じじいリテラシー
葉石かおり
20代のための、上司にかわいがられる技術——「上司が自分のことをわかってくれない」「やりたい仕事がで きない」「まわりがバカばっかでやってられない」とお嘆きのあなた。ひょっとしたらあなたは、根本的に勘違いをしているのかもしれませんよ。会社の上司や 先輩、もとい〝じじい〞たちのことを非難しても、何も生まれません。事実、ものごとの決定権は彼らが握っているし、仕事で関わる人間は圧倒的に年上が多い はずです。そして、じじいは反省もしなければ、あなたを「理解してくれる」こともありません。であるなら、彼らにどう取り入るか、いや「どうかわいがられ るか」を考えた方が生産的ですよね。じじいの〝ツボ〞を押しまくって、こっそり自分の思うがままに活用しちゃいましょう!
はじめに 20代のための、上司にかわいがられる技術
じじいとケンカして、会社をクビに
口を開けば会社批判。そりの合わない上司は完全無視で、合わせる努力すらしない。さして経験もないクセに、自分は「選ばれし人間」とカンペキに勘違い。思った通りの仕事をやらせてもらえないとフテくされ、「会社は自分のことをぜんぜんわかっていない」と手抜きをする。
挙句の果てに上司と揉め、周囲のことはおかまいなしに、自分の都合だけでいきなり会社を辞める。まったくもって身勝手で、かわいげがなく、「コイツだけは絶対、部下にしたくない!」と誰もが思うヤツ。
――実はコレ、かつての私のことなんです。
今でこそ「究極のじじい転がし」と言われる私ですが、過去2回の失職の原因はいずれも上司との衝突。上司に口答えし、女性週刊誌の記者をクビ同然で辞めたときは、さすがに「このままではいかん」と自戒し、大いに悩みました。
そして気づいたのが、上司、もとい「じじい」と対立するのではなく、その生態をちゃんと理解し、自分の思うがままに活用することが重要だということ。そして、そのための「心構え」と「技術」が自分には足りていない、いや、完全に欠落しているということでした。
つまり私は、「じじいリテラシー」の必要性に気がついたのです(リテラシーとは「活用する技術」のこと)。
あらためて周囲を見渡してみると、自分の会社はもちろんのこと、政界、財界、芸能界、宗教界……どの世界もじじいに満ちあふれていました。そう、世界はじじいで回っている――私は35歳にして、ようやくそのことを悟ったのです。
その後、「じじいリテラシー」を一からしっかりと身につけることで、私の仕事環境は激変しました。
もうひとつの顔であるきき酒師として「男性社会」である酒の世界で生きていられるのは、じじいリテラシーのおかげと言っても過言ではないでしょう。
以前のように、自分のことを棚に上げて、じじいが悪いと一方的に責任転嫁するようなことはなくなりました。
むしろ、じじいを味方につけながら、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会の副会長に就任させていただいたり、名誉きき酒師に任命していただいたりと、いろいろ責任ある仕事まで任されるようになったのです。
じじい転がしが功を奏し、現在お仕事をご一緒させていただく多くは、編集長や社長といった「肩書に〝長〟がつく方」ばかり。彼らは皆、決定権を持っていますので、自分がやりたい企画が通りやすくなり、仕事が一段とスムーズになりました。
このような自分の経験からも断言できます。
じじいに認められなければ、仕事はうまくいかないし、好きな仕事も一生できないでしょう。出世なんて夢のまた夢。社会人としての明るい未来は、じじいなくしてはありえないのです。
会社の権力はじじいが握っている
ここまで言っても、「ケッ、中年女のお説教じゃん」と思われる方もいるかもしれませんね。怖いもの知らずだった若かりし頃の私だったら、間違いなく「実力さえあれば、じじいなんて関係ない」と毒づいていたでしょう。
そのようにじじいを軽視する方のほとんどは、怪しい自己啓発セミナーに参加してみたり、やたら参加費が高い異業種交流会で名刺を配りまくったりと、会社の外へ外へと目を向けます。
それもまた悪くはないけれど、薄っぺらな人脈や数しか自慢できない名刺なんて、出世にはなんの役にも立ちません。会社という組織に身を置き続け、その中で成功したいと思うのなら、まずは何をさしおいても大事なのはじじい、それも身内のじじいを制することです。
だって、会社の主導権はじじいが握っているのですから。
今こそ、正しい「じじいリテラシー」を身につけ、近い将来のために確固たる地位を社内で確立し、好きな仕事ができるようになるための基盤作りをすべきなのです。
なんで「今」なのかって?
それは、かつてない不況時だからです。
いつまで経っても景気が回復せず、明るい光が見えない今、企業は新規の雇用人数(特に新卒の数)を減らし、守りの状態に入っています。そこに東日本大震災が追い打ちをかけました。
みな意気消沈していますが、だからこそ大きなチャンスなのです。
ちょっと考えてみてください。雇用人数が少ないということは、ライバルが少ないということ。つまりは「目立ったもん勝ち」なのです。
目立つといっても、「自己主張しろ」と言っているのではありません。じじいにかわいがられるためのノウハウをマスターして、「コイツ、今どきの若者にしてはなかなか骨があるな」と注目されるようになってほしいのです。
ぶっちゃけ、「じじいを上手に転がしちゃいましょうよ」ってことです。
すべてのじじいに愛を!
じじいを転がすといっても、すべてのじじいに通じる魔法のリテラシーなんてものはなく、タイプによって方法を変えないと効果はありません。
ということで、本書では会社に棲息するじじいたちを、
- オレオレじじい
- うんちくじじい
- 肉食じじい
- 茶坊主じじい
- 9時5時じじい
- 耕作じじい
の6タイプに分類。
過去20年までさかのぼり、私が見てきた数々の強烈なじじいをサンプルに、思わず「いるいる」と言ってしまうような、リアルなじじいたちの生態をまとめました。そして、タイプごとのじじいに合った実践的かつ効果的な転がし方、いえ、リテラシーを網羅しています。
各じじいの特徴を際立たせるために、あえて極端な例を挙げているところもありますが、確実にあなたの会社にもこの6タイプのじじいたちが「いる」はずです。
思い浮かぶ顔があるのではないでしょうか?
本書を読み進めるうちに、憎いと思っていたじじいに愛おしささえ覚えていくことでしょう。実はこの「愛」こそが、じじいリテラシーに欠かせないファクターなのです。
どんなに嫌なクソじじいとて、しょせんは人間。こちらが愛をもって接すれば、必ずや心を開いてくれます。
心が通じ合えば、コミュニケーションもうまくいきますし、かつ仕事も円滑になり、さらには信頼が増すことでやりがいのある仕事を任されるようにもなる。そうなると毎日の通勤も楽しくなりますよね。まさに人生バラ色です。
さあ、そのメソッドを本書から学び取ってください。
読み終えたあと、「このクソじじいが」と思っていた上司が、「愛すべきクソじじい」と思えるようになったら、じじいリテラシーはあなたのものです!