「これがミリオンセラー新人賞だ!」座談会
(後半)
年に3回行われるミリオンセラー新人賞の選考過程を余すところなくレポート。辛口・毒舌を交えつつ、編集部員とスペシャルゲストが、投稿された企画をひとつずつ真剣に見ていきます。
新書という「本」をつくるつもりで投稿せよ!
柿内 さあ、座談会も後半に突入しました!
岡村 柿内さん、新人賞に投稿したいという方は、具体的にどうすればいいんですか?
柿内 それを今から説明します。実際にどのように投稿していただくかというと、ウェブサイトの応募フォームに必要項目を記載し、送信していただくことで投稿完了となります。その各項目は何かというと、まずは「著者名」ですね。これは、本名でもペンネームでもOKです。
山田 ペンネームでもいいんですか!? じゃあ、「クリスティーヌ剛田」とか!
柿内 ジャイ子ですか(笑) ネタではないので、ふざけたペンネームにするくらいなら、本名で応募してください。DQName(ドキュンネーム)の方は、まじめなペンネームにしてもいいかもしれませんが(笑) 次は「タイトル」と「コピー」です。
山田 タイトルが「未定」というのは、アリなんですか?
柿内 ダメですね。すべての項目において「未定」は許しません。仮でもいいので埋めてください。そこらへんのセンスもチェックしたいと思っているので。記載していない場合は、応募規定を満たしていない、と判断します。「タイトル」はもちろん本のタイトルのことですが、「コピー」というのは何かというと、これは本のオビ(帯)に載せる文章です。たとえば、星海社新書の創刊ラインナップの一つである『武器としての決断思考』であれば、「東大×京大×マッキンゼー 最強の授業」、『仕事をしたつもり』であれば、「12時間働いて、仕事をしたのはたったの2時間!?」。『さおだけ屋〜』のキャッチコピーは「数字が嫌い、暗記も苦手。でも会計は知っておきたい!」という、今考えると「う〜ん?」と思ってしまうコピーでした(苦笑)
山田 当時としては良いコピーだったと思いますけど(笑)
柿内 新書というのはタイトルが「本の中身をあらわしているもの」でなければならないと考えているのですが、たとえば「○○入門」だと、タイトルだけでは他の本と差別化ができない。そこで、読んだ人の心に引っかかって、本屋で手に取ってもらえるようなキャッチコピーが必要になってくるんです。それがオビの役割です。ここは大切なところなのでしっかり考えてもらいたいですね。本屋さんに行って、他の新書がどんなコピーを採用しているか見てまわるだけでも、参考になると思います。
岡村 なるほど(メモを取り出す)
柿内 僕がこれまでに考えた帯のコピーで自信作は、『就活のバカヤロー』(光文社新書)の「コ…コ…コミュニケーション能力、ば、ばつぐんです……」というものです。はい?という感じがすると思いますが、漫画家の福満しげゆきさんに2コマ漫画を描いていただき、「就活のバカヤロー」という本のタイトルを見事に補強し、本屋でも手に取ってもらえるような、完成度の高い帯ができたと思っています。なんとその年の『新書大賞・帯部門』まで受賞しました。
竹村 あの帯はサイコーですね。
山田 あの、柿内さん。つまり、投稿者の方にもコピーセンスがないといけないということなんですか? 「タイトルやコピーがおもしろい」というのと、「本の中身がおもしろい」というのは別の才能ですよね。
柿内 そうですね。タイトル、キャッチコピーは重要ですけど、もちろんそれだけで判断するようなことはしません。タイトルやコピーは編集者が考えることが大半ですしね。ただですね、本の書き手の方にも、常に最終的に本になったときのことを考えて書いてもらいたいんです。その原稿が1冊の本になって、本屋さんに他の大量の本と一緒に並んだときに、その本のことを何も知らない読者は、はたして手に取ってくれるのか?手に取ってくれたとしたら、立ち読みでどの部分をどう読むのか? 面白いと思ってレジにもっていってくれるのか? そういったことまでイメージしながら、自分の原稿と対峙していただきたい。そうすれば、独りよがりなものにはなりづらくなります。山田さんと一緒に仕事をして感銘を受けたのは、山田さんはそういうところ、他の書き手が「作家はそんなことまで考えなくていいんだ」「そんな重箱の隅みたいなことを考えていては、才能がすり減る」などと思って軽視しがちなところを徹底的に考えているところでした。
