ミリオンセラー新人賞 第1回座談会

年に3回行われるミリオンセラー新人賞の選考過程を余すところなくレポート。辛口・毒舌を交えつつ、編集部員とスペシャルゲストが、投稿された企画をひとつずつ真剣に見ていきます。

柿内芳文(星海社シニアエディター、星海社新書編集長)

竹村俊介(星海社エディター)

岡村邦寛(星海社アシスタントエディター)

山田真哉(公認会計士、作家。ミリオンセラー新人賞アドバイザー)

投稿者たちよ、高いハードルを超えてこい!

柿内 それでは、第1回ミリオンセラー新人賞座談会をはじめます。

竹村岡村 はじめましょう!

山田 楽しみですね。

柿内 さて、いきなり総評を言わせてもらいますが、「驚くべき才能」は現れませんでした。うーん、残念。ただし、才能の種は散見されますね。この賞の目的は「才能の橋渡し」をすることですが、まだベストなシステムであるとは思ってないですし、僕たちも模索しながらやっています。なので、最初としてはこんなものかな、と思っています。

山田 ふだん持ち込まれる原稿と今回の応募原稿を比べると、質はどうなんですか?

柿内 星海社に移ってからは、持ち込みは一切受付けていません。電話などで持ち込み希望の方から連絡があった場合は、「持ち込むなら新人賞に出してください」と伝えています。ただ、39歳を超えていると応募はできないので、その場合、申し訳ないですがお断りすることになっていますね。

山田 そうなんですか。では、光文社時代の持ち込み作品と比べてはどうですか?

柿内 基本的にクオリティの差はないですね。光文社では下っ端が持ち込み担当で、僕は会社に直接持ち込んでくる人とは基本的に会っていました。郵送・メールだけの持ち込みや、他の出版社にも一斉送信的な持ち込みは、ざっと見るだけでお断りの連絡を入れていましたね。

山田 なるほど。

柿内 持ち込みには2タイプいます。ただ持ち込む人と、「この会社の刊行物のこういうところが好きだ」とか「このシリーズを自分はこう解釈しているから、そこに自分の持っているネタや視点、伝えたいことが、こういうかたちでリンクするんじゃないですか」というところまで考えたうえで持ち込む人。ただ持ち込む人は、単に本が出したいだけでしょう。だったら他の出版社か自費出版でやってくれというのが、僕のスタンスです。自費出版なら、いくらでも紹介するので。

岡村 厳しいですねー。

柿内 ぜんぜん厳しくないよ。本の先にある編集者や出版社のスタンスまで見えている人じゃないと、本を書いても読者に届くわけがない。読者が何を求めているかなんて理解できるわけないじゃん。いくら編集者が「もっと読者の方を向きましょうよ」と言ったところで、書き手にそういうメンタリティがないとダメなんです。編集者はメンタリティが1の人を100にすることはできるかもしれないけど、0の人を1にするのはなかなかできないんです。

山田 うん。そうですね。

柿内 山田さんとやっていたときは、お互いがまったく同じベクトルを向いていた気がするんです。編集者にとってそういう経験はなかなか無い。

山田 そうそう、お互い若造で必死でしたもんね。

柿内 まあ、今もまだまだ若造マインドでやっていますけどね。とにかく、直接持ち込む人は、何かその会社だけ、その編集者だけに強烈に伝えたいことがあって行動をしている人が多いので、そういう人には会って話を聞くのが筋かなと思い、光文社にいたときには会っていました。今は残念ながら時間が捻出できないので、音羽に来られても会うことはありませんが。竹村くんが中経出版にいたときはどうだったの?

竹村 持ち込み原稿の担当者がいました。

山田 じゃあ、過去にこういう持ち込み原稿を読んだ経験は

竹村 うーーん、それがないんですよね。知り合いから企画書や原稿が送られて来たときは感想を返したりはしていましたけど。

山田 今回は総評としてどうでした?

竹村 「ミリオンセラー新人賞」という名前だけに、やっぱり多くの人に届くものや、世間に衝撃を与えるものを期待しているのですが、なかなかそこに到達しているものはなかったかな、という感想です。なぜ「2012年に」「あなたが」「このテーマで書くのか」という必然性が見えなかった

山田 ハードル高いですね(笑)

柿内 ハードルはかなり高いですよ! ハードルを超えてくる人がいれば賞を出しますけど、基本的になあなあでやるつもりは一切ないので。「ジセダイ」に投稿した自分の作品が、星海社新書を買った読者や、プロとかセミプロにも読まれるわけですから、投稿者の自己顕示欲は満たされると思います。でも、あなたの自己顕示欲を満たすのが目的ではないので、それが目的の人は各自勝手にやってください、という感じです。出版社のサイトに載ったからって、喜ぶべきことは1ミリもないですよ。

山田 なるほど。岡村さん的には今回いかがでした?

岡村 僕は今回、選考委員ではなくてサポート役なので、すべての作品をざっくりとしか読んでいません。でも、一般の人が読んで面白いだろうと思われるものはほとんど無かったですね。

竹村 岡村くんのセリフが読者視点にいちばん近いかもしれませんね。まだノンフィクションの編集者としては駆け出しですし。

山田 マニアックな人が読めば面白いかもしれないけど、普通の人が読んだら面白くないということですね。ミリオンセラーを狙うには、普通の人に読んでもらわなきゃいけないから。

岡村 そうですね。投稿してきた人たちは、自分の経験や知識・知恵を伝えたいという強い想いがあるはずですが、それを普通の人に伝わるようにうまく翻訳できていないという印象を受けました。

柿内 岡村君はまだ出版業界に入って1年経っていないので、この座談会のメンバーのなかだと本当に読者の目線に近いんですよ。去年までは森ビルで地上げをやってたんで(笑)

山田 えっ、地上げをやっていたんですか!? あれですよね、おばあさんとかを追い込むんですよね!?

岡村 断じて違います(笑)。細かい土地を1つにまとめることを「地上げ」と言うんですよ。バブル時のネガティブなイメージがいまだにありますが

竹村 業界の人はこう言うけど、実際のところは??

岡村 いや、マジでないですから!(笑)

柿内 その真偽はさておき、専門書ではなく「知の入り口」である新書は一般の人、普通の人を相手にしているわけだから、そのことも十分に考慮しなければならない。そして、新書のなかでも星海社新書は「ジセダイ」に向けて作っているわけですよ。そこらへんのところも強く意識してほしいですね。

山田 ホントにそうですよね。

柿内 自分の「わかりにくい才能」「わかりにくいテーマ」を編集者の人に「見つけて」もらいたい。「育てて」ほしいそう他力本願的に思う人も多いと思いますが、この賞では書き手の方の「伝える意識」をかなりシビアに見るつもりです。要は、この賞はプレゼンなわけですよ。プレゼン思考がないと、なかなか厳しい。

竹村 僕もまったくそう思います。森ビルに勤めていた頃の岡村くんがふと書店さんに立ち寄って手にとるかどうか。そのへんを歩いているサラリーマンや学生が手にとるかどうか。マニアックなテーマが悪いわけでは全くないのですが、差別化するためにテーマをマニアックにすればいい、というわけでもない。岡村くんはどういう本を読んでたの?

岡村 編集者になる前は、ザ・王道という本しか読んでいませんでしたね。ビジネス書だとライフハックとか論理的思考、話し方とか。

柿内 それが普通だよ。

竹村 テーマは本当に王道でいいんです。そういった王道のテーマを、「伝える」ということを最優先にして、書き方なんかもいろいろと模索してみてほしい。王道のものをどう見せるか、というのが肝だと思います。

柿内 竹村くんはそのへんをかなり意識して本作りしてるよね。普通の人に刺さるテーマを、普通の人に刺さる見せ方で提示する、という。ミリオンセラーというのは、普通の人がたくさん読んでくれたから100万部までいくわけですよ。

岡村 僕らも普通の人ですからね。

柿内 そう、そこ重要! 僕は自分のことを「プロの素人」だと思っていて、ホントただの凡人なんですよね。そんな凡人の自分が読む本は、世俗的だし、岩波新書とかよくわからないことも多いし、考えていることはほとんどバカなことかメシのことだったりするし

竹村 僕もかなりの凡人ですね。本読むの遅いし、読書家でもない。

柿内 そう、編集者も読者としては凡人・素人なんですよ。2011年の代表的なミリオンセラーといえば、『人生がときめく 片付けの魔法』じゃないですか。あれなんて本当に凡人・素人に向けた「ザ・王道」だよね。ちょっとかわいい女の子が、みんなが気になっている片づけ問題を、魔法のように解決しちゃう、わけです。これは買わないほうがおかしいよ。

山田 もともと片付け本で最初のヒットは竹村さんの本(『たった1分で人生が変わる 片づけの習慣』中経出版)だから、今年は竹村さんにも何かいいことがあるんじゃないですか!?(笑)

竹村 だといいんですが(笑)

一同 ははははは(大笑)

「前のめりにさせる」面白さ、求む!

竹村 総評ですが、山田さんはどうでしたか?

山田 僕は今回、みなさんよりも楽観的というか、気軽に楽しめましたよ。ミリオンは無理だけど、5万、10万部くらいなら売れそうだと思う作品がいくつかありました。

竹村 おおっ!

柿内 えっ、本当ですか!? では、そういう話もしながら、まずは大枠を見ていきましょうか。まずは、さっきもちょっと話をした「テーマ」についてですが、一般書のつくり方としては、「テーマが一般的なものを、ものすごく一般的にする」か、「テーマがものすごく専門的なものを、一般的にするか」という、2つのアプローチがありますよね。前者は「片づけ本」ですし、後者はたとえば会計学を扱った『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』なわけです。

岡村 なるほど!

柿内 ちょっとこれについては、山田さんの最新作『経営者・平清盛の失敗』(講談社)をケースステディにしましょう。

『経営者・平清盛の失敗』(講談社)『経営者・平清盛の失敗』(講談社)

山田 あの本は、テーマとしては、まさに専門の中の専門ですね。それを一般化できているかどうかと言われるとわからないですけど。平清盛の失敗は何か? 結論だけを言うと、源平時代の「通貨」の話になります。そしてそれが今のデフレの問題とかTPPの問題と一緒だよ、という内容です。

柿内 過去の出来事を一般化して、現在につなげているわけですよね。この企画はもともとどういう経緯で生まれたんですか?

