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星海社新書

「安全保障ってなんだ?」「これだ!」『安全保障入門』レビュー(レビュアー:高口康太)

安全保障入門

安全保障ってなんだろう?

 2015年夏の平和安全法制の国会審議と反対デモもあり、よく見聞きするようになった言葉ながら、説明しようとすると意外と難しいのではないか。軍隊の話でしょと片付けようとすると、「食料安全保障」「エネルギー安全保障」「サイバー安全保障」といった新たな言葉の説明がつかなくなってしまう。安全保障はもはや軍事的侵略にとどまるものではなく、多種多様な分野を包括する概念へと発展している。

 この時点で相当やっかいなのに、加えて安全保障や軍事に関する日本社会のリテラシーが圧倒的に不足しているという問題もある。安全保障や軍事というと一部のマニアの趣味という偏見がまだ根強いのではないか。海外では安全保障や軍事は重要なニュースジャンルなだけに、一般人向けの情報が充実している国も多い。「戦争法案反対」や「今を戦前にさせない」といった紋切り型のスローガンを見ると悲しくなる。戦争をしたくない思いは大多数の人々が共有しているはずだ。そのためにどのようなやり方があるのかを摸索することが求められているのに、感情的なスローガンから議論は一歩も先に進んでいないかのように見える。

 平和安全法制反対デモの主催者「SEALDs」が運営するサイト「SEALDs POST」に「安全保障論から見た安保法制の3つの問題点」という記事が掲載されている。曰く、日中関係悪化は1996年の日米安保再定義の結果であり、安保法制によって中国がさらなる軍拡に走る可能性が高いという。中国専門家としてお仕事をさせてもらっている身からすると、「中国はなにも日本だけを見ているわけではないですよ」と苦言を呈したい。中国は独自の軍事発展計画を持ち国際情勢をにらみながら遂行している。ファクターは日本だけではないのだ。日本が軍拡しなければ中国も軍拡しないはずというのは相手を見ない、すなわち対話の意志を欠いた独善的な意見でしかない。

トッピング全部載せのラーメンです

 とまあこんな具合にせつない状況が続いているわけだが、それでも冷静に安全保障、軍事、戦争について説明してくれる一般書が増えてきた。その最新の一冊が石動竜仁『安全保障入門』(星海社新書、2016年8月)だ。軍事ブロガー「Dragoner」として知られる石動氏は軽妙な筆致と深い洞察で高い評価を受けてきた。ブロガーというと、日本ではたんなる趣味とみなされる風潮もあるかと思うが、同氏は『日本海軍用語事典』の執筆陣に名を連ね、また2015年にはロシアを取材するなど、書き手として着実に実績を積み上げている。本書はこの期待の新人による初の単著である

 『安全保障入門』の特長を一言で言えば、「個別具体的かつ網羅的」と言えるだろうか。ラーメンのトッピング全部載せと言い換えてもいい。きわめて抑制的な文体で、安全保障とはなにか、歴史的な経緯とは、現在の安全保障の問題とは、日本にとっての安全保障とはといった問題を丁寧に解説している。

 例えば上述の安全保障の定義について。「実は安全保障はかなり定義の難しい言葉で、万人が合意出来る完全な定義がないのが実情です。しいて言うなら、「国家・集団・個人を脅威から防護する措置」とでもすべきでしょうか」(『安全保障入門』25ページ)と簡潔にまとめた後、第一次世界大戦後に国際連盟を主軸とする集団安全保障の中で生まれ、オイルショックを受けての総合安全保障概念、さらに健康や環境までも包括する人間の安全保障概念とへと拡大していった歴史的経緯を解説している。

まずは議論できるだけのリテラシーを獲得しよう

 目次を見るだけでも「個別具体的かつ網羅的」な特長は見て取れるはずだ。

第一章:安全保障の論理
第二章:戦争の論理
第三章:平和の論理
第四章:世界の諸問題
第五章:日本の安全保障問題
第六章:これからの安全保障問題をどう考えるか?

 もっとも細かい節、小見出しを見ても

大量破壊兵器
 化学兵器
 生物兵器
 放射性物質
 核兵器
 なぜ核兵器を求めるのか
 爆発物

 といった具合に個々のテーマを掘り下げている点がユニークだ。他の安全保障に関する著作では理論面から解説しているものが多く、これだけ個々の事例を取り上げているものはないのではないか。

 ブログでの軽妙な筆致を封印し、抑制的な文章に徹したのは「政治的な主張をできるかぎり排除して、知識・教養として安全保障のなんたるかをお伝えしたい」(「はじめに」)との思いがあるためだという。上述したとおり、日本社会は今こそ安全保障のリテラシーを高めなければならない。誰もが専門家になる必要はないが、少なくとも何がダメな議論なのかの真贋をみきわめる力は必要だ。

 安全保障とはなにか、世界情勢の変化とはなにか、現時点での課題とはなにか、日本にはどのような選択肢があるのか。政治信条の違いはひとまず横においておいて、まずは議論を理解する知識が必要なのだ。その入り口として、本書はその大きな手助けとなるだろう。

ライターの紹介

高口康太

高口康太

翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。

書籍情報

タイトル 安全保障入門
著者 石動竜仁
ISBN 978-4-06-138595-5
発売日 2016年08月25日
定価 880円(税別)
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