山田 うーん、私からするとあたりまえなんですけどね。むしろ、考えすぎな面もあるくらいです(笑)
柿内 いやいや、山田さんのそういったこだわりは本当にすばらしい。僕も大いに刺激を受けました。
著者略歴にはストーリーを
柿内 で、次の項目は「内容紹介」です。星海社新書には表2の部分(カバーの折り返した部分)に「この本はどういう内容なんだ」という説明が書いてあります。これは実際に本を手に取って見ていただきたいですね。カバーの情報(タイトルとコピー)だけだと本の具体的な中身まではわからないことも多いので、ここに本の概要を記載します。『武器としての決断思考』の場合、「本書は、私がいま、京都大学で二十歳前後の学生に教えている『意思決定の授業』を一冊に凝縮したものです。今後、カオスの時代を……」という感じに、300文字ぐらいでまとめられています。『世界史をつくった最強の三〇〇人』だと、「本書は、世界史に登場する何千、何万人もの人物の中から、歴史小説家である私(小前亮)が『こいつが主人公の小説を書きたい!』という基準で321人を選んだ人物事典です……」ですね。
山田 4コマ漫画でもいいですか?
柿内 いや、どうしていきなり4コマなんですか(笑) 文章にしてください。それも300文字前後で。あとは「著者紹介略歴」ですね。本を手に取った方がそれを読んで、著者に対して興味を持つような、ストーリーのある略歴が望ましいですね。あと、情報として入っていると望ましいのは、なぜその本を書こうと思ったのか、もしくは、なぜその本が書けるのか、という理由づけです。会計士の山田さんが会計の本を書くのはわかるのですが、もし山田さんが政治の本を書くのであれば、なぜ会計士が政治の本を書けるのか、という理由づけがどこかに書かれていなければなりません。これは略歴ではなく、内容紹介のところでもいいかもしれませんが。
岡村 なるほど、なるほど(再度、メモを取る)
竹村 まあ、著者略歴を自分で書くのは難しいかもしれないですね。僕もウェブサイトに自分の略歴を書くとき、ものすごく苦労しました。
柿内 そうだね、オレも苦労したよ。著者さんにお願いしても、「○○大学卒業後、××に入社。肩書きは△△。主な著書は□□」といったありきたりの、固くてあまりおもしろくないものがあがってくることが多いんですよね(笑)最後に「目次案」。これはそのままで、目次(全体の構成)を書いてください。これも実際に星海社新書を読んでもらえれば、参考になると思います。ジセダイには試し読みコーナーがあるので、そこでチェックしてみてください。
初版10000部、3刷を目指せ!
柿内 くり返しますが、自分のなかの妄想でもいいので、新書として出来上がった完成形をイメージしてから投稿していただきたいと思います。それくらいの覚悟で投稿してきてください。編集部としては、本を「つくる」プロとしてだけではなく、本を「売る」プロとしての視点でも判断します。単純に「世の中にとって価値があれば良い」というだけでは判断しません。
山田 商業ベースに乗らなければ駄目、と。
柿内 そうですね。星海社はベンチャー企業なので、しっかり売れる本をつくっていかないと会社が回っていかないんです(笑) 「この本は売れなかったけど、良い本だからまあいいよね」ということをやっている余裕はなくて、「世の中にとって価値があって、ちゃんと売れる本」をつくっていかなければならないんです。これは本当にあたりまえのことですよ。良い本を作るというのは超基本中の基本であり、「価値のある本/価値のない本」なんてことが議論の俎上にあがることすらおかしいと思っています。
岡村 強気ですねー。
柿内 僕は「良い本」とか「価値のある本」とかいう言い方が大嫌いなんですよ。「売れなくてもいい」と最初から思っている人は、どっか他を当たってください。
山田 「ちゃんと売れる」というのは、どれくらいの部数を考えてます?