山田 NHK大河ドラマのプロデューサーから「山田さん、平清盛について教えてください」と言われて、いろいろ自分なりに勉強してお話ししたのですが、結果として脚本にあまり経済のことが使われなかったんですよ。そこで、せっかく頑張って調べたのにもったいないと思い、講談社で本にしました。大河ドラマに載らなかった経済の話がたくさん書いてあります!

岡村 清盛は武士のなかで初めて経済を牛耳ったようなイメージがありますよね。

山田 そうですね。でも、ちょうど世界史的にそういう時代だったんですよ。清盛は中国の宋が経済大国だった時期の人物なので、その影響は多分に受けています。古代は宗教の時代で、中世になると経済の時代になってきてと、いろいろ書いています。みなさん、ぜひ読んでください(笑)

柿内 重要なのは、この本は「山田さんから見た平清盛」なわけで、他の人が考えれば他の「平清盛」になるということです。もちろん、歴史資料などからある程度の客観性が確保されますが、あくまでも山田さんの主観に基づく平清盛。最初の座談会(0次会)でも言ったんですけど、本は「主観の塊」です。だから、一般的なテーマにしろ専門的なテーマにしろ、どうやってその主観のフィルターを通して、そのテーマを読者に提示するか、ということを常に考えないといけない。

竹村 「主観のフィルター」って良い言葉ですね。

柿内 主観の塊といっても、客観的な事実がゼロでいいという意味ではぜんぜんないですよ。むしろ、客観を土台にして、そのうえに主観のタワーを建てるイメージです。

岡村 ううん、なんだか難しいですね

柿内 まあ、そこらへんのことを説明し出すときりがないかな。次回にしよう。とにかく、主観という意味でいえば、応募作品の評価も100%、編集者側の主観で決めます!「なんで俺の作品はこんなに面白いのに、評価されないんだよっ!!」と言われても、それはこっちの好み・主観に合わなかったから、ということでしかありません。

竹村 「僕が面白くないと思ったから、面白くない」という

岡村 うちの新書を読んでくれれば、星海社新書全体がどういったコンセプトに基づいているかは理解できますよね。奥付に編集のクレジットも入っているので、この編集者はこういうテーマが好みだな、ということは、応募者の方でも推測することが可能です。

柿内 そうだね。あと、本には「答え」「正解」が書いてあると思っている人って、意外に多いんですよね。だから、問題提起で終わっていると「答えが書いてない!」と言われ、一例として答えを書くと「答えが甘い!」って批判されるんです。

山田 ありますねー。

岡村 みんなが最初に手にする本格的な本って、正解しか書いていない教科書ですからね。その影響もあるんですかね。

柿内 それは確実にあると思う。その影響か、何か「傾向と対策」があるんじゃないかと勘違いをしている人がいるかもしれないんですけど、そんなものはありません。あと、これはこちらの説明不足もあるかもしれないですが、ジセダイの「アクセスランキング」は、評価とは一切関係ないですから。あくまでウェブ上の賑やかしだと思ってください。だから、変なリンクをアダルトサイトに貼ってアクセス数を稼ぐのは即刻やめてください!! ジセダイの自分の投稿作へのリンクを他のサイトに貼りまくっている人がいるみたいで、会社に他サイトの運営者から苦情が入っていますので(苦笑)

山田 ええっ!! そういう人がいるんですね。

柿内 あと、もう一つ言っておきたいのは、さっき評価基準が主観だと言いましたが、加えて「売れる・売れない」という商売人としての主観もあります。これは編集者が常に考えていることで、面白くて売れるものもあれば、面白いけどニッチすぎて売れないものもあるんです。当然、自費出版ではなく商売の枠組みの中でやることなので、「それを超えるのが編集者だろ」と言われても、そこまではさすがにできないと思うんです。出版社はかなりのリスクを常に負っていますから。

山田 もとが良くないと売れないですからね。

柿内 はい。要は、主観的に売り上げのことも考えます、ということです。

竹村 そうですね。もちろん出して意味のある本を作りたいですし、世の中を良くする本も作りたいですが、その大前提として「これはビジネスである」ということですよね。やはり売れなければ全くもって意味がない。

山田 「面白くて、かつ売れそう」というところがポイントですね。

柿内 そうです。いくら僕らが主観で「なかなか面白い!」と思っても、商売の視点で見てダメだと思ったら、よほどのものでないかぎり、賞は取れないと思ってください。ただ、本当に面白ければ話は別。星海社新書2月刊の『21世紀の薩長同盟を結べ』(倉本圭造著)という本は、新書で普通に出すと600ページぐらいの文量になります。著者は僕と同い年のまったく無名の人で、この本がデビュー作です。残念ながら、まず売れないと思います(笑)。でも、やります。本にします。デビュー作で無名で600ページもあって、中身は経済思想ですからね。他の出版社なら、まず本にしないと思いますよ。なんとか組版を工夫して、400ページくらいまで押さえて発売しました。

岡村 最初にゲラを読ませてもらったとき、読んでも読んでも終わらないので、本当にびっくりしました。

竹村 なんせ23万字ですからね。

柿内 まさに、ラーメン二郎だよ。三田本店か、神保町本店の大ダブル並みの分量だからね。いくら麺を食っても食っても、底が見えない。

山田 出た、柿内さんの二郎トーク!(笑)

柿内 とにかく、『21世紀の薩長同盟を結べ』は、この本の中に僕の好みと商売としてギリギリなんとか成り立つんじゃないかなっていう見込みがあったから発売するんです。売れる、ではなく、成り立つ。好みと見込みですよ。僕は本の売上とかは、わりとどうでもいいと思っている節もあるので、あんまりビジネスとして見ないところも実はあるんですよね。矛盾するようですが。なので、とにかく「前のめりにさせてくれる」面白さが欲しいですね。

岡村 僕もそういうものが読みたいです。

柿内 あと、やはり星海社新書は「ジセダイの教養」と謳っているので、それをしっかりと考えて、自分の狭いテリトリーだけで語らないで、自分が「ジセダイの教養」だと思うものを出してきてほしいですね。僕の好みも大いに刺激してくれたら、商売のほうは案外無視して賞を出しちゃいますよ(笑)

山田 まあ、そういう採算を度外視するところもないと、新しいものは生み出せないですからね。

柿内 「売上が大事だ!」なんて言うと、編集者や世間に媚びた作品を応募してくる人がいると思うんですけど、それもダメですね。

山田 じゃあ“片付け”とかはダメですね(笑)

竹村 うーーん、ダメじゃないですけど、もう見るからに「何匹目のどじょうだよ!」って企画とか、「小手先で考えました」みたいな企画はちょっと

柿内 流行のテーマのカウンターを提示してくる人も必ずいるんですよね。たとえば『天才は片付けない』とか(笑)

一同 ははははは(大笑)

柿内 でも実際、アメリカにはそういう理論を研究している人もいるらしいですよ。たしか「アエラ」で読んだなあ。とにかく、「両極を言う」というのはラクなんですよね。その両極を何度も往復して、真ん中に何があるかを考えるのが重要なんです。真ん中がおそらく、いちばん一般的なところなんですよね。だから、『就活のバカヤロー!』って言うのもいいんですけど、一方で就活はやはり必要だから、「具体的にどうすればいいのか」という中立的な立場でも考えないといけない。常に両極を往復して考えてほしいと思っています。

どんな企画でも「読者の椅子に座る」スタンスで

山田 今回は売れ線に媚びた作品はなかったような印象でした。いわゆる著者プロデューサーのような人はついてないな、という感じでしたね。

竹村 でも、前回の座談会や柿内さんのツイートを見て、そのまんま応募してきた人も何人かいましたよね。

柿内 そうそう、「オカルトの教養」とか「結婚式という名の暴力」って言ってたもんね(笑)。あと、「投稿原稿は書き出しの1章」ということでハードルが低いと思って応募してきているのか、明らかにヤル気が感じられない作品もあるんだよね(苦笑)

山田 たしかに。

柿内 これで人に読んでもらおうという態度がまったく気に食わない。「1章だけ書けばいい」んじゃなくて「1章しか書けない」と思って、何度も何度も考えに考え抜いて、何度も何度も推敲して、そのうえで投稿してくださいね。星海社FICTIONSの座談会でもよく使われる言葉ですが、肘から先だけで書いている。体が乗ってないんだよね。本当に、そういう人は一回

岡村 川に落ちればいい、ですか?(笑)

竹村 川にね。

山田 えっ、なんで川に落ちるんですか?

柿内 あっ、いや、なんでもありません。無視してください(笑)。この新人賞、一見ハードルが低いように見えるけど、実はどこよりもハードルが高いんですよ! 偉そうに思われるかもしれないけど。

山田 なんだか聞いていると、どんどんハードルが上がっているような

柿内 あと、やっぱりみんなまだ自分の目線でしか書いていない。「読者の目線」「読者」という言葉はマーケティングっぽくてあまり好きじゃないんですけど、最低でも「読む人」の目線には立たないといけないと思う。『20歳の自分に受けさせたい文章講義』の著者・古賀史健さんの言葉を借りるなら、「読者の椅子に座る」必要がある。小説なら、圧倒的な「マイ・ワールド」になっていればいい場合もあるかもしれないけど、ノンフィクションの場合はまた違うんですよね。

竹村 いま、ふと思ったんですが、もし自分が投稿者だったら、この座談会を読んで悩みますね(笑)。マーケティングも考えなきゃいけないのかな? でもパッションもいるしみたいな。要求高すぎかな?

