• ジセダイとは
  • サイトマップ
ジセダイとつながろう!

ようこそジセダイへ!混沌と変革に満ちたこの時代、あなたは、何と闘いますか?ジセダイとは?

  • Home
  • スペシャル
  • 連載
  • イベント
  • 新人賞
  • 星海社新書
  • ジセダイ編集部
  • twitter
  • Facebook
  • RSS
  • youtube
  • Ustream
  • SlideShare

HOME > 新人賞 > 新人賞投稿作品 > 「お願いです。働いてください」

新人賞投稿作品

「お願いです。働いてください」

柳川けんじ ※フリガナ:ヤナガワケンジ
2013年12月27日 投稿

コピー

生活保護ケースワーカー直伝!
弱肉強食の明日を生き抜く秘策

カテゴリ

暮らし

内容紹介

「生活保護」と聞いてあなたは何をイメージしますか? 「税金泥棒」「既得権益」「働けるのに働かない」―生活保護に対する世間の風当たりは強い。でも、ちょっと待ってほしい。弱肉強食の競争社会では、常に勝者と敗者がいる。お金持ちとお金のない人がいる。後者の行き着くところは、生活保護だ。僕たちは今、そんな時代を生きている。勝ち続ける自信がありますか? この先絶対に生活保護を受けることはない、と言い切れますか? もし、少しでも不安があるのなら、一緒に考えてみましょう。「なぜ」生活保護になるのか、「どうして」生活保護から抜け出せないのか。生活保護ケースワーカーが、「ニッポン社会の終着駅」を描き出す。

目次案・語りたい項目

はじめに 僕は生活保護ケースワーカー

第1章 あなたのとなりの生活保護
1円 地獄の沙汰もカネ次第
2円 働けない理由 働かない理由
3円 元気がなければ何もできない
4円 学校では教えてくれないアルコールの恐怖
5円 あなたも生活保護を受けられる

第2章 こころ優しき生活保護受給者
6円 オレオレ詐欺に騙されて一文無しに
7円 同僚の仕事を手伝っていたら過労鬱
8円 暖房いらずの湯たんぽおじいさん
9円 シングルマザーを支える女子中学生
10円 年老いた母親を放っておけない40男

第3章 生活保護ケースワーカーという職業
11円 役所のなかの不人気職場
12円 話を聴く人
13円 仕事の7割は事務処理
14円 突然の家庭訪問
15円 不正受給を突き止めろ!

第4章 生活保護を取り巻く諸機関
16円 熱血!ハローワークおばちゃん
17円 病院は慈善事業ではない
18円 自宅よりも快適な高齢者施設
19円 ホームレスの方々はお得意さま
20円 民間支援団体は侮れない

第5章 明日のための生活保護予防策
21円 ぎりぎりまで会社にしがみつく
22円 自炊できない人は既に予備軍
23円 「将来もらえるか分からない」年金でも納めておくべき
24円 稼ぐよりも守る方がはるかに難しい
25円 結婚は最強の保険

おつり 日本にいるかぎり餓死はしない

書き出しの第1章

 はじめに 僕は生活保護ケースワーカー
 
「子どもができたみたい」
 職場で電卓をカタカタ叩いていた僕のところに、一本の電話がかかってきた。
 相手の女性は、妻ではない。
 ひと呼吸おいて、努めて冷静に僕は尋ねた。
「おめでとうございます。ところで、お相手の男性はどなたですか?」
 彼女は、何も答えない。
「出産されますか? 相手の男性と一緒に育てていけそうですか?」
 彼女の沈黙に対してさらに質問を重ねるのは気が引けるが、これも仕事だ。
「彼氏はまだ学生なので、私ひとりで育てていきます」
 育てていくって言ったって、あなた無職で生活保護受給中じゃないですか、とは言えない。
「お仕事探しはどうなさいますか?」いつもながら、この問い掛けをするときは気を遣う。働かなければならないことぐらい、彼女だって分かっている。
「今、妊娠6ヶ月なので仕事は探していません。子どもが大きくなったら仕事を探します」
 彼女はまだ20歳そこそこなのに、生保(生活保護)ロングコースが決まってしまった。
「お子さんが1歳になるまでは、育児に専念していただいて結構です。でも、その後は保育園に預けて仕事を探してください」
 言い方が、いかにも役人ぽくて嫌な感じだ。僕は彼女の人生にここまで踏み込んでいいのだろうか。
「わかりました」短く消えそうな声が返ってきて、電話は切れた。

 僕ら生活保護ケースワーカーは、1年間に90世帯程度を受け持ち、受給者の話に耳を傾ける。年に数回は家庭訪問にも行く。すると、個々の家庭の「事情」が見えてくる。

 予定外の妊娠をしてしまった冒頭の彼女は、高校中退だ。彼女は母子家庭で育っている。気の毒なことに母親はアルコール依存症だった。毎日の食事は菓子パンばかり。
 彼女はアルバイトができる年齢になると、家を飛び出した。今から6年前のことだ。

 駅で自転車整理のアルバイトをしているおじいさんは、今年で70歳になった。「もうそろそろ引退してもいいのでは?」と僕が尋ねると、「人のお役に立てるってのは、いくつになっても気持ちがいいもんだ」とおじいさんは笑った。
 年金とアルバイト代で月の手取りがおよそ8万円。東京のアパートでひとり暮らしをするには、少し足りない。おじいさんは、月におよそ4万円を生活保護費として受給している。

 40代なかばで癌になり余命3ヶ月と診断された男は、病院のベッドから僕に言った。「わたしが危篤状態になっても、父や母には連絡しないでください」
 葬祭業者の手配をしてもらう必要があるので連絡しないわけにはいかない、と僕が答えると、「連絡するのは、わたしが死んでからにしてください」と男は懇願してきた。「生きている間は、両親に会いたくないんです。たとえ、自分の意識がなくなっていたとしても」

 生活保護を受ける理由は単純明快。お金がないからだ。
 生活保護は恥ずかしい? 競争社会に敗者がいるのは当然のことだと思うのだが。

 1億総中流の時代は、生活保護が恥だったのかもしれない。
「男性はみんな正社員になれて、女性は専業主婦として永久就職」そんなのんきな時代であれば、生活保護は他人事だったのかもしれない。
 しかし、時代は変わった。

 生活保護は、あなたのすぐとなりに存在する。明日は我が身だ。
 生活保護に対して批判が多いのは、実態がよく知られていないからに違いない。

「最後のセーフティネット」である生活保護を知れば、競争社会は怖くないはずだ。
 日本にいるかぎり、餓死はしない。
 弱肉強食の21世紀ニッポンを、大いに楽しもうではありませんか!

応募者紹介

柳川けんじ ※フリガナ:ヤナガワケンジさん

1984年神奈川県生まれ。中央大学経済学部(公共経済学科)卒業後、都内の役所へ就職する。最初の仕事は保健所での人口動態統計。出生や死亡の数を都や国に報告する仕事だが、死因の「自殺」の多さが気になる毎日を送る。「自殺の背景として無視できないのは経済的事情」という事実を知り、「日本の貧困をこの目で確かめよう」と決意する。役所内の公募に申し込み、2010年4月から生活保護ケースワーカー(社会福祉主事。訪問調査や自立のための助言等を行う)となる。好きな経済学者は、F・A・ハイエク。

ジセダイユーザからのコメント