柿内 そうですね。ずばり、初版部数が10000部で3刷までかかる本、と僕は具体的に考えています。
山田 初版10000部、2刷、3刷で15000部ぐらいはいってほしい、と。
柿内 僕が駆け出しの編集者だった頃、尊敬する出版界の先輩から言われたのが、「2刷で満足していては駄目だ」ということでした。2刷というのは、発売直後のちょっとした勢いでいけるんですね。初速が良ければ。でも、勢いが止まってしまって在庫が余ってしまった、やっぱり刷らなければよかった、ということがけっこうあるわけです。でも、3刷というのはそうではない。初速の勢いがちゃんと続いて、しっかりロングスパンで売れるものでないとかからないものなんですよ。世の中の本の大概は初版で終わっていて、2刷までいくのが残りのほとんど。そんななか、僕は3刷以上までいって初めて、その本に対する編集者としての役割を果たしたと言える、そう考えています。初版10000部で3刷までかかる本、これを基準に判断していきますので、投稿者の方は「ハードルは高い」と考えていただいて結構です。
体重をのせて書け!
柿内 結局、企画というのを細分化すると「『誰が』『何を』『どう語るか』」ということが大事になります。『さおだけ屋〜』であれば「20代の会計士であり、塾講師で〝教える技術〟に定評がある山田真哉が」「会計学の本質を」「『潰れそうで潰れないお店(商売)』のカラクリから語る」ということになりますね。
山田 「『誰が』『何を』『どう語るか』」、ここは本当に重要ですよね。
柿内 新書はここがキモです。『武器としての決断思考』であれば「東大、マッキンゼーを経て、現在京都大学で教鞭を振るっているディベートの達人・瀧本哲史が」「ディベートの本質的な考え方を」「大学生・20代に向けて授業形式で語る」ということになります。
山田 「秋元康の弟子が」「ドラッカーの教えを」「小説形式で語る」と。
柿内 『もしドラ』はまさにそれです。なので「誰が」「何を」だけでは企画ではないんですね。「どう語るか、どう見せるか」というのが特に新書では重要になってきます。なのでそこをしっかり考えていただきたいですね。
山田 そういえば、書き出しの1章分も書くんですよね?
柿内 そうです。いままで説明した、いわゆる「企画書」の部分はもちろん大事なんですけど、それだけでは判断ができないので、初めの1章分を書いてもらいます。いや実際、企画書はおもしろいんですけど書いてもらったら……。
山田 全然おもしろくない、っていうのはありますよね。
柿内 正直、めちゃくちゃあります……。「論理的思考の達人」が書いているのに文章が論理的に破綻しているとか、企画は面白いのに文章にしたとたんに何が言いたいのか本当に意味不明だとか、話はおもしろいのに文章で伝える能力はゼロだとか……。
一同 (笑)
柿内 そういったときに、ライターさんを立てて本を作ることもありますが、新人賞に応募してくるジセダイの才能には、文章で自分の考えを伝える、ということに悩み、多いに悶絶してほしいと思っています。
岡村 か、柿内さん、ドSですか……。
柿内 いや、SとかMとか合コンじゃないんだからどうでもいいよ(笑)あれ、本当にくだらないよね。SとかMの話になるたびに、お前がどっちだろうがどうでもいいよ、と思ってるんだけど、まあ話の潤滑油に必要なのかね。血液型とか。話すことがないなら、とっとと解散すればいいのに。
岡村 か、柿内さん? 合コンに恨みでも?
柿内 合コンとか本当にむかつくわー。あれで彼女なんてできたことないし、どうせ第一印象で決めるんだったら、15分で自己紹介と連絡先の交換だけして解散すればいいのに。貴重な人生の時間を、話を引き延ばすことだけに費やすなんてまったくの無駄だよ。無駄無駄無駄!
