオンセラー新人賞の応募要件を満たしていないと言ってもいい。それはべつにこの人だけの話じゃないけど。何回も言っていてあれだけど、この新人賞の主旨をよく理解してから応募してほしいよね。ミリオンセラーを狙える作品で、書き出しの「一章分」を「書いて」応募してください、と。「第一章の書き出し」じゃなくて、「フルパワーの第一章ぜんぶ」だからね。それを理解していたら、インタビューなしで応募できるわけがない。

山田 そうですよね。

柿内 汗をかかない人に、俺らも汗をかくつもりはないんだよ! 書き手と編集者は同じ熱量じゃないと、ぜったいに良い本なんてできっこないからね。

岡村 僕はいつでも汗をかく準備はできていますよ。

竹村 僕もです。

今井 もちろん、僕も汗をかきます。

山田 アツいなー。僕は最近思うんですが、「熱量」がなければ本当にダメですよ。熱量さえあれば、必死に考えるし、必死に行動する。そういうところからしか、時代を動かすような「何か」は生まれてきませんね。特に出版業界はそうです。熱を失ってしまった人は、この業界から去ったほうが未来のためにいいと思います(キリッ)

柿内 山田さんもあいかわらずアツいですねー! なんかテンションあがってきた!!

真の賢人は、難解な事象を平易な言葉で解説する

岡村 さあ、場も熱してきたところで、つぎの『知的生産のルネサンス 修辞学から学ぶ、古くて新しいハウツーの思想』はどうですか?

柿内 これ、岡村くんの大好物じゃん!

山田 そうなんですか?

岡村 いや、ずっと修辞学の本をつくりたいと思ってるんですよ。「言葉は力」というのは真理だと思っているので。瀧本哲史さんも『武器としての交渉思考』のなかで「言葉こそが最大の武器だ」と言っています。ただ、これはね。僕の知りたいレトリックはこういうことじゃないんだよなー。

柿内 大学で、知的生産の作法を教えたほうがいいんじゃないかって話だよね。

山田 で、そこって結局、修辞学が源流だから、そこから紐解いていきましょう、っていう展開ですよね。これが本当にできたらスゴイですよね。本当に書けるのか、と。

柿内 僕も惜しいとは思ったんですよね。きちんと修辞学について学んでいる人が、しかも同世代に向けて発信できたら、相当おもしろくなるかなと。大学の先生が教えるのとはひと味違うものになるとは思う。じつは、今回のなかではいちばん良かったですよ。

今井 僕も、今回のなかではいちばん続きが読みたいと思った作品です。「リベラル・アーツ」の話を出していたり、章のまとめがちゃんとあったりして、ある意味あざといんですけど、きちんと星海社新書のことを理解して応募してきてくれているなと思いました。

柿内 そうそう。

岡村 山田さんのおっしゃるとおり、本当に書けるのかどうかが、肝ですね。

山田 そうですね。あとね、若いのに文章が固いんですよね。はっきり言うと、うまくない。

柿内 文章はうまくないですね。ただ、視点はいい。

岡村 レポートを読んでる感じなんですよ。

山田 わかりやすくするために、「それってひらがなで言うと、なんになる?」みたいな考え方を持つといいのかもしれない。

岡村 わからないですけどね。もしかしたら、レトリックを使って、権威付けのために難しい言葉を使っているのかもしれないですが。

柿内 だとしても、もう少し咀嚼してほしいよね。「〜の地平」とか「アーキテクチャ」とかね。そういう言葉、大嫌いなんですよね。

一同 (笑)

山田 この人も例に挙げている『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』なんかは、そのへんすごい上手ですよね。「悩むと考えるの違い」とかね。「悩む」は答えが出なくて、「考える」は答えが出るんだって。例に挙げるくらいなら、参考にすればいいのに。

柿内 あれと比べてしまうとしんどいかもしれませんけどね(笑) 著者の安宅和人さんは、マッキンゼーの中でも本当にすごかったって、『21世紀の薩長同盟を結べ』の倉本圭造さん(元マッキンゼー)が言っていました。社員のなかでも別格だったと。

一同 へー!!

柿内 そういう人が、読者のためにすごい〝降りて〟きているわけで。しかし、この人、本当に書けるのかな。1回会ってみようかな。

今井 Twitterでも、けっこうフォロワーがいらっしゃいますね。

竹村 リア充の嫉妬ですか?(ボソッ)

柿内 (画面を見ながら)うん? これはもしかして〝意識の高い学生〟さんなのでは?

山田 「SFCや他大の友人たちとプロジェクトをはじめてしまった」ってありますからね。リア充っぽいですね。

柿内 クソリア充ですね!!

今井 クソって(笑)

柿内 文学部なのにSFCと絡んでる時点でリア充ですよ。俺なんて、文学部のなかにも友達いなかったのに

岡村 僕も文学部ですけど、他の学部に知り合いなんていませんでしたからね(遠い目)

柿内 そうだよね! 経済学部とか、聞いただけで「け、経済学部さんでいらっしゃいますかっ!」ってなるもんね。

一同 (苦笑)

竹村 プロジェクトのサイトにも、「星海社さんのミリオンセラー新人賞にsubmitしました」って書いてありますね。

柿内 なんだよsubmitって! 英語わかんねえよ!