柿内 星海社新書軍事顧問の瀧本哲史さんは「ビジネスには〝ロマン〟と〝そろばん〟が必要だ」と言っているんだけど、そういうことだよ。どっちか一方だけじゃダメだってこと。まあ、たしかに難しいけどね。

山田 「読む人」の目線、という話だと、『不思議の国のアリス』ってお父さんが娘に物語を書いてあげようと思ってできた作品じゃないですか。たぶん、それが本の原点だと思うんです。だから書き手も、「世の中に訴えたい」というよりは、「友だちに伝えたい」とか「先輩に伝えたい」とか、そういう視点があれば本としては成立すると思うんですよね。

柿内 不特定多数の人に向けて書くから、誰に向けて書いてるかわからなくなって、できあがった作品もつまらなくなるんすよね。

山田 『世界の中心でつまらないことを叫ぶ』みたいな(笑)

一同 ははははは(爆笑)

編集者視点で見れば、怒鳴られても嬉しい

柿内 渋谷のスクランブル交差点の群衆に遠くから石を投げるよりも、電車で騒いでいるヤツの胸ぐらをつかむ勢いで「お前、さっきからうるさいんじゃー!」って言ったほうが伝わりますよね。実際、やられたことあるので(笑)

一同 (爆笑)

山田 柿内さんって、そういうことけっこうありますよね(笑)

柿内 基本的に人から怒鳴られやすいタイプだから。まったく知らないオッサンから怒鳴られることが毎年1回はあります(笑)。一昨年は、池袋駅で山手線に乗ろうとホームへの階段を登っていたら、向かい側から下りてきた人が、かなり距離が離れていたのにわざわざ僕の前に立ちはだかって、「ここは下りだろうが!!!!」って怒鳴ってきたんですよ。まあ、たしかに下りのところを登っていたわけですけど、昼間のすいている時間で降りてくる人は2人しかいなかったのに

山田 すごいですねえ!

柿内 去年は会社前の音羽通りをチャリンコで走っていたら、外国人の方にとうせんぼされて、「おまえみたいな自転車乗り、うんざりなんだよぉおおおお!!」って突き飛ばされましたからね(笑)。僕は普通に自転車に乗っていただけなんですけどね。なんかその人、機嫌が悪かったようで

山田 それもすごいですね。深層心理でそういう人に会いたいと思っているんですか?(笑)

柿内 いつもパターンは一緒で、そのときは唖然とするんですけど、あとでフツフツと怒りが湧いてきて、その怒りを整理して心を落ちつかせるために、いちいち周りの人に話したりするんですけど、何度も話しているうちにだんだんオイシイなって思えてきてしまうんですよね。

竹村 柿内さんはいろいろとオイシイですよね。引っ越しの物件を探していたら、とんでもない物件を見つけたり(笑)

山田 何それ!?

柿内 あれね。ついに、このネタを話すときがきましたか!

山田 完全に、座談会じゃなくて雑談会に移行してるな(笑)

柿内 昨年末、どこかに引っ越そうと思ってウェブで物件を探していたときに、要町駅徒歩2分で2DK・3万5千円の激安物件を見つけたので、すぐに不動産屋に行ったんですよ。そうしたら、そこの若手の担当者がニヤニヤしながら「そうですか、あの物件ですか。うーん、お客さん、気になりましたか?」って言ってきて。「やっぱり事故物件ですよね?」って聞いたら、事故物件ではない、と。「実はこういう物件になっています」と言いながら出してきた物件案内の文言がすごいんですよ。いつか本のタイトルにしたいくらい、素晴らしい。「オーナー様のご親族が既にお住まいの〝シェアスタイル〟になります」って書いてあったんですね。

山田 あっははははははっ(爆笑)。すごい!こんなの初めて見た!

柿内 どういうことかというと、もともとこの部屋は8万円くらいするらしいんです。でも、東日本大震災でオーナーの親戚の人が東京に疎開してきて、職が見つかるまでという条件付きで2、3ヶ月住まわせたら、そのまま居座っちゃったらしいんです。オーナーからしたら、その人に出ていってもらわないとこの物件を新規に賃貸することができないので非常に困るんだけど、親戚なので気を遣って出て行けとも言えない。そこで、不動産屋になんとか半分くらいでいいから家賃を取れないかと無茶ぶりしてきたらしいんです。それで、こういうシェアスタイルになったらしいんですよ。というか、「シェア」ってイマドキの言葉を言えばなんでも許されると思うなよ(笑)。4.5畳と6畳の部屋があるんですけど、その70歳くらいの親戚のおじさんは和室の広い方を使っちゃってるので、4.5畳の方なら空いてますって言われたんですよ。

一同 アホか!(爆笑)

柿内 赤の他人の、しかもおじさんとシェアするのに3.5万円は高すぎだろって思いますよね(笑)。でも、あまりにも安いから、問い合わせは多いらしいんですよ。ひとりだけ20代後半の若者がこのおじさんとも面会して、この条件でOKって言ったらしいんです。だけどそのおじさんに、「アイツとは無理。ちょっと生活リズムが合わない」と断られたらしいんですよ。おじさんは朝4時くらいに起きちゃうらしいから。

一同 はははははは(爆笑)。そんなの合う人いないですよ!

柿内 物件案内にちっちゃく「審査あり」って書いてありますが、それは「じじい審査」なんですね。どんだけハードル高いんだよ、と。この新人賞より高いんじゃないかな。岡村君、この物件、電話番号とか隠してアップしておいて(笑)

岡村 了解です!

※ これがその「じじいシェアスタイル」物件

山田 しかし、すごいですねえ(笑)。おじさんはなんだかんだ理由を付けて断るんでしょうね。

柿内 これ、「編集者視点」じゃなかったら、不動産屋と喧嘩する人も出てくるかもしれないですよね。でも、編集者視点だとオイシイ(笑)。真剣な話をすると、結構こういうのが企画のちょっとした種になったりもします。

竹村 つらいことも、編集者視点で見ればなんてことなくなりますね(笑)

柿内 そうなんだよ。前に、著者と一緒に群馬の田舎のゲームセンターで女子高生をナンパしたこともあるけど、ホントに声をかけるのはしんどかった。でも、編集者視点で見ればその体験自体もオイシイ。それ以来、キャッチの兄ちゃんはすごいって思えるようになりましたからね。あれは相当高度なスキルと、へこたれないメンタルが必要ですよ。『伝説のキャッチに学ぶ 豆腐メンタルの鍛え方』とか、できそうじゃないですか!?

山田 ははははは(笑)。いい企画ですね!

柿内 ということで、話が完璧に脱線しましたが、そろそろ順番に応募作の評価にいきましょうか(苦笑)

興味のない人にどう読ませるか

竹村 では、順番に寸評していきたいと思います。座談会で触れられなかったものについては、「1行寸評」としてジセダイのコメント欄に記載するので、そちらをご覧ください。

山田 最初は『明快オカルト入門』(松久新)ですね。柿内さん、どうでしたか?

柿内 これは単純に面白かったですね。なによりも文章がしっかりしている。ただ、「オカルト入門でオカルトの教養を」と書いてあるんだけど、実は星海社新書ですでに『オカルトの教養』という企画を進めていて、もう半分以上原稿が上がってきているんですよね。原田実さんという、オカルトのプロ中のプロの方が書いています。企画が完全に被ってしまうので、そういう意味ではボツですね。

山田 この方は、もう一つの投稿作(『占われるプロになる!』)がすごくいいなと思いました。『明快オカルト入門』っていう「明快」と「オカルト」の対比はいいんですけどね。

竹村 僕も占いのほうが面白かったですね。

山田 オカルトはUFOから錬金術なんかまで、やっぱり幅が広い。入門といってもなかなか明快にはならないので、僕は『ムーの読み方』みたいな本があったらいいなと思いますけどね。どうせ“入門”って付けるなら、もっともっと入門っぽくしてほしいな。

柿内 なるほど。入門だからって広く浅くしちゃうと、なんだかよくわからなくなっちゃうんですよね。

山田 最近、SFとオカルトがあまりにもマニアックになりすぎていて、どこから入っていけばいいのか、よくわからないんですよ。

柿内 この人がいいのは、オカルトと自分らの「接点」をちゃんと伝えようという意思があることですね。誰に何を伝えたいか、というところがしっかりしている。もしこれを両親が読んだらどう思うか、友だちならどう思うかみたいに全方位からいろいろなことを考えながら書いている印象を受けました。さきほど山田さんが仰ったように、オカルトってみんなが知ってるテーマだけど今更入れないっていうところがありますよね。

山田 敷居が高いです。

柿内 僕は麻雀が大好きたけど、競馬やパチンコはどこから入ればいいのかまったくわからないのと一緒です。逆に競馬派の人は、今更麻雀に入れない、という人もたくさんいると思う。自分がものすごく好きなことを他の人にどう伝えるのか。考えると結構ハードルが高いんですよ。

山田 つい最近、「歴史の勉強を始めようと思っているんですけど、何から読めばいいですか?」という、本当に困るメールがきたんですよね(笑)

一同 ははは(笑)

山田 三国志で何を読めばいいか、と聞かれれば答えられるんですけど、歴史って言われたらそれは無理だよ、と思って(笑)

柿内 オカルトもそれに近いものがありますね。

山田 だから、『ムーの読み方』とか『ハリーポッターでオカルトを読む』とか、そういうのが一つあるといいんじゃないかな。

柿内 そうですね。

竹村 数秘術とか、ああいうのはオカルトなんですかね?

岡村 何がオカルトなのかという定義付けは必要ですね。

柿内 書き出しのところで、そういう読者の〝かゆいところ〟にも手が届くように、先回りして書いてあげる必要がある。たとえば「はじめに」のところに「また、疑似科学で分類されるオカルトだが」という一文があるけど、いきなりそんなことを言われても、普通の人には何もわからない。

山田 疑似科学好きな人は知ってるけど、そうでない人は「疑似科学」って言ってもわからないですよね。

柿内 疑似科学も科学の一分野とするのか、それとも科学と対比させるのかという解釈によっても違ってくる。たとえば日本史なら、一次史料や二次史料だけでなく、「偽書」も重要な史料じゃないですか。偽書を偽物として捉えるのか、偽物が書かれたという背景も含めての歴史書として捉えるのかによってぜんぜん違ってくる。オカルト入門なのに、「はじめに」に「疑似科学で分類されるオカルトだが」というセリフが出てくるのは、書き手にとっての大前提を読者も共有しているはず、という思い込みがあるんですよ。

山田 そのへんが、一般向けに書いているかどうかの違いなんでしょうね。オカルトをある程度知っている人ならばいいけども、でも新書ってそうじゃないから、このへんは丁寧に書かないとダメですよね。

柿内 そうですね。本を読むときは「はじめに」をまず読むじゃないですか。そのときに「オッ!」って前のめりにさせてくれないとなかなか先を読む気が起きないですよね。テーマはまず一回隠すか、それともいきなり直球で一行目から「この本はオカルトの本である。オカルトをスピリチュアルや疑似科学みたいなものと誤解している人もいるかもしれないが、それではあなたは、オカルトとスピリチュアル、オカルトと疑似科学の違いについて説明できるだろうか?」と始めるか。

