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ジセダイ総研

都知事辞職から考える、日本と中国の"せこい汚職"問題

高口康太
2016年06月23日 更新
都知事辞職から考える、日本と中国の

 米紙ニューヨークタイムズは舛添要一東京都知事の辞職を取り上げ、「せこい」という日本語を紹介した。マンガ購入や温泉旅行などの“せこい汚職”が有権者の神経を逆なでにしたとの分析だ。日本国内では“せこさ”に呆れる一方で、そのために50億円もの費用をかけて都知事選を実施することを疑問視する声があがっている。

 日本が舛添問題で揺れているなか、お隣の「汚職大国」中国でも“せこい汚職”が問題となっている。温泉旅行が東京都行政を揺るがす一大事件に発展したように、中国では「ゴージャスすぎる職員食堂」が習近平政権の基盤を揺るがしかねないリスクを秘めている。

習近平人気の理由

 江沢民、胡錦濤、習近平。近年の国家主席で一番人気は誰だろうか? 日本人的には「好きになれる人などいない」という答えが多そうだが、中国人の視点では異なる。人気最下位は胡錦濤だろう。執政期間に中国は高成長を遂げたとはいえ、インフレや環境汚染などの問題が噴出し、特に有効な対策も打てなかったという印象だ。しかもいつも苦虫をかみつぶした表情という愛想のなさとあっては救いがない。意外な人気があるのが江沢民。ガマガエル似の風貌とエキセントリックな言動がキモカワイイとネットユーザーにいじられる存在だ。

 そして一般市民から強い支持を受けているのが習近平だ。習近平をたたえる替え歌を流行らせたりといった宣伝戦略の影響もあるが、最大の武器は反汚職運動。私腹を肥やしている汚職官僚をばっさばっさと退治してくれるのだから留飲が下がるというものだ。習近平の反汚職運動というと、「元・中国共産党政治局常務委員の周永康に無期懲役の有罪」といった大物退治の印象が強いが、それだけではなく実に細々とした汚職退治が行われている。

 端午の節句にチマキをもらうな、中秋に月餅をもらうな、豪華な宴会やめろ、公用車で遊びに行くな......といった実に細々とした反汚職、紀律引き締め運動が展開されている。例えば中国を例えば中国を代表するタカ派新聞「環球時報」の胡錫進編集長は今年1月に警告処分を受けているが、その理由はドイツに公用旅行にでかけた際、ついでにポーランドを観光してきたというもの。この程度で処分を受けるなど、習近平以前の時代には想像もつかない事態である。

中国共産党中央紀律委員会が職員食堂を抜き打ち検査

 というわけで次第次第に細かくマニアックになってきた反汚職運動なのだが、槍玉にあげられた最新事例がなんと政府機関の職員食堂だという。香港紙『争鳴』4月号によると、中国共産党中央紀律委員会の王岐山書記は今年3月、中国共産党中央部局及び象徴の職員食堂22カ所で抜き打ち検査を実施。すると18の食堂で食品原価が販売価格を上回っていたため、税金で補填した激安お役所ご飯は汚職と同じだと是正命令が入ったのだという。

 職員食堂に補助金をつけて安くするぐらい許してもいいような気もするが、中国の"お役所ご飯"がやりすぎていたのは事実だ。これまでも何度か人々の怨念を集める炎上事件が起きている。例えば2011年の「貧困県お役所ご飯の1元メシ事件」だ。5年連続で特級貧困県に選定されていた中国トップクラスの貧乏県の政府機関食堂が1元(約16円)でバイキング方式の食事を提供したというニュースだ。1日3食職場で食べると、なんと約50円でお腹がいっぱいになってしまう。中国の食品物価、外食物価が嵐のように上昇し続けるなかでひどすぎると話題になった。

 2014年には重慶市農業委員会の食堂が軽く炎上。当時流行っていた「光盤運動」(食べ残しをやめよう運動)を導入した!俺たちは慎ましい!というアピールだったのだが、公開された食事はかなりゴージャスで、「毎日こんな昼飯食べているの?! 許すまじ!」と恨みの的となった。ちなみに重慶市農業委員会は「バイキング形式ですが、肉料理2種類野菜料理2種類しか選べないようになってます。俺たちは慎ましい!」とアピールを続け、「昼から4種類も料理食ったら十分すぎる!」と炎上は加速した。