今井 これはすぐcommitするタイプの方ですね。

柿内 プロジェクトを4人でやっているなら、4人で書けば面白いのに。

山田 自分以外の3人が架空の人物だったら好感もてますけどね。

柿内 まあ、それはいいとして、このままでは修辞学がどういうものか、まだよくわからないんですよね。「収集・発見・集約・記憶・想起」ってあるけど、これって修辞学のプロセスなの? 岡村君?

岡村 そうです。この前読んだ瀬戸賢一さんの『日本語のレトリック』にも書いてありましたねー。

柿内 KJとかMECEとかは、コンサルタントじゃないんだから、はっきり言ってどうでもいいから、もっと一学生、一若者の立場として、修辞学のことをわかりやすく解説してほしいよね。まだちょっと頭でっかちな感じがする。文学部だけど、SFCっぽい。

竹村 柿内さん、同じ慶應としてSFCに恨みでも?

柿内 。じつは入りたかったんです

山田 ええーーーー!?(笑)

岡村 とにかく、修辞学は僕のテリトリーなので、僕でもわかるようにもう少し噛み砕いて書いていただきたいと思います。次回に期待しましょう。

柿内 お、岡村先生!

岡村 柿内さん、まだ会わなくていいですよ。つぎもチャレンジしてきたら、その内容次第では、会いに行きましょう。

柿内 は、はい、わかりました。

またも新人賞該当なし!

岡村 では、すべての投稿作を評価したところで、いよいよ賞を決めましょうか!

柿内 最初に「悲しい」と言ったように、新人賞はどう見てもないんですけど、山田さんは何かありましたか?

山田 『なりきり』『教育力』ですね!

柿内 おお、出ました。山田さんの愛をこめた山田真哉賞です!! おめでとうございます。

竹村 今回の座談会を熟読して、次回のさらなるチャレンジをお待ちしています!

柿内 そういう竹村君は、何か面白いものあった?

竹村 僕は修辞学のやつですかね。

柿内 これは惜しいよね。もう少し汗をかいていたら変わっていたかも。惜しいから、残念賞だな。優秀賞ではなくて残念賞。ぜひ、リア充道とともに「アイデアをカタチにする」道に精進してください!

岡村 そんなのあるんですね

柿内 じゃあ、順番にみんなの感想を聞いていこうかな。今井君はどう?

今井 そうですね。2つ、言いたいことがあるんですけど、ひとつはプロフィールって大事だな、ということ。新書の場合は特に、知っている人の本を買うほうが少ないので。「なぜ自分がそれを書いていて、なぜ読んでもらう価値があるのか」っていうのを、プロフィールできちんと伝えないと、せっかく良いタイトルを付けて読者の人に手に取ってもらえたとしても、買うには至らないかな、と。あともうひとつは、「読んだ人にどうなってほしいのか」っていう、文章を書く目的が見えていない作品が多かったですね。目的が自己顕示、もっと言うと、知識のひけらかしにしかないのでは? と思うものが多かったような気がします。だから、応募者のみなさんにはまず、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』を読んでほしいですね。

柿内 そうだね。「伝える」っていうことに対しての覚悟が足りないものが多かった。「俺、すげー!」「俺、こんなこと考えちゃった」みたいなものが多かった。前回の座談会でも言ったかもしれないけど、たしかに古賀史健さんの『20歳の自分に受けさせたい文章講義』は必読。宣伝じゃなくて、これはホントにそう思う。岡村君はどうだった?

岡村 全体的に汗をかいてつくられた作品がない気がしました。研究とか、あんまりしてないんじゃないかな。この新人賞は、投稿するだけだったらFICTIONSの新人賞よりもずっと楽なんですよ。冒頭だけでOKですから。

柿内 なるほどね。

岡村 これだけ少ない文量でいいからこそ、そこをきっちり読ませる努力をしてほしいなと思いました。逆に言ったら、冒頭さえよければ新人賞をもらえてしまうわけですから。

山田 たしかに、そうですね(笑)

岡村 書き出しって本当に大事。そこを読んで「続きを読みたい」と思わせられなきゃ負けでしょ? 正直、今回の投稿作で僕がいいなと思った作品って、もともと僕がその分野に興味があったものばかりでしたから。自分が興味のない分野でも読みたいと思わせるような書き出しを書かないと、とてもミリオンセラーは生まれないですよ。

柿内 良いこと言うねー。1冊書くのと同じ労力を、この「書き出し」に込めないとね。仰る通り、だ。映画の予告編って、映画の本編が出来ていないと作れないからね。

岡村 自分の家にある本を眺めて、その本を買った理由を振り返ってみるといいんじゃないでしょうか。それらの本の「はじめに」や「著者紹介」には、自分がこの本を買いたいと思ったヒントが書いてあると思います。レベルが高いことを要求してしまっているのは、わかっているんですけど

柿内 いやいや、それぐらいやってもらおう。売れている本って、「はじめに」に命をかけているからね。なぜ、あなたが、この本を、お金と時間を払ってでも読む価値があるのか? そこが端的に、しかも面白く表現されているものが多い。俺も山田さんも、いつも「はじめに」には命をかけているからね。わかる人にはわかる、はエゴだよ。俺は、そういった本作りはしたくない。自分がきわめて凡人で素人だから、いつでも「凡人の側」「プロの素人」でいたいと思う。で、竹村君はどうよ?