岡村 なるほど。

柿内 『武器としての決断思考』はディベートの本だけど、ディベートに関することは最初なかなか出てこなくて、あえて隠している。ディベートっていきなり言われても、それに興味関心がない人は読まないじゃないですか。でもディベートのことは伝えたいから、どういう「文脈」に載せれば読者は前のめりになってくれるかな、というところをものすごく、何度も何度も考えてつくっています。だから、ディベートという言葉が出てくるのは、「はじめに」のかなり終わりの方なんですよね。意図的にそうしています。

竹村 13ページ目にして、やっと「ディベート」という言葉が出てきますね。

柿内 そうそう。そこまであえてひと言も使っていないんだよ。もしくは1行目から「この本はディベートの本である」と言い切ってしまうか。著者の瀧本さんの「本当の主張」を〝広く〟〝正しく〟伝えるためにはどっちがいいかとさんざん悩んで、隠す方向にしました。まあ、そこまでを投稿者の方に求めるのは難しいかもしれないけどね。

岡村 でも、ハードルは上げていきましょうよ。

柿内 そうだね。とにかく、この人の応募作は基本的にはかなり良くできているので、そういうところを注意すればさらに良くなりそうです。「科学(論理)だけでは人を救えない」とかいい言葉だと思うし、「平方根の存在を他言した者は命を奪われた」とか、へえ〜、そうなんだ! って思わされるよね。

山田 でも、そのへんの記述は本の受け売り感があるんですよね。それって参考文献に書いてあるトリビアじゃないですか? だから、もうちょっとこの人の視点とかが欲しいかな。

柿内 プロフィールを見るかぎり、この人は占い師の卵なわけだから、占いと混ぜちゃえばよかったのに。

山田 『運命が見える占い師が書いた 明快オカルト入門』とかね(笑)

柿内 この人は文章がなかなかうまいけど、作品の内容自体は調べれば誰でも書けるかもしれない。

山田 そうそう。投稿作の全体に言えることなんですけど、もっと己の立ち位置をはっきりさせたほうがいいな、と思いました。ウィキペディアをまとめたら書けちゃいそうな作品が多かったですからね。

柿内 まさにその通りです。そういった意味では、最初に竹村くんが言った「なぜ〝2012年に〟〝あなたが〟〝このテーマで書くのか〟という必然性」は、やはり重要ですよ。

山田 あと、参考文献については、読んだものすべてを書くべきです。やはり参考文献は大事ですよ。海外の論文までおさえているのか、それとも、入門書レベルなのかというのでは、ぜんぜん違ってきますからね。

柿内 うちの新書の場合、文献を読み漁ってまとめる、だけではダメ。そこに自分の人生、熱量という+αをのせたい、という想いがある。だから『独裁者の教養』では、安田峰俊さんという29歳の著者が、独裁者の人生については文献を漁って書いたんですけど、それだけだと熱量が少ないので、わざわざ「密航」までして、独裁政権のワ州(ミャンマー)というところまで行ってきたんです。そこに行ったというのが、その本での+αのエネルギーなんですよ。今回の応募作品は全体的に、たまたまそのとき思いついたアイデアを肘から先で書いている感じがする。もうちょっとアツくなってほしいですね。

どういう立場の人が何を書くか

竹村 『溜まり場 進化論 ~コミュニティ再興のための新ビジネスモデル』(平木柳太郎)は、さっきの立ち位置の話で言うと、立ち位置もわかるし、「コミュニティ」とか「つながり」というのも一般的に注目されているテーマなので、そのあたりの入口とか前提はいいなと思いました。ただ、踏み込みがぜんぜん足りない。そして、プロフィールと企画を読んでも、この人が何をしている人で何をしたいのかがイマイチわからない。会員制自習室カフェを作ったところで、それがつながりをつくったことになるのかはよくわからないし、本を通して何をしたいのかもわからない。もっとつながりを強くしましょうということを言いたいのか、つながる場所をつくるためのノウハウを伝えたいのか、そのへんがモヤッとしてるかな

柿内 つまり、企画になってないよね! よくわからない。「よくわからない」ものを人が読むはずないよ。そして、「よくわからない」ものは、その段階では評価する価値もないから、どんどん飛ばしていきますよ。次に投稿するときは、読む人に伝わる企画を応募してください。お願いします。

竹村 今、「つながりが大事だ」と言ったところで、みんな言っていることだから、自分なりの軸は相当根詰めて考えないとなかなか見つからないですよね。自分がビジネスをしたことでつながりが大事だと思い、それを伝えたいというところまではわかったけど、どうすれば伝わるのかという手段としての本のところをもうちょっと考えてほしかった。

山田 この手の本は、すでに売ってそうですよね。ただ、もうちょっとエッジを効かせないと。

柿内 引っかかるところがない。僕だったらお金を出しては買わない。ウェブで無料なら読んでもいいけど。自分がお金を出して買うかどうか、というのは一つの基準だと思いますよ。自分がお金を出して買わない本を書いてどうするんだ、と。あたりまえのことを言っているようですが、けっこうあるケースです。

山田 それはありますね。でも世の中には、自分が買わないなと思うような本を出す人もいっぱいいるんですよね。

柿内 ある程度本を書いている人ならまだわかるけど、新人の、まだ熱量しかないような人がそれをやったらダメ。もしこの人がこれを最後まで書いたら、自分が頑張って書いたから売りたいと思うのか、中身を伝えたいから売りたいと思うのかですよね。これだけ努力したから売りたい、という思いも重要ですけど、それは読み手からしたらまったく意味がないんですよ。書き手の努力なんて知ったことじゃないですから。自分に必要なら買うし、不必要なら買わないだけです。

柿内 『虫歯がなくなると本当に困るのは誰か? ~差出人不明リポート~』(三浦崇典)は、仲の良い書店員さんからの応募なので、講評しづらいな(苦笑)。とにかく三浦さんは熱量が半端ない人です。いま「三浦書店」というまったく新しい本屋さんを作ろうとしていて、僕らも全力で応援しています! かなり面白い本屋さんができあがると思いますよ。僕は三浦さんと「青草会」というのをやっていて、まあお互い夢とか語っちゃって青臭いんですよ(笑)

山田 なんか男子校のノリですね(笑)では、そんな柿内さんの解説からお願いします。

柿内 ひと言で言うと、虫歯はどうでもいいから「紙の本がなくなると本当に困るのは誰か」という、こっちの項目を先に書いてほしかったな(笑)。三浦さんはまさに「本の現場」にいる人なので、本のことについては相当説得力があるけど、虫歯の話は他人の世界という気がすごくする。虫歯の話に関しては、「三浦さんにしか書けない!」というところがないんですよ。

山田 経済の裏側みたいな話で、差出人不明リポートっていう言葉の使い方。雑誌記事ですよね(笑)

柿内 スタイルにこだわりすぎて、中身のところが後回しになっていると思います。本来なら中身が先にありきで、それをどういうスタイルで出そうか考えるべきだと思うんですよ。三浦さんが虫歯のこととヤクザのことを言わなきゃいけない必然性がよくわからない。結局は、その虫歯の治療法が出回るとマズいから、薬や治療法が出回るのが阻止されているという実証がない限り、空想で書いていると言われても何も反論できないです。

山田 実地で調べてほしいですよね。

岡村 もっと深く知りたいんですけど、「えっ、これで終わり!? ここから先が読みたいのに!!」という感じになっちゃっていますね。

柿内 あえて厳しく言わせていただきましたが、三浦さん、「三浦書店をどうやって作ったか」というのを原稿にしてくださいよ。それがたぶん、青臭さ1000%のすごい熱量の企画になると思います。

竹村 そうですね、たしかにそれは読みたい!

柿内 『「結婚式」という名の暴力~誰も幸せになれない無限連鎖~』(西川正)。これは僕が考えたタイトルで、結婚式業界について語れる人がいたら応募してください、と座談会0次回で書いたんですけど、この原稿には僕が言っていたレベルのことしか書いてないですね(笑)

岡村 そうですよね。

柿内 プロフィールには、「ブライダル業界へのパイプが太い」と書いてあるんですが、べつに本人がブライダル業界で働いてるわけじゃないんですよね。たぶん。もっともっとリアルなところが知りたいんですよ! 最近はフリーのウェディング・プランナーが増えているらしいんですけど、この企画ならそういう人が書くのがいいんじゃないかと思う。絶対『ゼクシィ』をつくりながらじゃ書けないじゃないですか(笑)。『ゼクシィ』は半端ない売上で、リクルートの基幹産業ですからね。 

山田 たしかに、ブライダル雑誌って『ゼクシィ』以外浮かばないな。

柿内 「結婚式業界はビギナーズマーケットです」というところは面白い。でも、これはただの現在の分析にすぎず、それだけだと浅いんです。本当にみんなが求めいてることは何か? どうしてニッポンの結婚式はこんな風になってしまったのか? というところなど、歴史やリアルな泥臭い話と、その先の可能性についても知りたいんです。

竹村 この方しか知らない、この方しか書けないものを、ってことですね。

山田 今回は期限ギリギリの投稿でしたけど、もう一回同じネタで中身をしっかりとつくって応募してきてもらってもいいですよね。

柿内 そうですね。これだけだと、業界のことをまったく知らない僕がふだん言っているレベルと変わらないので、もっと知りたいです。

山田 『葬式は、要らない』という本があれだけ売れたのを考えると、結婚式というテーマも20〜30万部のマーケットはあるでしょうね。

柿内 ここは黄金マーケットだから、書ける人さえいれば書いてもらいたいんですよ。僕も探しているんですけど、まだ見つかってないんです。結婚式業界でいい位置にいて、業界を知り尽くしているけど、いい加減もういいや、うんざりだ、と思っている人に書いてほしいですね。いっそのこと転職しちゃうか、匿名で書くか。

不倫をしている日本人はどれだけいるか?

岡村 つぎは『「太陽族」と「キン肉マン」〜君と僕を殺してきた「マッチョ病」の功罪〜』です。

柿内 なんかこれは、社会への不満をつづった独白というか日記だよね。つまらなくはないんだけど、文章の前提になっている知識や考え方が読者と共有できていなくて、普通の人が読んで理解できるかどうかはかなり微妙。「強い弱さ」というのは、いい視点だと思ったけどね。

竹村 「マッチョ病」というのは、たしかにそういう面はありますよね。

山田 そうなんだけど、この書き方じゃ伝わらないですね。文芸・評論まわりの人しか読めないのでは?