山田 だから柿内さん、結婚できないんですよ……(苦笑)
柿内 というようなことが、11月に出す千田琢哉さんの『「やめること」からはじめなさい』(星海社新書)に書かれています。
山田 宣伝ですか!(笑)
柿内 とにかく、ミリオンセラー新人賞では、「書いて伝える」センスもかなり重視しますので、投稿者の方は応募する前に、その原稿が本当に伝わる原稿になっているかどうか、何度も読み直して考えてみていただきたいですね。
竹村 プロ中のプロのライターである古賀史健さんの文書術の本も星海社新書で出すので、それを読んでもらえれば、「伝わる文章」とはどういうものかがわかると思いますよ。
岡村 た、竹村さんも宣伝ですか!(笑)
柿内 あとは、企画で「『誰が』『何を』『どう語るか』」が決まっていても、それを具体的に文字に落とし込むときには、文章力だけでなく、構成力や取捨選択力、物語力なども必要になってきます。そういう視点がまったくないとちょっと厳しいですね。もし投稿された企画がよかったら、実際にその人に最後まで書いてもらうわけですから。
山田 日本語的に変でも、おもしろいものはおもしろいですよね。
柿内 日本語が変なのはべつにいいんです。「日本語のうまさ」を見たいわけではないので。文章力というと少し誤解が生まれてしまいますが、「うまいかどうか」よりも「伝わるかどうか」がホントに重要です。幼児の文章はクソヘタですが、「今日こんなに面白いことがあった!」ということは、すごく伝わったりしますよね。例が悪いかもしれませんが、とにかくですね、自分の企画を自分の言葉で語る、という「重み」が見たいんですよ。企画書だけじゃ重みはわからないんです。「どれだけ体重を乗っけて書けるのか」ということですね。机上の空論だけで書かれていないか、実際に1章分を読んで判断したいんです。
山田 なるほど。それはわかる気がします。
柿内 僕は小説の新人賞(星海社FICTIONS新人賞)の投稿作も読んでいるんですが、そこで(編集長の)太田さんがつまらない作品に対して「肘から下だけで書いている」と非常に的確な評価をしているんです。
山田 ゴルフや野球でよく言う「手だけで打つな」ということですね。
柿内 そうです。「肘から下だけで書いた作品」というのは、どっかで見たようなラノベの作品を3つ組み合わせて6で割っている、薄まってしまっている作品なんです。簡単に消費されて終わってしまうような作品に見えるんです。そんなものは読みたくない。いくら審査している立場とはいえ、人生の貴重な時間をそんなことに費やすのは嫌ですね。
大賞は新書になります!
山田 そういえば今回の新人賞は、企画内容とその講評をウェブにアップするわけじゃないですか。それをパクられる、という心配はないんですか?
柿内 ありますね。100%ある。だけどそれは覚悟の上です。ですので「投稿作はウェブサイトに誰もが読めるかたちで掲載いたします。なので、公開されたくないという方は、投稿されぬようご注意ください」ということははっきり明記します。
山田 ちなみに、新人賞受賞者に賞金は出るんですか?
柿内 出ませんね。その代わり、僕と竹村の2人が責任をもって判断します。そういった意味ではこちらの責任は重いんですよね。「柿内や竹村には判断してもらいたくない」と思われるのであれば誰も投稿してこないでしょうし、投稿者から編集者も評価されるわけですから。
竹村 ひとつの投稿企画に対して、僕と柿内さん両方が判断するんですか? それとも、どちらか片方だけが見て、片方だけが判断する?
柿内 全投稿を2人で読み、2人で判断します。
山田 大賞の具体的な扱いはどうなるんですか? あと、大賞以外にも賞はあるんですか?
柿内 大賞に関しては星海社新書で出版します。なので、印税も他の作家と同率でお支払いします。そして、大賞以外には優秀賞をもうけています。これは、出版にはまだ至らないレベルだけど、おもしろいところはあるので、私たちと実際に会ってお話をしましよう、という賞ですね。受賞者の方には星海社までお越しいただき、編集者と一緒に企画をブラッシュアップしていきます。「これで勝負ができる!」というところまで企画をつめていくことができれば、星海社新書化を視野に入れつつ、エア新書化します。
山田 エア新書!!?
柿内 星海社エア新書は、プロの作家の企画の一部が実際に本として出版される前に、その一部をウェブで無料で読むことができる、というものです。大賞、優秀賞の企画もエア新書として、本として出版する前に公開します。要は、まずはウェブでプロと同じステージに立つことになります。つまり、新人賞に投稿→大賞or優秀賞受賞→星海社エア新書→星海社新書、という今までにないプロセスを経て、出版することになるんです。
山田 なんか理解できたような、できないような……(笑) よくわからないけど、チャレンジングな賞だということはわかりました。
柿内 そうです、これは挑戦ですよ。いま我々はエベレストのベースキャンプにいるんです。そしてこれから、みんなで南西壁冬期無酸素単独登頂を行うんだ!