 2014年、重慶晨報の報道。重慶市農業委員会の食堂で「ご飯を残さず食べよう運動」がスタート。慎ましさのアピールのはずだったが......。


 2015年には新華社が「"食堂腐敗"調査」なる記事を掲載している。習近平政権は反汚職運動の一環として公費でのゴージャス外食を禁止した。そこで「外食がダメなら自分のところで飲み食いしよう」と政府機関食堂が超ゴージャスにパワーアップ。五つ星ホテル並の設備と料理をそろえ、カラオケやミニシアターまで設置している食堂があったほか、自然公園の中に食堂を作り、山や川を見ながらの優美な食事が楽しめるというケースもあったという。

2015年4月、 澎湃新聞は「食堂腐敗」問題を取り上げた一部の政府機関食堂はホテル並の豪華さだという。

安心安全の中国食品「特供」

 ここまで紹介してきたのは市場価格とかけ離れた、激安で食べられるゴージャス飯というエピソードだが、もう一つ、庶民の怒りポイントがある。それは「食品安全問題に民草は怯えているのに、公務員の皆さんは安全安心な飯が食えるなんて」という恨み節だ。後者の怨念に応え、王岐山書記は政府機関食堂の抜き打ち検査と同時に、政府御用達安全食品、いわゆる「特供食品」(特別供給食品)をただちに廃止するよう指示した。

2016年4月、王岐山中央紀律委員会書記の「特供」禁止指示を伝える中国禁書網の記事

 「特供食品」とは政府機関や国有企業が独自に作らせた無農薬で安心な高品質食品をいう。その安全性が明らかになったのは2008年の北京五輪だった。中国国家体育総局は五輪選手に市内で出回っている豚肉を食べないようにと通達を出した。赤身の比率を増やす目的で「痩肉精」(塩酸クレンブテロール)が投与された豚が後半に出回っており、食べ過ぎればドーピング検査にひっかかる可能性があるためだ。

2011年5月、南方週末は北京市税関向けの特供食品生産農場の潜入リポートを発表した。

 実際に中国に遠征したドイツ人卓球選手がドーピング検査にひっかかった事例もある。市中に流通している豚肉を食べると、意図せずドーピングしてしまいかねないので、特供の豚肉だけを食べなさいと指導されたわけだ。偽物、劣悪品がどこかから流入してしまう中国でも、特供だけは安心できるというわけだが、一般市民の入手は困難。指を加えて、ただただむかつくことしかできないのだとか。

"せこい汚職"取り締まりのリスクとは

2011年、中国網の報道。ある貧困県の政府機関食堂が「1元ご飯サービス」を開始したところ、"やりすぎ福利厚生"として炎上。

 中国版お役所ご飯の"やりすぎ"は本当なのだろうか。ある地方国有企業の社員食堂で働く料理人のSさんに聞いたところ、あっさりゴージャスっぷりを認めた。

 「原価は1食あたり80元(約1280円)。食材だけでこの金額ですからね。そりゃ毎日ごちそうが食べられますよ。補助金があるので職員さんは1食数元しか払ってないのにね。今じゃ小汚いラーメン屋だってもっとするのにね」とあっけらかんと内実を暴露してくれた。

 安月給で働く料理人として恵まれすぎた公務員に怒り心頭なのではと聞いてみたが、意外な答えが返ってきた。「この程度の福利厚生は当たり前じゃないですか。それに私たちもまかない飯で同じ材料を使わせてもらってますからね。実はまかないを食べ過ぎちゃって、一日一食しか食べないこともざらなんですよ(笑)」

 自分が分け前にあずかることができなければやりすぎの福利厚生、ゴージャスな職員食堂は怒りの対象となるが、少しでも受益者の側にまわれば許せてしまうというわけだ。あまりにもわかりやすい考え方だが、これが人の性というものだろうか

 問題はこうした"せこい汚職"の加担者が中国にはごまんといる点だ。共産党員の数は8000万人を超える。そのすべてが利権を持っているわけではないが、党員の家族や上述のSさんのようなおこぼれをもらう人の数まで含めれば、数億人は恩恵にあずかっている。となると、"せこい汚職"の取り締まりを続ければ、庶民人気を得るどころか逆効果になりかねない。

 実際、「経費で飲み食いできなくなってせつない。基本給が安いんだからこうした役得がないとやってられない」「灰色収入(はっきり違法な黒い収入ではなく、グレーゾーンの賄賂)で稼ぐために公務員試験の勉強を頑張ったのにあてが外れました」というのはよく聞くところ。反汚職運動もまじめにやりすぎれば、習近平の権力基盤である庶民人気を台無しにしかねないリスクを抱えている。

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『龍が如く』『GTA』のゲーム実況禁止! 中国のユーチューバー規制とネット社会の変化(「ジセダイ総研」2016年5月2日更新記事)

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ライターの紹介

高口康太

高口康太

翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。

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ジセダイ総研 研究員

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