山田 次は『タイトル力 ~ヒットを引き寄せる16の法則~』(kossetsu)。

竹村 これは、よく分析はしてあると思いましたが、この方が語る必然性がやはり

柿内 そうだね。しかも既にありそうだしね、こういうの。

竹村 なかなか自分では「自分にしか書けないもの」ってわからないとは思うのですが、一度まわりに聞いてみてもいいかもしれないですね。

山田 「こういうの書こうと思うけど、どう?」って聞いてみるということですね。

柿内 さて、ではつぎいきましょう。『●●官試験会場には「2世●●官(仮)」が集まる』(米林太一)。

柿内 これはどうでもいいんじゃないかな(笑)。完全に落ちた人の恨みだよね!?

山田 いや、でもこれはこれで面白いと思いましたよ(笑)

柿内 え、そうですか!?

山田 本にはまったくならないですけどね(笑)。でもこの熱量は大事だから、熱量を持ってぜひ頑張っていただきたいですね。

柿内 熱量だけを評価したわけですか!? 熱量枠ですね!(笑)

山田 この人、才能はある気がするので、それをプラスの方に向けてほしいです。

柿内 落とされた悔しい思いを10年間くらい溜めていると、『面接ではウソをつけ』みたいな企画になるので面白いですよね。あの企画は、僕の就活に対する怨念です。

竹村 悔しさは大きなモチベーションになりますからね!

山田 なるほど、そういうのは大事ですね! だから僕はこの人は評価しますよ。

柿内 じゃあ、山田賞っていうところですかね(笑)。僕はあまり評価していませんけど。

山田 いやいやいや(笑)

柿内 『就活ゲーム 「伝説の勇者」を目指さない就活法』(御津四郎)。やはり就活系は多いですね。若い人にとって、人生の大岐路ですから。

山田 この人は就活関係で起業しているんですよね。就活についてはいろいろな本が出ているので、どこで差別化するかということに興味があったのですが、RPG風に進める、という程度では、特に関心を持っては読めなかったですね。それ以前に、この人の主義・主張でまずある程度のレベルにまでいかないと、企画として筋が通らない。

竹村 就活本に手を出す人って切羽詰まってるから、物語風のものを読んだりして楽しんでる余裕とかあまり無いと思うんですよね。実際、就活に疲れたときに読む本、みたいな需要はなかなかないのかな、と。

山田 そうですね。直球で知りたがってるでしょうね。

竹村 基本的に、就活で疲れた人は就活の本を読まないと思うんですよ(笑)

岡村 たしかに(笑)。そういう人は「就活」という言葉を聞くだけで参っちゃいそうですよね。別の手段で気分転換をした方が効果がありそうです。

柿内 そりゃそうだ(笑)。僕はもう就活関連の本を2冊(『面接ではウソをつけ』『就活のバカヤロー』)つくったから、もう就活はお腹いっぱいという感じ。相当な新しい面がないと興味を持てないかもしれない

竹村 この人が数百社の新卒採用で得たノウハウがある、というのであれば、それを直球でまとめてもらえればいんじゃないかな。「キャラをつくる」というのだったら、『面接ではウソをつけ』を読めばいいし。

柿内 『不倫の値段 ~婚外恋愛で生まれ変わる人、人生を棒に振る人~』(露木幸彦)。これはすごくエネルギーがあって面白かった。でも、もうちょっと全体的にコンパクトにしてほしかったなあ。

竹村 そうですね、長かったですよね。でも面白かった。

岡村 この「不倫の値段が4500万円」というのは、一般的に言われていることなんですか? 僕は初めて聞いたんですけど、なかなかキャッチーでいいなと思いました。

柿内 いや、これは「不倫がどれくらいの価値を持っているか」というインタビューの平均値らしい。この、インタビューに基づくリアリティのところはいいと思う。結婚式のやつもこれくらいのリアリティを出せればいいな(笑)

山田 僕のように結婚している人間にとってはある種の重要なテーマなので、僕は結構高評価です。今回のなかでベスト3に入っています。

一同 おお〜(笑)

柿内 僕もそうですね!

山田 たぶん、日本で現役に不倫している人は1000万人以上いるでしょうから。もっと? 5000万人以上いるかな?(笑)

柿内 不倫したい人もたくさんいるでしょうしね。

岡村 マーケットの可能性は無限大!(笑)

柿内 実際、この人はプロですからね。行政書士の資格も持っているし、説得力はある。

山田 もしこれが100万部いったらそれはそれで嫌な気もするけど(笑)、でも100万部いかないとは言い切れない何かがあると思うな。昭和30年代にミリオンセラーになったセックス本があったので、そういう意味では全応募作品のなかで唯一ミリオンいきそうな本は、この本かな(笑)

柿内 性欲っていうのは、誰もが持つ三大欲求の一つですからね。

山田 特に「婚外恋愛で生まれ変わる人」という言葉がすごいな、と思いました。人生を棒に振るというマイナス面を言うだけならまだしも、生まれ変わるってすごくプラスじゃないですか?(笑)

竹村 そうですね。文章のなかにいくつか引っ張り出したいコピーもあるし、ムラムラしたりドキドキしたりするところもありますから(笑)

一同 ははははは(笑)

柿内 これって『欲情の文法』シリーズになるんじゃない!?(笑) そして、その3作目くらいに『日本人の平均チン長』がきてくれれば!!

山田 ははははは(笑)。そんな企画も準備してるんですか!?

柿内 いや、妄想です(笑)。『日本人の平均チン長』は、僕がずっとつくりたい本のひとつです(笑)

山田 いや〜、気になりますよね! だから大衆浴場で他の人のをチラチラ見たりするわけですから(笑)

柿内 銭湯の人間観察は面白いですよね。デカい奴は堂々としてますから! あそこは、普段気弱でも、デカい人にとってはメインステージです。

岡村 思春期に必ず友達と議論するテーマですね(笑)

柿内 素材としてはすごくいいと思うんですよ。

竹村 僕と同い年で、男女問題に特化した行政書士事務所開業っていうのも面白いですし、今後にも期待なので話はしてみたいですね。

柿内 じゃあ、連絡取ってみようか! これの面白いのは、不倫に巻き込まれている3人の様子を1章ずつ書くところだよね。20代後半〜30代前半を医者と不倫して棒に振った人が1章で、次が処女を医者に捧げた女子大生で、最後に40代モテモテ既婚者のその医者が出てくるんです。そういう構成も、読みたくなる「仕掛け」ですね。ただ、結構いろいろなことを語りすぎちゃって遠回りしているから、先がどうなるのか見えないんですよね。ここに奥さんが入れば完璧ですけど、たぶん無理なんでしょうね。

山田 なるほどね。気になりますね!

柿内 竹村くんもこれから気になってくるテーマだからね!(笑)

一同 はははははは(爆笑)

山田 実はうちのスタッフに今回の投稿作品をざっと見せたら、このテーマはうちの独身女性スタッフにはぜんぜんウケなかったんですよ。だけど僕はこれいいじゃん! と思ってました(笑)

岡村 新書を買う人って、お金を持っていて結婚をしている人が多い気がするから、ターゲットとしては外れていない。

山田 そうそう!

柿内 まあ、編集者を刺激するものではあるけど、このままではぜんぜん本にはならないですね。あくまで題材としてのいい素材だな、と思います。

山田 うんうん。なんとかこれが本になれば嬉しいです。

アイデアの最大の敵はアイデア

柿内 『大人のための真・スパンキング入門 〜愛を込めて尻を打つ〜』(池尻アユム)。

山田 僕はこれ高評価ですよ(笑)

竹村 本当ですか!? じゃあ山田さんの講評を聞いてみましょう。

山田 だって「愛を込めて尻を打つ」ですよ!? 目次だけ見てもスゴイですよね。「尻を出して部下に指示をする」「処女を叩く」「叩いた女の尻に敷かれる」、最後、「私が叩かれる」って(笑)

柿内 たしかに、このテーマをよっぽど愛していないとここまでの熱量は持てないですからね(笑)。ただ、不倫と比べると、テーマがあまりにもマニアックすぎますね。

岡村 スパンキング団体の人が2000人いるとしたら、買ってくれて4000部みたいな。

山田 なんだ、スパンキング団体って(笑)

岡村 いや、あったとしたらですね(笑)

竹村 スパンキングだったらビジュアルが欲しいですね。

柿内 たしかに、ビジュアル本のほうがいいかもしれない。この人、まずはウェブサイトか何かでスパンキングをビジュアル化して広めてみたらどうかな?

山田 最後の方にある「アメリカはヨーロッパと並んでスパンキングの盛んな国です」って(笑)

一同 ははははは(大笑)

柿内 そんなんだ(笑)。知的好奇心は刺激しますけどね。

山田 ここは主観で判断する場だけど、これをいろいろな編集者に見せれば、「これは出さなきゃいけない!」って言う人がいそうですよね。

柿内 そうですね。ひと言いうとすれば、基本的にスパンキングに興味のある人がどのくらいいるのか、というところをプレゼンしなきゃいけない。興味が無い人にも前のめりにさせるってかなり大変なことなので、そこをもっと考えたほうがいいと思いますね。

山田 そうですね。もう一ひねりですね。

柿内 『ぶたれて分かった!中華思想』(西谷格)。これは面白いですけど、“で、何?”という感じなんですよね(笑)

山田 この手の本ってもうあるんですよね。中国とかインドに実際に行ってどんな感じだったか、というルポルタージュ。

柿内 たしかに、中国人ってよくわからないし、殴りそうだし、実際この人は殴られてるんですけど。そういったところをきっかけとした「中国人の見本市」みたいな本なんですよね。

山田 いや、それを中国人見本とするのかどうなのかも判断しづらいですよ。

柿内 まさにその通りです。

山田 目次とか見ても、ネタしかないんですよ。

柿内 そう。だからネタ本かと思っちゃいますよね。

山田 新書なら教養にならなきゃいけないので、現時点ではコンビニ500円本レベルですよね。

柿内 本当に中華思想が出てくるのかもよくわからない。

山田 僕らが思っている中華思想と実際の中華思想は違うのか、とか、そういうところまでいってもらわないと新書としては成立しないですよね。

竹村 現時点だとブログで十分かな、という感じ。本にするには、もうあと何段階か上を目指してもらわないと。

柿内 うんうん。

柿内 『脱オヤジ化(仮タイトル)』(老人太郎)。

竹村 これは小手先系ですかね。

柿内 この人は若くて熱意があるんですけど、まだ単なる企画屋ですね。アイデアマンなんでしょうけど、投稿作品が全体的に企画書として弱すぎます。

山田 普通ですね。個人のブログに書くなら丁度いいっていう感じです。

柿内 たぶん、いろいろ思いついちゃう人なんでしょうね。「アイデアの敵はアイデア」なんですよ。

山田 と、いいますと?