岡村 柿内さんの愛読する『神々の山嶺(いただき)』の話ですね。
柿内 そう、誰も行ったことのないことだから、挑戦するんだよ。滑落して死ぬ危険があったとしてもね。俺たちは羽生丈二であり森田勝なんだ。でも大丈夫、星海社というチームでアンザイレンを組めば、きっと登頂できるさ。
竹村 ミリオンセラーという山嶺か……(遠い目)
特定企画の募集も!?
柿内 いきなり思い出しましたけど、僕は「オカルトの教養」というテーマの本を読みたいので、書ける人はぜひ応募してきてほしいです。
山田 なるほど。じゃあ新人賞で「今、こういうものを書ける人、募集中!」みたいな感じで告知することも……。
柿内 あるかもしれませんね。あと、「結婚式業界の歴史と裏側」を語れる人も急募! 僕の頭のなかには『結婚式という名の暴力』という企画があるのですが、ただ書き手が不在なんです(笑)……僕は何年も前から「結婚式は1年に何回も休日に呼び出されて、しかも半ば強制的にご祝儀を払わなければならない……中身は金太郎飴みたいにみんな同じでクソつまらない……退屈で、貴重な時間をロスして、金も奪われる……これは暴力の定義に完全に当てはまるじゃないか!」と考えていて……。
山田 (笑)。確かにすごい暴力装置ですよね。
柿内 そうなんです。だからビジネス的にタブーが多い業界だと思うんですが、たとえば、『ゼクシィ』の元編集長が結婚式ビジネスに嫌気がさしてすべてを暴露する本! その名は『結婚式という名の暴力』! とかだったらおもしろそうじゃないですか。まあ、『就活のバカヤロー』はそういう視点で実際につくっていますからね。
山田真哉の『さおだけ屋〜』ができるまで
竹村 ちなみに、山田さんはどうして本を書こうと思ったんですか?
山田 いちばん最初に本を書こう、と思ったのは20歳のときです。当時はアルバイトで塾講師をしていて、そこで現代文を教えていたのですが、自分の行っている授業に自信があったんですね。「俺の授業っておもしろいんじゃないか?」と。
竹村 塾講師、と言っても要は学生のバイトですよね。その一介の学生が自分の授業はおもしろい! と思っていたわけですか(笑)
山田 「現代文なら俺の授業が日本で一番おもしろい!」と思っていましたね(笑)
柿内 その自信満々っぷりがいいですね。そういう、良い意味での「ヤンチャなバカ」、僕はそういう人が大好きです。「何かわからないんだけど俺の考えてることってすごいんじゃない?」とか思っている、その若さがいいんです。そういう人に投稿してきてほしいなあ。今考えると当時の自分のバイタリティやエネルギーってすごいと思いません?
山田 すごいと思いますね。うぬ惚れ具合も(笑)。で、講師として名を上げるにはどうしたらよいか、と考えたときに、本を出版して売れれば「兵庫の加古川に山田あり!」みたいに目立てるのでは、と思ったんです。なので企画書を書いて各出版社に送ったのですが、ぜんぜん駄目でした。
柿内 送付ですか? それとも持ち込み?
山田 ほぼ送付ですが、大阪の出版社にはみずから持ち込みました。
柿内 どんな感じでした?
山田 「ええ〜っ」って感じでした。僕は漫画の持ち込みのようなノリで行ったわけですが、相手はまったくそんな感じではなくて……。で、担当の方に企画書を見てもらって「おもしろいね。じゃあとりあえず預かっとくから」と言われて、その後なにも音沙汰なくて、半年経ったらその出版社が倒産しました。これが最初の企画の思い出ですね。
柿内 苦すぎる思い出ですね……(苦笑)
山田 で、いきなり現代文の本は無理だったな、と反省して、今度は学生らしい本を書こうと思いました。ちょうどそのとき就職活動を始めた時期だったので、就活本の企画書を書きました。それを就職活動の出版社大手3社に送付したら、1社から「うちで書きませんか?」と返事がきて、実際に出版しました。それが『ニュースの……』……あれ?なんだったっけ?