竹村 全体的には残念でしたね。この賞って、すごい近道だと思うんですよ。編集者が確実にぜんぶ読んで、フィードバックがあるのって、うちぐらいだと思うんですよね。

柿内 うん。じゃあ、どうすればそのチャンスを活かせると思う?

竹村 前回は「もっと読者の気持ちを考えて」と思っていたんですけど、最近は反対のことを思っていて、その人の好きなものを追求してもいいと思うんですよね。極めれば、いつかそこに興味を持ってくれる編集者が現れるはずなんで。だから、変に媚びたり、水増しして、「はじめに」をすごいおもしろそうに書くのとかは。う〜ん、難しいんですけど

柿内 わかるよ。そこのジレンマは、編集者であれば常にあるからね。

竹村 おもしろそう! と思わせるスキルばっかりアップしちゃって、中身が伴わないのもダメですからね。だから僕は、そのへんは編集がサポートするから、もっと自分の道を極めてほしいですね。そういう観点から見ても、今回はいいものがなかった。「通れば書きます!」とかは、すでに売れている作家さんが言うことですから。岡村くんとは真逆の意見になってしまいますが、そう思いました。

柿内 なるほどね。とりあえず突っ走ってもらうのはすごい大事。はちゃめちゃ大事。その中から、本人はそうは思っていなくても、「そこ、おもしろいじゃないですか!?」ってピックアップしていくのが、編集の仕事であり、編集者の醍醐味だからね。今回、「これ、この先を書けるのかな?」って感想が多かったと思うんだけど、そう思われてる時点でダメ。「頼むからこの先を読ませてくれ!」ってならなきゃ。

岡村 なるほど。では、山田さんいかがでしょうか?

山田 小さくまとまってるものが多かったですね。レベルは全体的に上がっているんですけど、前の『スパンキング入門』みたいな、突き抜けた作品がなかった。

柿内 ああ、スパンキング。あれはたしかに突き抜けていましたね(笑)

山田 ああいうやつが売れてしまうかもしれないから、出版っておもしろいんですよ。だって、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』にしたって、当時、会計学の本なんか5万部で大大ヒットですからね。それが100万部を超えるなんて、誰も思っていない。『もしドラ』だって、ビジネス書が200万部も売れるなんて、誰も思っていなかったですから。そういう意味では、『「なりきり」で世界が変わる(小さく、でも確実に。)』が惜しかったですかね。

岡村 なるほど、そういう意味での山田真哉賞なんですね。

山田 あと、これは提案なんですけど、次回はこの座談会を公開でやってもいいんじゃないでしょうか? 今回、小さくまとまったのって、前回の座談会を読んで、「傾向と対策」をやってきたからだと思うんですよね。でも、ここでこうやって討論しているこの雰囲気をぜんぶ伝えるのって、テキストだけじゃ足りないじゃないですか。僕らがどんな思いでやっていて、何を大事にしているのかっていうのを、肌で感じてもらう機会をつくってもいいんじゃないかなと。

柿内 なるほどなるほど。じゃあ、次回は公開でやりますか! 今回の座談会では消されている歌舞伎町の話とか、実名とかは、なかなか言えなくなりますけどね。

今井 柿内さんが何回「これ、言っていいんですかね?」と言うか、見ものですね。

柿内 まあ、自主規制せずにガンガンいくけどね。でも、山田さんの話は本当に正しくて、編集者の言うことを、みんなそのまま真に受けちゃうんですよね。鵜呑みにしちゃダメなんですよ。咀嚼しないと。あと、同じ題材で再応募してくれる人がいなかったですね。何回同じテーマで書いてきてくれてもいいんですけどね。誰もいなかったんで、みなさんの伝えたい気持ちはその程度だったのかと思ってしまいました。

岡村 そんな柿内さんは、どうでしたか?

柿内 う〜んおもしろくない。悲しい。もっと熱量をもっておもしろいものを書いてきてくれってことぐらいかな、言いたいのは。こうして欲しいっていうのは、みんなが言ってくれたんで。

岡村 なるほどですね。では、ひと通りの感想が終わったところで、第2回ミリオンセラー新人賞の選考座談会をお開きにしたいと思います。みなさん、長時間ありがとうございました!

一同 ありがとうございました!

山田 あ、お菓子もちょうどなくなりましたね。キットカットしか、ありませんでしたが