柿内 こういうアイデアがポンポン出てくるアイデアマンとか妄想家の人って、今日面白いと思ったことの持続力がないんですよ。だから、アイデアの最大の敵は、新しいアイデアなんです。それを根詰めて「本当のアイデア」にまで育てることができない。

山田 なるほど〜。

柿内 この人はそういったタイプですね。僕もかなりそうなんだけど。この人は5個とか投稿作を送ってきてるけど、どれもかなりイマイチ。

山田 もっとじっくり考える必要がありますね。

柿内 『努力をすれば幸せになれない』(山下アツシ)。

山田 自己啓発ですねえ。

柿内 これは要するに、努力が目的になってはいけない、という話。言いたいことは『仕事をしたつもり』(海老原嗣生)みたいなことなんですよ。

山田 この人が言いたいことは伝わってくるんだけど、まだ普遍化できていないというか、単純に言うと面白くない(笑)

柿内 そうなんですよね。言いたいことはわかるし、確かにそれはそうなんだけど、面白くない(笑)

竹村 この手の本はたくさんありますしね。

柿内 そう。まあ、頑張りましょうということで次いきましょう。

自分のお母さんに読んでもらおう

竹村 『「積極的悲観主義」のすすめ』(小木知足)。

柿内 やっぱり最近、「幸福」とか「つながり」とか、そこらへんのテーマが多くなってきてますね。

竹村 そうですね。

山田 山田 最近売れ始めている『絶望名人カフカの人生論』(フランツ・カフカ、翻訳:頭木弘樹)という本があるんですけど、これは絶望名人カフカの名言がたくさんあるんですよ。「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」とか(笑)。主義・主張だけじゃなくて、フックになるようなものがないとシンドイですよ。

柿内 適菜収さんの『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』は、ゲーテを出す必要は無かったけど、ゲーテという権威を前面に出すことによって興味を引きつけてから、自分の主義・主張を言っていますからね。この人も途中でパスカルが出てきてパーセルの引用とかがあるので、そういう教養っぽいところで引きつけつつ自分の言いたいことを挟み込んでいけばいいんじゃないですかね。

山田 それはテクニック的なことかもしれないんですけど、見せ方は大事ですからね。

柿内 『神社を知るだけでソーシャルメディア活用のプロになれる』(寄金佳一)。

竹村 この人は星海社FICTIONSの新人賞にも投稿してきてくれてますけど、熱さを感じますね。本の主旨としては、ソーシャルメディアというとちょっと難しいけど、神社を通して見ればわかりやすいでしょ? というもの。

山田 神社に詳しくないから逆にわからない!(笑)

柿内 ソーシャルメディアを通した神社入門の方がいいんじゃないの!?(笑)

山田 うん(笑)。少なくとも僕らの世代はソーシャルメディアのほうが詳しいから。

竹村 特に新書を読むくらいの人はFacebookとかTwitterをやっているでしょうからね。熱さもわかるし主張もわかるけど、もう少し客観性が欲しい感じですね。周りの人に自分が書こうとしていることを聞いてみて、反応があるのかどうかを確かめてみた方がいいと思います。全作に言えますけど、まわりの人、たとえばお母さんに自分が書こうとしてることを言ってみて、「なにそれ?」って言われたらダメですよね。それくらいの客観性をもたせて欲しいです。

柿内 そういった意味では、今は他人の反応を聞ける媒体もたくさんありますからね。試してみてほしいです。

柿内 『ガンダムなんて、大っ嫌い! 〜営業力も女子力もみるみる上がる「傾聴」をカガクする〜』(石川香苗子)。元リクルートで現ライターの方ですね。

竹村 「話を聞く」というのは、テーマとしてはよくあります。

山田 タイトルは好きですよ。

柿内 傾聴という言葉はなかなかいいですよね! ただ、プロとしてはまだもうちょいかな〜。

山田 これ、一冊になるのかな? とりあえず聴けっていう内容だから、1ページで終わる可能性がある(笑)

柿内 ケーススタディに自分はぜんぜん興味が湧かなかった。ガンダム、FPS(軍事ゲーム)ときて、その次にブライアン・セッツァーっていう違和感が半端なくて笑っちゃったけど(笑)

山田 この人、笑いのセンスはある方ですよね。

柿内 そうですね。あと、コラム「その道のプロの傾聴術」というところに、ご老人の話をずっと聞いてる離島の医者の話が出てくるんですよ。僕もサーフィンで千葉の片田舎に部屋を借りているからわかるんですけど、港でぼーっとしていると、結構変なおじいちゃんが声をかけてくるんですよね。でも言葉が訛っていて何を言っているのかぜんぜんわかんないんです(笑)。自分の祖母がボケたときに老人ホームにも結構行きましたけど、身内じゃない老人の話を聞き続けるのって、相当しんどいですよ。

山田 たしかに、そうですよね。

柿内 この離島の医者をこの人が取材して書いたほうが面白いですよね。

山田 僕もコラムのほうが興味がありました。コラムをもっと充実させて、この人の笑いのセンスを使えばこれもひょっとしたら10万部くらいいくのかもしれないですね。

柿内 コラムをメインにして、そこに自分の主張を入れ込んでいくほうがいいですよね。

山田 そうそう!

柿内 自分で出している項目は少しリクルート的というか、ちょっと営業的な感じで予想ができちゃったりするから、フリーライターなら他を取材したほうがいいかもしれないですね。

身近なことだけど、実はよくわかってない

柿内 『電子書籍にはできない125の新書でできること。』(林家ペーパー)。これはもうネタですね。

山田 これはネタなのでどっか他でやってほしいですね。

柿内 面白法人カヤックのコピーライターだから面白いことを考えてきた、という感じなんでしょうけど、紙ヒコーキはちょっと違うな。

竹村 『白い本』って何も書いてないけど毎年売れてるじゃないですか? そっち方向の発想なのかと思いますね。

柿内 でもこれ、絶対250ページまで続かないでしょ!? ネタ尽きるよね(笑)

山田 僕は250ページいっても出さないなあ(笑)

柿内 というか、せめて500個くらいはネタを出してくれないと、この状態では判断できないですよね。プロのコピーライターなら、500個くらいは出せるはずですから。

岡村 500個ですか!?

柿内 そうだよ、うちの兄が広告会社にいたときは、前日の夜に「明日までに企画100個出せ」とか言われてましたからね。一週間もあれば500は可能だよ。

山田 相変わらずハードル高いですねー。

柿内 『個性ない自分が、「さいたんルート」で『嫁』を愛でる!』(氷雨)。これはオタク系の人で、僕は正直よくわからなかった。

山田 キャラクター論だったら僕はアリかなと思いました。

柿内 キャラ論には興味あるんですけど、これじゃわからなくないですか?

山田 というか、なぜ富山県在住の農業をしている人がこれを書くのかがわからないです(笑)

柿内 大前提として、本になったときを想定して、「目次」や「はじめに」「内容紹介」とかを書いて欲しいと言いたい。それはみんなが本屋でこの本をパラパラめくったときに読みたいと思うかどうかという目線で僕らも見てるということなんだけど、これでは何の本なのかよくわからなくて、買う動機がまったくない。わからなくては、評価のしようがない!

山田 目次を見て思ったのは、なんか冗長な感じがするんですよね。できればそれだけで第1章を終わらせて、第2章、第3章では「嫁」をどうするのかとか、嫁と何をするのがいいのかとか進めた方がいいと思いますね。キャラの話だけで200ページは正直厳しいですよ。

柿内 もう少し作品の背景を知りたいですよね。

山田 せめて、嫁のプロフィールを知りたいです(笑)

竹村 つぎは『健康法の哲学』(阿弥龍一)です。これは、健康法ということでテーマは王道だし、骨盤とか整体とか武道とかいろいろな話があって、かなり興味深いかったですね。ただ、いろんなものを詰め込みすぎていて、何が言いたいのかイマイチよくわからなかった。

柿内 そうだね、「古今東西の健康法」じゃなくて、もうちょっと整理して何かを前面におしださないと伝わらないよね。「体温を上げると健康になる」とか(笑)。個人的には本物と偽物の区別が素人にはわかりにくくて好きじゃないジャンルだけど、健康はやっぱりわかりやすさ・伝わりやすさで勝負しないとどうしようもない。「50代でも30代に見える」とか(笑)

山田 本当にそうですよね。この人はまだまだ若いから、頑張って自分なりの哲学を万人に伝わるように翻訳してほしいですね。

竹村 『何者でもない庶民のための愛国マニュアル』(アライコウ)はどうですか?

山田 これはこの人が最低限デモに参加してみたりとか、右翼に体験で入ってみるとかした方がいいですね。所詮、ネットで得られる知識は薄いですよ。

柿内 薄くてのってないし、単純にあまり面白くないですね。

竹村 愛国はこれからも大切なテーマだとは思いますがもうちょっと取っ付きやすい感じにしてもいいかなと。愛国を伝えるのに「愛国」をタイトルに入れなくてもいいですしね。

柿内 伝わることが大事だからね。タイトルはそのきっかけに過ぎない。

柿内 『きっと何者にもなれないサラリーマンのための生存戦略』(高橋夏海)はどうでしょう。

山田 きっとこの人の中で『廻るピングドラム』がブームだったんでしょうね。

柿内 「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」ですか! でももう、これで完結でしょう?

竹村 そうですね、この「はじめに」で十分な感じがします。ちょっと暗い気持ちになりますけど。お金出しては買わないかも

柿内 『髪なんて、どこで切っても同じでしょ?』(ひととせまき)。理美容師のアシスタントは7、8時間水も飲めずトイレにも行けず、座ることすらできないらしいよ! 岡村君よかったね、星海社がすごくホワイト企業に思えてきた(笑)

岡村 編集のアシスタントでマジよかった!