柿内 『これならわかる!ニュースの知識』ですよ。山田さん自身もタイトルを忘れてるじゃないですか(笑)。何部くらい刷ったんですか?
山田 3000部刷って2000部くらい返ってきたんじゃないかな……。大学4年のときに1年間かけて書いて、社会人1年目のときに出版されたので、そこが作家デビューですよね。プロフィールには載っていない黒歴史ですけど(笑)。まあ、その本には著者名として「山田真哉」とは出ていませんから。
柿内 そうでしたっけ?
山田 後に出た改訂版では僕の名前が出たんですけど、最初は僕の名前を出しても売れないだろう、という判断のもと、「就職活動研究会」という名で出しました。1人だけど研究会! という(笑)
柿内 まあ、よくあるパターンですよね。で、就職した先が……。
退職・逃亡・ニート、そして会計士に……
山田 某有名塾の吉祥寺校ですね。正社員(職員)として就職したんですけど、すぐ嫌になっちゃったんです。吉祥寺校には新入社員が8人配属されたんですけど、みんな5月病にかかって「校長ってホントに嫌なやつだよね」とか、その8人で毎晩話し合っていて……。
岡村 ホントに嫌ですね、そんな新入社員たち……(笑)
山田 で、5月のある日にいつものように同期で集まっていたら、そのうちの1人の女の子が「私、明日辞表を出す!」と宣言したんです。そしたらその横にいた男が「じゃあ、オレも明日、一緒に辞表を出しに行くよ!」と続いたんです。で、その隣にいたのが僕で「だったら俺も辞めたるわ!」と言ってたんですね。気付いたら……。
柿内 完全に、勢いとその場のノリじゃないですか!(笑)
山田 そうなんです(笑)。で、残りの5人はというと「じゃあ、3人とも元気でね〜」って感じで。
竹村 その5人は続かないんだ!(笑)
山田 で、翌日、言い出しっぺの女の子から順番に人事部長に辞表を出しに行きました。
柿内 人事部長からしたらビックリでしょうね……。同じ日に突然3人辞めるなんて迷惑すぎますし。
山田 そしたら、女の子と2番目の男は人事部長の部屋に入ってから30分くらい討論していたんですけど、僕のときは……。
柿内 「お前もかい!」って感じでしょうね。3人目ともなると(笑)
山田 そうだろうと思って、ひと言も喋らずに辞表を渡して塾から出て行きました。そこから武蔵小金井の下宿先にも寄らず、直で実家の神戸に帰って、布団かぶって悶絶してました。
岡村 直!?
竹村 凄まじい逃亡っぷりですね……。
山田 「会社から追いかけられたら……」という恐怖と「やっちゃった!」という思いから、そんな行動をとってしまったんですね。
柿内 今考えると、ほんとダメダメな人間ですね……。
山田 迷惑人間ですよ。塾側から見たら、研修だけ受けて本格的に働く前に辞めたわけですからね。迷惑極まりない(笑)
柿内 そんなふうに人生の大きなカーブを切ったわけですが、それがどうやって会計士に結びついていくんですか?
山田 家に帰ってから1ヶ月くらいはニートでした。ただ、ご近所の「山田さん家の息子さん、東京に行ったはずなのに、どうして最近みかけるんだろう?」という冷た〜い目があって……。
柿内 (笑)。ありますよねー、そういうの。
山田 「これはいかん! 初心に戻って一からやり直そう!」と思いました。ただ、働きたくなかったので専門学校に行って何か資格を取ろうと考えたんです。とりあえず「資格の勉強をしてます!」と言ったら免罪符になるじゃないですか。で、講師の人に何の資格を目指したら良いか相談したら、「山田さんは会計士に向いてます! 受かりますよ!」と言われたんです。で、会計士の勉強をすることにしました。
柿内 でも、山田さんは大学では文学部だったんですよね。なぜ会計士だったんでしょう?