一同 ははははは(爆笑)

柿内 こういう身近だけどよくわからない業界の内状って知りたいところがありますけど、ただ、お金を出してまで読むかというとまた別問題ですね。

山田 でもこれは、男性よりも女性のほうが引きが多いのかもしれない。僕はこれは『不倫の値段』に匹敵するいい作品だなと思います。これもうまくいけば10万部行く本かな、と思います。だって、理美容室って死ぬまで768回行くって書いてあるけど、金額にしても年間10万円くらい使うものじゃないですか? もう少し数字とかデータが入ってくると、この本はすごくヒットするんじゃないかなと思います。

柿内 数字の活用については、山田真哉著『食い逃げされてもバイトは雇うな』を読んでいただければ(笑)

山田 宣伝挟みましたね(笑)。ライターさんですから、頑張ればデータも出せると思うので。

竹村 散髪って身近なテーマですし普段思っていることでもあるので、いいかなと思いました。ただちょっとパイが小さいかなというところはありますね。

柿内 まあ不倫の方がパイが大きいよね! 髪は伸びるから仕方ないっていう印象ですけど、不倫は人間欲求の根幹のいちばんドロドロしているところだから。

山田 でも、髪はみんなが切るし、ビジネスのカラクリとかそういうところまで踏み込めれば、これはワイドショーとかでうまくパブにのりやすいなあと思いますね。

柿内 なるほどね。でも、教養とは関係がないなあ。うんちくの延長線上な感じがしますね。

山田 でもこれ、実は僕は読みたいです。500〜600円くらいだったら買う。1000円だったら買わないけど。

柿内 実際にあったら僕もこれは読みますよ。ただ、その後の「たんのうするポイント」みたいな話が、僕らが求めているのと違う方向にいきそうなんですよね。もう少し視点を広く持てれば良くなると思いますね。

マズロー禁止令!

柿内 『給料で会社を選ぶと、病気になる』(近藤惇)。

竹村 もう完璧に既にありそうな企画ですよね。本にはなりそうですけど。「これ、2005年に出た本です」って言われても、あ、そうなんだって思いそう(笑)

山田 ははははは(笑)

柿内 やっぱり、もうありそうな本というのにはあまり刺激されないですね。2005年くらいにあった本、っていうのがまた微妙(笑)。1960年代とかに発売されて、いまだにネタ本として売れているような本だったらいいんだけどね。このジャンルだったら、海老原嗣生さんを超えるくらいの意気込み・内容じゃないと、まるで勝負にならない。

柿内 『日本を救うコミュニティ』(二宮英樹)。東大医学部のアメフト部だということをやたらプッシュしているんですけど、プロフィールが企画の強みになっていない。コミュニティっていうのは、「つながり」とか「ノマド」とかと一緒で、特に若い人にとって旬のテーマなんですよね。みんながみんなアピールするテーマだから、相当にどっかに特化しないと、さすがに本にはなりませんし、本になったとしてもまったく売れませんよ。

竹村 「医療とコミュニティを結びつけて新しい医療を展開する予定」とあるので、そこまでできたら、その実地でわかったことをもう一回書いてほしいな。

柿内 あっそうそう、この企画ですがマズローを出しちゃダメだよ! その段階で読む気が失せる。まずはマズローを疑ってもらわなきゃ困る。

山田 そうですね。マズローはダメですね。僕らの知らない人物で知らない理論だったら面白いんですけど、マズローって安易な権威付けなんですよ。

柿内 今後の投稿者がマズロー出したら即、落とします(笑)。僕は本当に、マズローを引用するその安易さが大嫌いなんですよ。

竹村 次は『「行き詰まり日本」での就活術』(小林拓矢)ですね。しかしまあ、就活多いなあ〜。こういうのやってると時代が見えてきて面白いですよね。

柿内 「つながり」とか「幸福」とか「就活」とか、みんな同じテーマを考えてくるんだよね。標準的すぎるんだよな〜。

竹村 城繁幸さんとか就活に関することを書く人がいると思うんですけど、そういうのをちゃんと読んでから書いて欲しいですね。全体として、あまりにも“それどっかで読んだ”ってものが多すぎる気が。

柿内 僕が城さんらの本を編集してきてるっていう視点をもって投稿してきて欲しい。

山田 たとえば、この『「行き詰まり日本」での就活術』なら、じゃあ海外で就活するにはどうすればいいか、という内容ならまだわかるんですよ。

柿内 書いてる人自体は切実っていうことは凄くわかるんですけどね。単独の本でお金を取るレベルではないですね。

柿内 『「世界」と会おう ~ヨーロッパ迷い旅~』(鈴木陽太)。

竹村 ブログレベルな気がしますね。

山田 旅は旅でも、映画の『僕たちは世界を変えることができない。』みたいにカンボジアに学校を作ったりする人もいるわけじゃないですか? あそこまで突っ切らないと基本的に成立しないです。

柿内 これでは単なる旅行記ですからね。

竹村 応募動機に「就職活動に対し、危機感を覚えない自分を叱咤激励するため」とありますがが、そんなことのためにこの新人賞を使うなよ、と。

柿内 もう目的は達成したわけだから、いいんじゃない?(笑)

山田 いいと思います!

柿内 星海社新書は「武器としての教養」として、トータルとしては若い人へ向けた大きな流れつくりたいと思っているのですが、こんな作品じゃ、流れはつくれない。もしこの作品が、ユーラシア大陸の12カ国に行って12カ国の現地の古典を読んで歴史や哲学を語っていくとかだったらいいんだけどね。ロシアではドストエフスキーを読んで、フランスではバタイユ、ドイツではカントの古典を読むとか。

岡村 なるほど。

竹村 たしかにそれなら、ジセダイの教養になりそうですね。

「目から鱗」は3割で

柿内 『頭痛やうつ病が超簡単に治っちゃう魔法のレシピ18』(西嶋桜)。

山田 僕は意外と高評価で、薬事法とかに引っかからなければどこかで本にして出してほしい(笑)

柿内 「十代の頃に天国に逝きかけました」って、凄く軽いですね。

一同 ははははは(大笑)

山田 これもうまくいけばミリオンいく可能性ありますからね。だって、頭痛やうつ病が超簡単に治っちゃう魔法のレシピ☆知りたいもん\(^▽^)/ 頭痛とうつ病が並立しているのがなぜなのかわからないけど(笑)

柿内 本当に治るならいいですよね。

竹村 薬浸けになって悪化していく人もいるって聞きますからね。

山田 うつ病は本当にそうだから、切実な問題なんですよ。新薬とか試されたりね。このままの内容だと薬事法の問題で100%無理だと思うけど、ブログか何かでやってみて反響があれば本で出したいですよね。

柿内 こういう問題って結構難しくて、結局どれくらい本当なのかがよくわからないんですよね。古賀史健さんの『20歳の自分に受けさせたい文章講義』に「目から鱗は3割でいい」って書いてあるんです。というのは、本を読んで今までぜんぜん知らなかった目新しいことが9割とかあったら、途中でウソをつかれているんじゃないかと思って、信用できなくなっちゃう。だから、目から鱗の新しいことは3割でいい。新しいことだらけが書いてある本は、もしそれが本当だとしても受け入れてもらえないんですよ。それどころかトンデモ本として笑いの種にされてしまう可能性が高い。この作品も、そういう視点に立ってバランスを考えてほしいな。

山田 でもたしかに、新説ばかり入れると怪しくなっちゃうんですよね。だから従来の学説を入れつつ、たまに最新の学説を入れるという割合は大事ですね。信頼性って大事です。

柿内 大事です。特に歴史の本とかもそうですよ。

山田 この『頭痛やうつ病が超簡単に治っちゃう魔法のレシピ18』というタイトルも、「魔法」は最近よくある文言なのでいいですけど、「治っちゃう」という言葉が軽すぎて信用できないんですよね。

柿内 そうなんですよ。そうするとトンデモ本だと思われちゃうんです。

柿内 『20代で起業した者勝ち!』(小川大喜)。

竹村 タイトルだけ見ると、ホリエモンの時代に出されたような本ですよね。

柿内 『稼ぐが勝ち ゼロから100億、ボクのやり方』(堀江貴文)より面白くないとね〜!

山田 目次を見ると、社会保険の話とか決算書の話とかいろいろと具体的なことを書いていて面白そうなんだけど、それは起業実務本であって、それと若者を起業させようという自己啓発のような内容が混ざっちゃってるんですよね。本来なら2冊別のはずなんです。

柿内 たしかにね。

山田 あと、なぜ20代なのかという具体的な理由がないとダメだよね。たとえば、社会保険が安く済むとかね。

柿内 そうじゃないと、ただ「俺がやってんのになんでお前らはやらないんだよ!」って言ってるだけになっちゃうからね。たしかに、起業した当事者になってみるとわかるのかもしれないけど、当事者ではない人にその言葉は伝わらない。じゃあどうすれば伝わるのかな、というところがスタート地点にならなければならない。「未来のマーク・ザッカーバーグが公務員を目指す日本の恐怖」って言っても、公務員を目指す人の思考はまったく変わらないですよ。

山田 起業本に関しては2000年代前半あたりに精神論の時代がありましたけど、最近はぜんぜん売れてない。いま起業本をやるなら、より具体的な内容の方が受け入れられやすいので、そういうのを全面に出した方がいいのではないかと。

柿内 そうですね。今は「成長しろ」とか「起業すると新しい世界が見える」とか言われることに嫌悪感がありますからね。「起業」と言っちゃうとホリエモン的なイメージがあって嫌悪感を覚えるけど、今は実際、もっとミニマムに起業できますよね。PayPalを使えば個人でクレジット決済を利用できるし、ウェブで宣伝もできるし、コンセプトを明確にして、2人か3人で、ウェブ上のサービスを組み合わせながらミニマムレベルで事業をスタートすることができる。もともと日本は起業家だらけじゃないですか。街のブティックもスナックも立ち食い蕎麦も、ぜんぶ起業ですよ! そういった個人事業の現代版立ち上げ術みたいな本があれば読みたいですけどね。誰か書いてくれないかな〜?