山田 あとからわかったんですが、そこの学校では会計士講座の授業料が一番高いので、まずは会計士を勧める、というマニュアルがあるらしいです……。
柿内 完全にのせられてるじゃないですか!(笑)
山田 そうです(笑)。のせられて猛勉強して1年目で合格しました。ただ、会計士の日々の仕事や日常というものをまったく理解せずに合格してしまったんです。なので、会計士試験受験生に向けた、会計士の日常がわかる本や小説があればウケるんじゃないか、と思ったんです。そしたら会計士1年目のときに、運良く会計士協会の下部組織の広報委員長になったので、その権力を行使して専門学校の月刊誌で連載を始めました(笑)。そうしたら、人気が出てきたんです。
『女子大生会計士の事件簿』誕生!
柿内 結構、反応があったんですか?
山田 反応は大きかったですね。メールで「バックナンバーを読みたいのでwordを送ってください」とか結構きましたね。
柿内 「バックナンバーを読みたいのでwordを送ってください」って、なんかそのゲリラ的な感じが良いですね。
山田 反応が良かったので「これは本になるだろう」と思いました。いちいち別個にwordを送るのも面倒臭いですし(笑)。で、その専門学校の出版部に頼んでみたら、「そんなの売れないから駄目」と断られました。だったら前みたいに出版社に持ち込もう、と。前の本の企画は3社に送って1社からOKが出たんだから、今度はイケる!と思ったんです。
柿内 本を出した実績もありますしね。
山田 そうしたら今度は、その本を出した実績が裏目に出て……。
柿内 (笑)。なるほど! 言わなければよかったのか! 3000部刷って2000部戻ってきちゃったわけですからね。
山田 20社くらいに企画書を送付しましたけど、ぜんぜん駄目でした。逆に、そういう本ではなくて「簿記の本を書きませんか?」というお誘いはいただきましたが。で、普通の出版社は駄目だったので自費出版の会社に持ち込んでみたら、「素晴らしい! こんな名作はみたことがない!」と大絶賛(笑)
一同 (爆笑)
竹村 自費出版はね……褒めてナンボですからね。
山田 他にもう1社、自費出版の会社に持ち込んだんですが、そこでも大絶賛でした(笑)
柿内 出版社20社に送付して梨の礫(つぶて)だったのに、自費出版2社に送ってみたら両方超絶賛……。ザ・出版業界って感じですね〜。
山田 自費出版の方に、「共同出版というかたちでお金を出し合ってやりませんか? 200万円で500部です」と言われました。
柿内 そのくらいでしょうね。
山田 で、どっちの会社で自費出版するか悩んでいたんですが、たまたま友人が英治出版の「ブックファンド」というものを紹介してくれたんですよね。条件を聞いてみたら、170万円で3000部、と他の自費出版よりはるかに良かったんです。なので、その本を英治出版から出してみたら、よく売れたんです。
柿内 『女子大生会計士の事件簿』ですね! 僕がそれを読んで、山田さんに会いにいったわけです。主人公の名前が「カッキー」。ああ、呼ばれてるんだな、と思いましたよ(笑)
竹村 山田さんはそうやって何社にも自分の企画を持ち込んだわけですが、そのときどういう人が対応してくれました?
山田 たぶん編集部で手が空いている人、暇な人だったんじゃないかなと思います。
柿内 そこなんですよね。結局、下っ端であったり、そのときたまたま手が空いている人が見ると思うんです。で、見る側も正直なところ、持ち込みが来てしまったからとりあえず対応しなければならない、という感じだと思うし、「忙しくて持ち込みを見てる暇なんてないよ!」というのが本音だと思うんです。漫画と違ってノンフィクションには持ち込みがシステムとしてあるわけではないので。そうなると、持ち込む方も、持ち込まれる方も幸せにならないんですね。今回の新人賞はそうではなく、僕と竹村という、ノンフィクションの世界で戦ってきた編集者が本気で見るので、本気で企画を送ってきてください、ということなんです。そこは前面に出していきたいですね。
山田 僕は26歳のときに『女子大生会計士の事件簿』を出しているわけですが、今読んでも勢いはあるんですよね。日本語はめちゃくちゃなんですが。「会計士の日常をミステリー形式で伝える」という企画・切り口は、今の僕では出てこないくらいキレてるんです。でも、そういうものを書ける26歳って、実は世の中にいっぱいいると思うんですよね。
柿内 いるでしょうね。出版社・編集者との接点がないだけであって。この新人賞を設けた狙いの一つとして、そういった接点を生み出したい、というのもあります。
『さおだけ屋』裏話
柿内 『さおだけ屋〜』は実際にミリオンセラーになったわけですけど、それに関してはどう思いますか? 「ミリオンセラー新人賞」なのでミリオンセラーについて語っていただきたいのですが(笑)
山田 ミリオンセラーに関しては……、企画の切り口やタイトルが良かった、というのはあると思うのですが……、正直ミリオンセラーはどこから生まれるのかは、まったくわからないですね(笑)。10万部くらいなら、「この本はいきそうだ」というのはなんとなくわかるのですが、それ以上となると……時代と合っているかとか、一緒に出版された本のラインナップとか、営業さんがどれだけ頑張ってくれたとか、いろいろな要素が絡み合うので、狙って出せるものではないと思います。なので、「ミリオンセラー新人賞」は「ミリオンセラーの可能性を感じさせる才能の卵」が対象になるんでしょうね。
柿内 そうですね。あとは意気込みですよ。「100万人の人に読んでもらいたい!」という。日本人の100人に1人に読んでもらえる、というのはすごいことなので。とにかく世の中に影響力のあるものをつくっていきたいんです。新書は懐が深いので、単行本でこれは無理、という結構実験的な企画もできるんですね。星海社新書10月刊の『資本主義卒業試験』と『独裁者の教養』はどちらもそういった本です。
山田 それは、新書の培われた歴史と、値段のお手軽さからできることですよね。
柿内 『さおだけ屋〜』みたいな、「学問を理解させるのではなく学問に興味を持ってもらうことを目的とするのが、本当の教科書だ」という考え方が、今あらゆることに必要だと僕は思っています。
山田 僕も10冊くらい本を出してきて「あ、これは10万部超えそうだ」と思った企画って『さおだけ屋〜』だけなんです。それだけ企画として鮮烈だったんですよね。
柿内 当時は、新書という懐の深いハコの中で何ができるんだろう? といろいろ2人で考えましたよね。
山田 タイトル自体も、当時としてはチャレンジでしたし。
柿内 なにせ、編集長から最初は「こんなの駄目」って言われましたからね(笑)。他の案も100通り以上考えたんですけど、『さおだけ屋〜』より良いタイトルが浮かばず、編集長に2人で直談判しにいきました。まあ、当時の編集長からすれば、新入社員に毛の生えたような編集者と20歳そこらの会計士が目を輝かせて「このタイトルしかないんです!」みたいな感じでお願いしにきたら……ぶっちゃけちょっとかわいかったんじゃないのかな、と思います(笑)。僕も後輩がそんな感じで提案してきたら、「まあ、そこまで言うんだったら……やってみる?」くらいのことは言ってしまいそうですからね。
山田 そういう意味では、どこかで聞いたことのあるような企画よりは、チャレンジングな企画のほうが良いですよね。
柿内 テーマは同じでもいいんですよ。それをどう見せるか、どういう切り口で伝えるか、というのが企画ですから。なので、みなさんが本を読んでいて不満に思っていることを大事にしてほしいんですよ。最後まで読み終えられた本はどのくらいあるの? って話なんです。最後まで読み終えられなかった本の悪いところを指摘・分析して、自分ならこう書く、ということを意識して企画を考えてほしいんです。
時代を変えよう!
柿内 最後にまとめますと、いちばん言いたいのは、「若い力で一緒に時代を変えていきましょう!」ということです。やっぱり『さおだけ屋〜』が出版されたことによって、その後のノンフィクションのつくり方が変わった部分が確実にあったな、と僕は思っています。
山田 タイトルの付け方は間違いなく変わりましたね。
柿内 ゼロ年代を代表するノンフィクション作品の一つとして、『さおだけ屋〜』があったので、今度は10年代を代表する作品を一緒につくっていきましょう、という話です。なので、20代、30代のみなさん、どんどん勝負をかけてきてください。よろしくお願いします!
竹村 一緒に時代を変えるぞ!
一同 おお!!!!!!!!