面接とルサンチマン

柿内 『「プチ」イベンターになって、楽しくお気軽に「女」と「金」を得る秘伝』(水瀬翔)。僕は個人的にこれ、好きですけどね(笑)

山田 実は僕もこれは高評価です!(笑)

柿内 プチイベンターっていいなって思いますよね。言葉がいい。

山田 ちょっと読書会や勉強会やりましょうとか言う人いるじゃないですか? たぶんそっち系の人ですよね。

柿内 BBQとかね。なんでみんなあんなにBBQしたがるのかな。僕は電車から見える多摩川の川原でバーベキューをしている人たちがあまり好きじゃないんですけどね。中途半端な人たちが群れてる感じがして。ネイチャージモンはあそこにはいない。

山田 そりゃ、いませんよ(笑)。BBQがしたいというより、あのコミュニティが大切なんでしょう。だから僕は「コミュニティ」とか「つながり」とかのテーマを掲げるより、こっちの方が好きですよ。きっと中に書いてあることは一緒ですが。

柿内 下世話な人の本質を一般化して抽出するのって面白そうですよね。

山田 これも運が良ければ10万部くらい売れる可能性はありますね。『SPA!』にちょうどいい(笑)

柿内 たしかに、『SPA!』の特集企画にありそう。まあ、本音でいいですけどね。

山田 うん、いい! 

竹村 ちょっと1冊の本のするには軽すぎな気もしますが

柿内 うん、軽い!

柿内 『「ゆとり世代」という呪い』(小木知足)。ゆとりがそろそろ主張するようになってきましたね。ゆとり世代になるように社会が押し込めたのに、社会に出てみたら「お前らゆとり世代だから」と否定されるのは確かにやってられないでしょうけど(笑)

山田 だけどこれだとあまりにも普通すぎる。ゆとり世代がゆとり世代を絶賛するとかあってもいいんじゃないかな(笑)

柿内 古市憲寿さんは『絶望の国の幸福な若者たち』っていう逆説を唱えたわけじゃないですか?

竹村 そのへんの想いがもっとアツく書いてあったら、もしかしたらいいかも。50〜60代の偉そうな人たちが「ゆとり世代は覇気がない。俺ら戦後は」とか言うのが大っ嫌いなんですよ。

柿内 出た、竹村くんのルサンチマン(笑)

一同 ははははは(大笑)

山田 それはわかるんだけど、ルサンチマンの人の文章が読みたいかというと、よっぽどのことがないと、ただルサンチマンだけの人の本は読みたくないんですよね。

柿内 2chのスレッドなら読みますけど。

山田 タダだからね。ルサンチマンを書く人に言いたいのは、それを突破するものが欲しい。意外性とか、逆転の発想とか。

柿内 ルサンチマンの人には編集視点が必要なんです。

山田 その熱量は買いますけどね!

柿内 むしろ熱量しかないんですけどね。

竹村 『就活のバカヤロー!』とかを読んでいただいて、どう編集すればいいかをじっくり考えてほしいですね。

山田 さて次は『たった21フレーズを覚えるだけで、会話下手でも、初対面から、人に愛される会話術』(石崎秀穂)。これもベタベタのテーマですが

竹村 さすが出版経験があるだけに、完成度は高いと思いました。テーマも普遍的。タイトルも引きがある。そのまま出版しても耐えうるレベルではあると思う。ただ、そのぶん逆に、新鮮味に欠けて既視感があるかなあ、と。ジレンマですが。あとは単純に面白いかと言われると、首をかしげちゃうかな。

山田 そうそう、もう本を出してるプロの方なんですよね。あえてここで賞をあげる必要性は

柿内 うーーん、星海社ではないですね。

柿内 『第一次世界内戦(World Civil War I)への道 グローバリゼーションが産んだ世界恐慌』(弓原宗介)。これもさっきの話とつながるんだけど、中身としては面白いけど、どこまでが本当の話なのかわからない。

山田 参考文献が薄っぺらいんですよ。正直、大体は僕レベルでも知っている話なんです。視点は面白いですが。

竹村 せっかく東大で物理学をやってる人なら、そっちを書くべきだと思うんですけどね(笑)

山田 この人、見込みはあるので、もう一歩踏み込んでもいいのかな。次の作品に期待しましょう。

柿内 『ラノベでわかる現代選挙 -彼女は南の島の独裁者-』(弓原宗介)これも同じ人です。さっそく次の作品ですよ(笑)

山田 僕はこっちの方が断然高評価です! 実際にラノベを100ページ以上書いてきてくれているんですね。

柿内 山田さんから見てどうですか?

山田 ラノベ的にはまだちゃんと読めてないんですけど、企画は面白いと思いますよ。

竹村 でも、そんなに選挙について知りたいかな?

山田 そう、そこがね!

柿内 わざわざ手段としてラノベを使っているのは、皆が知りたかったけどなかなか知れないことをラノベでやさしく理解するためじゃないですか? 現代選挙っていうのは、みんな知りたいのかね?

山田 『ラノベでわかる物理学』とか、『ラノベでわかるブラックホール』とかだったら読みたいんだけどなあ。僕も選挙の本を書こうとして断念した経緯があって、それは選挙の本自体がそもそも売れないからという理由だったんですよね(笑)。結局、世の中の人が求めてないといけない。企画とか意図とかをこれだけ書ける熱量はすばらしいので、逆にラノベとして頑張ってほしい。選挙についてわかるラノベじゃなくて、選挙を舞台にしたラノベを書いてほしいな。

岡村 経済をテーマにしたラノベって結構あるので、そういう方がいいかもしれないですね。

柿内 じゃあ次はFICTIONSの新人賞に応募してもらう?(笑)

岡村 でも、これじゃダメですよ(笑)。うちはべつに『もしドラ』みたいに、難しい内容をわかりやすく伝える手段としてラノベ手法を用いている作品を求めているわけではないので。

山田 でも、この人のポテンシャルは凄くあるよね。人物賞があるならこの人かもしれない(笑)

柿内 『面接官を面接する! (凹んでいるヒマがあれば、その面接官を面接せよ)』(チヒロ)。また面接系か! FICTIONSの方は死神ばっか出てくるんですよ(笑)。

山田 そうなんですか?

柿内 うん。テンプレートなんです。だからいい加減嫌になってFICTIONSの座談会で死神と財閥令嬢を使うのは禁止って言ったら、前回、挑戦的に『死神少女が禁止されたからといって財閥令嬢の戦いは終わらない』っていうタイトルで送ってきた人がいたんです。

山田 ははははは(爆笑)

柿内 単純に、星海社にネタとして送ってきてるんです。そんな人生の貴重な時間を使ってネタを送ってくるなら、もう二度と投稿してくるなと厳しく言いました。こっちも人生の貴重な時間を使っているんだから。

山田 ははははは(爆笑)

柿内 こっちのミリオンセラー新人賞だと、面接とか若い人のルサンチマンがそれに近づいてきましたね(笑)

竹村 あと「コミュニティ」とか「つながり」とかですよね。

柿内 うん、そういうのはもういらないかな。よほどの切り口じゃないと。

ミリオンセラー新人賞、受賞なるか!?

柿内 『「ヒツジたちへの伝言」』(革命家 高澤大介)。出た、革命家!

竹村 テーマは『「やめること」からはじめなさい』(千田琢哉)と一緒ですね。文章が上手いからあの本は売れてるんですけど、この文量ではこの人が文章上手いかどうかわからないです。小手先かもしれない。

山田 そう思われても仕方ない。なぜなら、挙げている例がビジネス書でよく見るものなんですよ。このテーマは千田琢哉さんや安田佳生さんといった系譜があるので、それを超えないと。

柿内 この文章では編集者は口説けないですよね。これで編集者を口説けると思っている人が革命家を名乗っちゃダメです。

竹村 ぜひ革命の方を頑張っていただきたいですね。

柿内 最後は『占われるプロになる!』(松久新)。これはいちばん最初に寸評をした『明快オカルト入門』の人ですね。

山田 これいいですよ! 『明快オカルト入門』よりこっちの方が好きです。占う人が書くというのが斬新だし、女性の3人に1人が占いに行っていると考えれば、想定読者は2000万人いますから。今ならオセロの中島さんに読ませたい(笑)

竹村 タイムリーですね(笑)。まあ、でも、信じ過ぎると彼女のように人生をダメにする場合もありますから、占われる方もプロになる必要はあるかもしれない。

柿内 まあ、都市部に住んでいるほとんどの女性は、占い好きと思っていいでしょう。もしくはスピリチュアル好きか。

一同 ははははは(笑)

柿内 やっぱりこの人は本当に「伝えよう」と思って書いているのがわかる。

山田 この人はいずれ何者かになるかもしれない人ですね。

柿内 企画自体はまだ甘いですが、精進すれば筆一本で食っていくことはできそうですよ。

柿内 さて、これでひと通り終わりました。賞はどうしようか?

竹村 僕らはイマイチだったけど、山田さんから見たら好評価な作品もありましたね。

柿内 じゃあ、まずは山田さんに山田賞を決めてもらおうかな?(笑)

山田 えっ、そんな賞ありましたっけ!? まあいいや。では、会いはしませんけど、僕が応援している賞をつくるとしたら、『「プチ」イベンターになって、楽しくお気軽に「女」と「金」を得る秘伝』(水瀬翔)と『ラノベでわかる現代選挙 -彼女は南の島の独裁者-』(弓原宗介)ですかね。

柿内 それは山田奨励賞ということで! 特に特典等はありませんが、山田真哉さんがあたたかい目で応援します!(笑)

岡村 ミリオンセラー新人賞はどうですか、柿内さん?

柿内 うーん、今回はなし!! 残念だ。

岡村 そうですよね。

竹村 面白いものはいくつかありましたが、ダントツなものはなかったですからね。

山田 僕も「なし」でいいと思います。

柿内 次回に期待しましょう。0次会と今回の座談会、そして僕らの出版活動を見て、僕らの好みに突き刺さりそうな企画を送ってきてください!

岡村 ええと、新人賞はないとして、優秀賞はどうですか?

山田 そうだ、新人賞まであと一歩の人に贈る優秀賞がありましたね。

柿内 それについては、ちょっと協議しましょう。

    協議中

柿内 決まりました。優秀賞は、『占われるプロになる!』の松久新さんと、『不倫の値段~婚外恋愛で生まれ変わる人、人生を棒に振る人~』の露木幸彦さんです!! この2人には星海社に来てもらいましょう! あと一歩ではなく、あと二、三歩くらいですが、ちょっと実際に会ってお話はしてみたいと思います。その様子は、次回の座談会で!

岡村 第2回ミリオンセラー新人賞の締め切りは2012年04月30日23時59分59秒です。詳しい応募要項はこちらでチェックしてください!

柿内 ということで次回もヨロシクだ!

竹村 頑張ってください!

山田 次回も楽しみですね!